Mark Thoma, “When Economics Works and When it Doesn’t,” (Economist’s View, November 13. 2015)
ダニ・ロドリック(Dani Rodrik)へのインタビューからの抜粋
Q : あなたは本1.の中で、理論上の間違いが政策の間違いにつながる、その例を二つ挙げています。第一の例は、「効率的市場仮説」に関してです。2007年から2008年の間に起きた世界金融危機の直前期には、その仮説に基づいた解釈を過大評価してしまったこと、そのことがどういった役割を演じたのでしょうか。
A : 経済学における中心的なモデルは、「効率的市場仮説」が正しいとして作られています。しかしその前提条件には、すべての人が同意しているわけではないものがいくつか存在します。そのうちの一つは、「合理性の前提」です。例えば、扇動的な雰囲気による一時の流行、行き過ぎの楽観主義などは除外して考えます。そしてその第二のものは、外部性2.とエージェンシー問題3.の排除です。その前提の下で最適とされる経済政策は、より多くの自由化された市場とより少ない市場への規制、そうなります。金融危機の直前期の、長期にわたる住宅価格の上昇も、シャドーバンキングシステムの成長も、効率的市場仮説の観点からすれば、何ら問題となるものではないのです。金融の自由化とそれに伴う発展がこの社会にどれだけすばらしいものをもたらしたか考えて下さい。どれだけ多くの、以前は住宅ローンを組むことができなかった人々が家を手に入れることができたことか。でも、これは自由市場の社会的便益への有効性を強調しすぎています。一方で、景気変動、行動の偏向性、エージェンシー問題、外部性、「大きすぎて潰せない」という問題、そういったものを取り入れたモデルを使うと、同じ事象に対して全く違った答えが導き出されます。このモデルは、新興市場における公的債務危機を説明するときに使われるモデルでもあります。私としては、こちらの第二のモデルのほうがより我々の生活を良くするような答えを与えてくれるものだ、そう考えております。
訳注
1.ここで言われている「本」とは、ダニ・ロドリックの新刊書、”Economics Rules: Why Economics Works, When it Fails, and How to Tell the Difference”を指す。
2.外部性:ある人の行動が、その意思決定に関わることのできない他人へもたらす影響。単純な売買行為を理論化するには外部性は無視して考えられるが、環境問題などを考える際には無視できない問題となる。
3.エージェンシー問題:あるいは、プリンシパル-エージェント問題(Principle-Agent-Problem)と呼ばれる。財産の所有者(プリンシパル)がその管理、運用を第三者の代理人(エージェント)に委託した場合、所有者よりも代理人の利益が優先されることが起こる。所有と経営の分離がなされている株式会社では、株主がプリンシパルで経営者がエージェントとなる。