Wouter den Haan, Martin Ellison, Ethan Ilzetzki, Michael McMahon, Ricardo Reis “Brexit and the economics profession: Are academic economists out of touch with voters and politicians” (VOX, 12 August 2016)
EUメンバーシップをめぐる英国レファランダムの結果は経済学専門家にとって深い自己省察の機会となった。経済学専門家のあいだではBrexit支持の投票がネガティブな経済的帰結を予測する点でほぼ見解の一致があったのである。本稿では、専門家を対象として2016年6月に行われたCentre for Macroeconomicsの調査を紹介する。これはレファランダムの結果に対し経済議論が果たした役割について、またアカデミックな経済学の研究成果 – ならびに専門家全体としての見解 – の伝達の在り方に関して制度的変革が必要であるか否かを問うものだった。意見は割れたが、制度変革を支持しない回答者であってもその多くは、アカデミックなマクロ経済学コミュニティと政策画定者ならびに広く世間一般との関係には幾つも考慮すべき問題が在ると見ている。
英国のEU離脱というレファランダム決定を経て、これから政策画定者は英国でもEUでも幾つかの困難な選択を迎えることになるだろう。こうした選択は、些末とは言い難くしかも後々まで影響の長引く結果をもたらす可能性が高いが、マクロ経済学者ならばこれに対してマクロ経済学的見地から助言が可能である。しかしここで幾つかの問いが浮上する。そしてそれは、関連諸国のニーズを正しく把握しようとするさいにマクロ経済学者に何ができるのかを尋ねるだけでなく、どうすればマクロ経済学の専門家全体としての立場を政策画定者と広く社会一般に対し効率的に知らしめることが出来るのかという点にも及ぶものである。
というのもレファランダム以前の段階で、専門家のあいだにはBrexit支持投票からのネガティブな経済的帰結についてほぼ一致した見解があったのだ1。もちろん経済議論のほかにも重要な論点は数多く在るし、また選挙やレファランダムの結果というものは極めて把握し難いのが通例である。しかし一部から、そもそも経済論議もエコノミストがどの程度自分の見解に自信をもっていたのかも、投票者や政策画定者には届いていなかった、という主張がでてきたのである。
たとえば英国財政研究所 (IFS) のディレクターを務めるポール・ジョンソンは、こうした意思伝達失敗の責任は専門家自身にあると主張しており2、次の3つの根拠を挙げる:
- 一、専門家は基本的な経済学の概念を伝達できていなかった。ジョンソンはBrexitレファランダムに係る議論との関連で、為替レートが下落すれば英国市民は豊かになるとか、一国経済における雇用数は一定で変わらないといった謬見の存在に言及している。
- 二、『全体としての迅速性・敏捷性・喫緊の重要問題に専念する姿勢の欠如』 も指摘される。
- 三、リーダーシップの欠如。とりわけエコノミストの見解を伝達する役割が、個人や、英国財政研究所 (IFS)・Centre for Economic Performance (CEP)・Centre for Macroeconomics (CFM)・国立経済社会研究所 (NIESR) といった機関に一任されてしまっている。
明白なのは、経済学専門家全体が何らかの重要な知見を効率的かつ明確に開示する必要があるとの確信に至った場合でさえ、それに対応して本格的に行動を起こすためのスキルとリソースを備えた (権威有る) 機関が存在しないことだ。このようなとき先ず頭に浮かぶ機関に王立経済学会 [Royal Economic Society: RES] があるが、これは現在のところそうした任務を遂行するような体制をもっていない。実際、RESのホームページを訪問してもBrexitへの言及など殆ど見当たらないのである3 。同様の事はCentre for Economic Policy Research (CEPR) にも当てはまる。同機関がここVoxのサイトでBrexitに関心を注いできたのは事実だが、一組織として関連討議に参加したことはなかった。これら組織が前述の問いに答える一機関としての立場を採用しない1つの理由は、それがさまざまな研究者の包括的ネットワークとして機能しているものだからだ。
サイモン・レン-ルイスは示唆する。「全体としての声をもてなかったことは確かだが、今回は書簡や世論調査がその埋め合わせとなった。… そしてそもそもの始まりから、Brexitの長期的コストは、平均的世帯にとってのコストという観点から示されていたのだ」。問題の一部は 『政治コメンテーターの間に広く見られた経済学に関する (そして今回のケースではさらにヨーロッパに関する) 知識の欠如』 に在ると彼は見る4。ポール・ジョンソンの批判についても 「気候変動について十分に警告しなかったと言って科学者を非難するのに似ている」 と付言している。
