Mark Thoma, “There May be a Complex Market Living in Your Gut” (Economist’s View, July 31, 2015 )
これはとても興味深い:
市場は生きている — あなたの腸の中にさえ!?: クレアモント大学院大学、ボストン大学およびコロンビア大学にそれぞれ所属する研究者らの調査によれば、社会が商品やサービスを売り・買い・交換する様態を説明する為に経済学者が過去150年に亘って用いてきた伝統的な理論は、もしかしたら、地球に生息する微生物の生態にまつわる摩訶不思議をも解き明かしてくれるかもしれないという。
7月29日、オープンアクセスの科学誌PLOS ONEで公開された本発見は、この地球上最も古く、最も小さな生命体の生態に関する新たな知見をもたらした。それだけでなく、生物の進化・繁殖といった一層大きな問題の解明に役立つ新たな枠組みの創出にも成功している。
クレアモント大学院大学で経済学の教授をしているジョシュア・タソフ氏は、ボストン大学生体医用工学部のマイケル・ミー氏およびコロンビア大学システム生物学部のハリス・ワン氏と共に本研究を行った。…
微生物 (microbes) は至るところに存在するが、彼らが相互に影響しあう入り組んだ過程は未だ十分に解明されていない。微生物の大半は複雑な構造を持つ集合体の中で生活しているが、そこでの分子や蛋白質の交換が彼らにとって死活問題となる。こういった大切な資源の交換を通して、自らの成長を図るのであるが、その様は近代的経済市場において商品を交換する諸国の在り方を思わせる。
この類似性に触発されてタソフ、ミー、ワンの三氏が応用を試みたのが経済学の一般均衡理論だ。複雑な経済活動における資源の交換を説明するこの理論を用いて、微生物集合体内部での資源交換の様子を解明しようというのだ。…
研究結果は当チームの予測を裏付けるものとなった。交換が盛んになるにつれ、細菌の集合体は成長速度を増したのである。しかし全ての微生物が交換から恩恵を受けている一方で、輸出量を増加させてゆく細菌株 (a bacteria strain [訳注1]) は、それとは別の、輸入する側の細菌株と比較して、成長速度を落としてゆく傾向が見られた。
「つまり生物の種は、自らが属する集合体の成長を優先させるのか、それとも交換の相手方と呼応した形で自らの個体数を増加させてゆくのかという二者択一の問題と直面することを意味しているのです」 とタソフ氏。
微生物に留まらぬ、様々な生物の集合体について、我々の理解を深めてくれるだろう経済学のコンセプトは他にも在る。本発見はそういったコンセプトの更なる応用の道を開くもの、そうタソフ氏は伝えた。