だが、問題は意思伝達 (だけ) ではない可能性もある。エコノミストが、典型的に英国市民の間で直面される問題と疎遠であるだけの可能性もあるのだ。アカデミックなマクロ経済学者の殆どはイングランド銀行や英国財務省と頻繁に遣り取りをしているが、ジョセフ・ラウントリー財団など、個人やコミュニティレベルで経験される社会問題ともっと直接的に取組んでいる機関とはそれほど頻繁な交流がない。そうすると問題は、経済学専門家が近代経済の恩恵を受けている階級の一員と見做されているというだけでなく、それとは別の階級の一員でもある – つまりEUメンバーシップから殊更に恩恵を受ける特権階級の一員であるということなのかもしれない。
今回紹介する最新のCFM調査では、経済学専門家には何らかの変革が必要なのか – とりわけエコノミストの見解をもっと効率的に伝達し、かつ可能ならば専門家全体としての見解を表明するために、(少なくとも) 或る種の制度変革が必要なのではないかとの問いに焦点が置かれている5。
別の分野では、権威有る機関が重要問題と関連して一般の注目を得ようとするのも決して珍しいことではない。例えば、王立看護協会は最近、資金援助削減およびそこから国民の健康に対して見込まれるネガティブな結果を警告する声明を出した6。こうした声明は報道機関によって広く取り上げられている。付け加えれば、報道機関は通例こうした声明をそのまま報告しつつも、しばしば追加的な背景情報も供給する。エコノミストの見解もまたメディアで報じられているが、そうした場面では、反対意見をもつ専門家がほとんどいない場合であっても、反論とセットになっているのが普通だ。
経済学専門家に関する制度変革?
さて1つ目の質問では、経済学専門家に関して 『何らかの』 制度的変革を真剣に考えるべきかが問われる。具体的な提案の無いままこうした質問に答えるのが難しいことは我々も理解している。また何らかの変革が必要だと考えるパネルメンバーであっても、どの様な変革が望ましいのかについては違いがでてくることだろう。したがって本調査で我々が明らかにしたいのは、専門家らは何らかの実体的な変革を真剣に目指すべきだと考えているのか、或いはそうではないのかという点のみである。
質問1: 経済学専門家には政策画定者ならびに広く社会一般とより効率的な意思疎通を行う能力およびエコノミストが統一見解を持っている時にはそれを明らかにする能力を向上させるような制度改革が必要である、という意見に同意しますか?; また、我々は協働の取組みを通じてこうした改善の実現支援を行う為のリーダーシップを導入する必要が有る、という意見に同意しますか?
41名のパネルメンバーがこの質問に答え、その内44%が同意または強く同意、7%が同意も反対もしない、49%が反対または強く反対という結果になった。自己評価による自信度でウエイト付けを行うと、均衡点は同意の方にシフト: 48%が同意または強く同意、46%が反対または強く反対、となる。
意見は割れたようだが、それでも同調査による質問の結果は次の2つの理由から注目に値する。
- 一、補足コメントに示されているが、専門家に関して 「制度的変革…またリーダーシップの導入が必要」 とは考えないパネルメンバーであってもその多くは、アカデミックなマクロ経済学コミュニティと政策画定者ならびに広く世間一般との関係に問題が在ることを指摘している。
- 二、ほぼ半数のパネルメンバーが、専門家の組織形態に関して何らかの実体的な変革の検討が必要なくらい問題は深刻あると考えていることは示唆的である。
本サマリーでは先ず、専門家が直面している問題だとパネルメンバーが伝えるものの幾つかを再検討するところから始めてゆく。続いて、専門家に関する変革は望ましくないか実現不可能であるとする理由が幾つか出されているので、その検討を行う。調査回答検討の最後に、何らかの変革が必要であるとする側から出されている幾つかの提案を取り上げ、筆を置くことになる。
或る種の経済問題はそれが多くの人にとって重要な意味をもっているのにもかかわらず、アカデミックな人員から十分な関心を受けていないと主張するコメントが幾つか出ている。チャールズ・ビーン (ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス: LSE) はこう書いている。「アカデミックなエコノミストは政策画定者や一般大衆の懸念ともっとしっかりと取組む必要がある。申し添えれば、一般的に言って経済学専門家はこの点に関してここ30年間退行を続けている」。レイ・バレル (ブルネル大学) は 「経済学専門家は政策的助言を軽視している」 と指摘する。具体例として配分問題や地域問題を、とりわけ貿易や移民との関連で挙げている。社会的結束や政治的安定性の問題についても話は及ぶ。
ニコラス・オルトン (LSE) は 「経済学専門家は民族紛争が経済成長に及ぼす影響についてなら喜び勇んで討論します。それがアフリカでの話ならば。しかしそういった議論も英国に関しては一切タブー、或いは経済問題ではないとして退けられてしまう」 と述べている。マーティン・エリソン (オックスフォード大学) は 「我々経済学者は貧困について、配分問題について、地域問題等々についても、金融委市場の監督や為替レートの値についてと同じくらい広長舌を振るわなくてはならないのです」 と言い添える。
一連の限られたトピックに活動が集中する理由を経済学専門家は幾つか挙げている。アンドリュー・スコット (ロンドン・ビジネス・スクール) はこう述べる。「我々経済学者は、独自の語法を練り上げつつ、自己増殖を続ける問題リストを展開しています。その結果として、我々の言う事にせよ、その言い方にせよ話題にせよ、もっと広い世間一般を煩わせている問題群から遊離してしまっている。専門家の多くがそうであるように、我々も内輪で語らう方を好み、喜んで独自の語法と概念を駆使しながら、そうした言葉を理解しないと言って他人を責める。或る意味、今回の調査もその新たな一例なのです。専門家以外、誰がこの結果に目を向けるというのでしょう?」。
レイ・バレル (ブルネル大学) は訴える。「我々の直面するインセンティブに変革が必要だ。昇進は研究成果の公刊とREF [Research Excellence Framework: 大学研究評価制度] 査定に掛かっているが、政策関連の成果物はあまり高く評価されていない。こういった現状が続く限り、我々の取組みが日の目を見ることはないだろう」。同様に、パニコス・デミトリアデス (レスター大学) もこう書き記す。「エコノミストがもっと実情と連関をもつようになるとしたら、先ずトップ学術誌が [支配的パラダイムに異議を唱える論文に対し] もっとオープンになるしかないだろう」。
確かに、経済専門家がいま或る種の問題に直面しており、そこに改善の余地も幾つか在るという点についてはコンセンサスが在るように見えるが、どういった対応が適切であるのかについては全くコンセンサスが無い。とりわけ、アカデミックなエコノミストの見解を代表するための制度やリーダーシップないし協働の取組みという案には強い反論がある。
繰り返し浮上する議論に、学問の独立の重要性がある。リカード・レイス (LSE) は書き記す。「知識人として、我々はやはり独立的に考え議論する時こそ良い仕事ができるものですが、こうした考えや議論が合わさって、特定の政策的選択肢に対し強力な異論を唱える場合もまたあるでしょう。… 何が 『共通の見解』 なのかを決定する 『リーダー』 の任用が、科学的探究の息を詰まらせ、窮極的には学問の自由を害する働きをすることも考え得るのです」。関連した議論がパトリック・ミンフォード (カーディフ大学) からも提出されている。彼の言葉を引こう。「通常、各陣営がどれだけの頭数をもっていたかを数え上げても、どちらが正しいのかは決まらない。これは凡そ科学の名を冠する全ての領域に当てはまる鉄則である」。
何らかの変革が必要であるという命題に同意するパネルメンバーのあいだでも、どうすれば変革を引き起こせるのか、とりわけRESの強化やリーダーシップの導入によってそれが達成できるのかについては、疑念が在る。しかし一部パネルメンバーからは具体的提案が出ている。ティム・ベスリー (LSE) はこう書き記す。「いま振り返ると、英国財務省は、幅広い領域から名の有る経済学専門家を抜擢して専門家団を立ち上げ、彼ら専門家に対しレファランダム前の段階で実証データの検討を進めるよう依頼すべきだった – こうした制度的対応案ならば私は支持したい。… LSE成長委員会は、長期的な経済実証データおよび問題群を検討する常設委員会の設立を推奨していた。同委員会は政府から独立的で、長期的政策画定にさいし幅広く助言を提供する能力を備えたものだった。… こうした専門家団が在ったなら、先ほど私が述べたような役割を果たしてくれたことだろう」。
サイモン・レン-ルイスはさらに、我々に必要なのは 「アカデミックなエコノミスト全員を対象とする (『花形』だけでない) 『定期的調査』で、核心問題に関するエコノミストの見解を明らかにすることだ」 と付け加えている。
最後に、一部パネルメンバーからメディアが経済問題を報ずるやり方に関しても改善の余地が在るとの主張が出ている点にも触れておかねばなるまい。デビッド・ベル (スターリング大学) は 「報道機関に自らの発言への説明責任をもっともたせる為のメカニズムが導入されること、またBBC憲章の見直しを通して、同放送局があらゆる議論には反対と賛成の両陣営が存在するとの印象を与える (したがって暗黙裡に両者を等しくウエイト付ける) のに終始するのではなく、専門のエコノミストのあいだにみられる議論のバランスを反映させるようになること」 を希望するという。
経済議論がレファランダムに及ぼした影響
次に挙げる一連の質問では、パネルメンバーに対し諸般の経済議論がレファランダムの結果に関してどれだけの重要性をもったかが問われた。彼ら専門家がこの問題に非常に関心を寄せており、また同時に注意深い観察者であるのも確かだろうが、本パネルメンバーは投票者が或る一定の投票行動を取る理由の解明を専門とする者ではない点を、我々は強調しておかなくてはならない。したがって我々は本調査を通して新たな領域に立ち入ることとなる。とはいえ、かなりの確信をもって提示されることも多かった諸般の経済議論が実際に何らかの役割を果たしたのかどうか、専門家に見解を尋ねてみるのは至極自然に思える。
質問 2: 英国の投票者が経済学専門家のほぼ一致した助言に反する投票をした理由について、何が最も有力だと思いますか?
1) 投票者は経済外の理由からEU離脱の選択をした;
2) 投票者は提示された経済議論を信用していなかったから (理由としては、例えば投票者にとっては反対意見を付したマクロ経済学者の議論の方が腑に落ちるものだった、或いは投票者にはそもそもエコノミスト一般に対する信用が乏しい等) ;
3) 投票者はエコノミストのもつ選好が自分達の選好から乖離していると考えている (予測されたネガティブな経済的帰結からも自分個人が影響を受けることはないだろうと投票者が考えていた場合も含む);
4) 同コンセンサスに至った理由をエコノミストは十分に明確な言葉を以て説明しなかったから; 或いは
5) 投票者はエコノミストのあいだにほぼ一致した見解が在ったことを知らなかった。
質問3から質問7では、今挙げた5つの可能性それぞれについて、それがBrexitという結果の 『重要な』 原因だったと思うかを尋ねた。
質問2も41名のパネルメンバーから回答を得た。多数派の54%は、英国の投票者が経済外の議論の方を重要視したことがBrexit支持投票をもたらした最有力原因だと考えている。投票者はエコノミストの選好が自分たちの選好と異なると認識していたとの見解も、Brexit支持投票の最有力原因として、22%という些末とは言い難い支持を得た。
これに対応するフォローアップ質問では、71%という大多数が (但し、『同意でも反対でもない』 を除外している) この不一致が実際に重要な役割を果たした旨を示唆している。関連論点は政治学者のマシュー・グッドウィンと オリバー・ヒースによる研究でも指摘されている: 「Brexit支持投票は謂わば 『置き去りにされた』 諸社会集団によって担われた。不安と悲観と疎外の感覚がこうした社会集団を1つに結び付けており、ブリュッセルにせよウェストミンスターにせよエリート層も自分達と同じ価値観をもっていて、自分達の利害関心を代弁してくれて、急速な社会・経済・文化的変化に対し自分達の抱える恐怖に対し我が事の様に共感してくれる、などと考えている者はそこにいない7」。
68%の多数派 (『同意でも反対でもない』 を除外) は、投票者は提示された経済議論を信用していなかったと考えている。補足コメントのおかげで、パネルメンバーがそう考える理由にも様々あることが明らかになっている。とりわけ、エコノミストの知見を広く世間一般に伝達するやり方について何らかの深刻な過ちがあったのかという点について、コンセンサスは全く無かった。
イーサン・イルゼツキ (LSE) は書き記す。「エコノミストはBrexitのコストについて非常に明朗に論じました。一般の人でもこうしたコストについて知らなかった者は殆どいなかったはずですし、また彼らも警告事項を大方信用していたと思います。この辺りことはメディアで非常に取り上げられましたので、Brexit支持陣営は守勢に追い込まれることになりました。我々経済学者のメッセージが一般の人に届いていないと感じたのなら、マイケル・ゴーブも 『専門家』 への攻撃や、エコノミストとナチ科学者との対比にまで手を染めることはなかったでしょう。Brexit推進者は専ら国家的プライド (『独立記念日』) や移民問題に訴えるキャンペーンを意識的に展開していましたが、それは経済的な費用対便益の文脈で戦っては不利だと知っていたからです」。
これとは対照的にデイビッド・コブハム (ヘリオット・ワット大学) は述べる。 「投票者は提示された経済議論を信用していなかった。それは部分的には非経済学者に対する我々の説明が下手だったことに原因がある。だから投票者はおそらく、エコノミストの見解の幅など殆ど見当が付かなかっただろう (こちらは部分的にBBCが 『バランス』 を取る義務を感じていたことが原因だった)」。
メディアが経済議論を紹介する仕方を問題とする者は他にもいる。モーテン・レイブン (ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン: UCL) のコメントを引こう: 「報道機関は論議状況を歪曲していた。BBCはその一例だが、Brexitを支持するたった1%の少数派エコノミストに対し、その他99%と同じ長さの放映時間を与えていたのである」。とはいえ、ほぼ一致した見解の存在を知らなかったことが重要ファクターだったと考えるパネルメンバーは30%に満たないし (『同意も反対もしない』 者を除いた場合)、それがBrexit支持投票をもたらした最有力原因だとする者は5%に満たない。
仮に、本パネルメンバーによる主要な査定が正鵠を射ているとしよう。すると、今回のレファランダムは専ら経済学以外の事柄に掛かるものだったのであり、エコノミストは経済議論が果たした役割についてさほど思い悩む必要はないのだと結論したくなるかもしれない。だから提示された経済議論が曖昧な所無くしかも公正に伝えられていなかった可能性についても気にする必要はない、と。
しかしもし、英国投票者の相当部分はエコノミストによって公に示された意見など 『彼らの様な人達』 にとって利益のある事柄を反映しているだけで、典型人の、あるいは/さらには、国全体の為になるのは何かという問題にフォーカスを置いた客観的研究とは関係ないと思っている、そうパネルメンバーが考え、それがほんとうに正鵠を射ているのであれば、アカデミックなコミュニティはこの事態を重く受け止めるべきであり、これは論を俟たない。
1つの案として、広い領域から代表者を選出し、非党派的な委員会を設立するというものが挙げられよう。こうした代表者ならば重要だと考えられる研究課題群の概要作成も可能なはずだ。そうして大学の側でこれら課題の進展にあたって代表者にどれだけ働きがあったかを重点的に評価することも出来るだろう。
さらなるインセンティブとして、政府資金援助 – これは例えば大学研究評価制度 (REF) によって決定するとして – を、こうした優先事案と関連した研究でどれほどの成果を収めているかに部分的に依拠させることもできるだろう。独立した審査体によるREFの見直しがちょうど公刊となったが、同案はここで推奨されている大衆関与や大衆理解へのインパクトを重視すべきとの意見とも整合的である8。
原註
[1] https://mainlymacro.blogspot.co.uk/2016/05/economists-say-no-to-brexit.htmlやhttp://cfmsurvey.org/surveys/brexit-potential-financial-catastrophe-and-long-term-consequences-uk-financial-sectorから閲覧可能な6月のCFM調査も参照。合衆国の主要エコノミストを対象とした最近の調査では、Brexitの投票結果が英国経済に (またその他EU諸国に) 長期的にもネガティブな帰結をもたらすと考える者が大多数だった。http://www.igmchicago.org/igm-economic-experts-panel/poll-results?SurveyID=SV_429IHJQVpBV1cnbを参照。 [2] http://www.ifs.org.uk/publications/8339を参照。 [3] 尤も、RESの2016年度年次会合の本会議でもBrexitについて討論が行われた。Voxに討論の概要がまとめられている: http://www.voxeu.org/article/royal-economic-society-s-panel-brexit [4] https://mainlymacro.blogspot.co.uk/2016/07/economists-brexit-and-media-epilogue.htmlを参照。 [5] 全調査結果はhttp://www.cfmsurvey.orgから閲覧可能。 [6] https://www.theguardian.com/society/2016/jun/18/government-reckless-axing-student-nurse-fundingを参照。 [7] http://www.matthewjgoodwin.org/uploads/6/4/0/2/64026337/political_quarterly_version_1_9.pdfを参照。 [8] https://www.gov.uk/government/publications/research-excellence-framework-reviewで閲覧可能。