Carl Benedikt Frey, Ebrahim Rahbari, “Technology at work: How the digital revolution is reshaping the global workforce” (VOX, 25 March 2016)
時を遡った1960年代の頃には、コンピュータとオートメイト化は労働の減少と余暇の増大の前触れなのだと多くの人が考えていたが、その後議論の様子は変わってきた。今日の経済学者が議論しているのは、テクノロジー革新の為にどれ程の職が失われてしまうのかという点、これをめぐってなのである。本稿ではテクノロジーというものがいまその労働削減的性格をより濃くし、雇用創出的性格をより薄くしつつあるのか、この点の考究を試みる。オートメイト化による大量失業をめぐっての懸念は誇張されているようである –少なくとも現時点では。
歴史を通じて、鉄道や自動車また電話などといった革命的テクノロジーの到来は、一般労働者に莫大な雇用機会を創出してきた。しかしながら、今日のテクノロジー部門はそれに先立つ過去の産業がしてきたのと同じ様な機会を提供できておらず、この傾向は特に受けた教育の比較的少ない層の労働者に顕著である。テクノロジー産業における新規雇用創出にみられるこの下向きのトレンドは特に1980年代の 『コンピュータ革命』 以降には明白化しており、例えば、Lin (2011) の推定では、合衆国労働力の約8.2%が1980年代に登場してきた—テクノロジーの進展と関連した—新たな職業へと移行した一方で、1990年代におけるその対応値に目を向けると、これは4.4%に留まっているという。さらにBergerとFrey (2015) が実証したところでは、オンラインオークションや動画・音声ストリーミングまたウェブデザインといった2000年代のテクノロジー産業へと移行した合衆国の労働者は0.5%に満たないということである。同様に、Haltiwangerら (2014) が明らかにしたところでは、合衆国のテクノロジー部門のビジネス流動は2000年代に掛けて相当な減速をみせたという。
とはいえ、労働市場に対するデジタルテクノロジーのインパクトはこれまで相当なものだった。Autorら (2003) が説得力をもって証明したところだが、コンピュータは様々な領域で、ルーティンワークに従事する労働者に取り替わってきた。接客業・製造業の多くがこれに含まれるが –要するに典型的に所得分布の中間に集中する労働なのである。技能および所得分布の上層部と下層部双方における雇用成長にも伴われる形で、ルーティンワークのオートメイト化は産業世界全体に亘る労働市場の空洞化の一因となっている。
若干の例外を除き、職の二極化は既に発展途上国一般に見られ始めており、マケドニア・トルコ・メキシコ・マレーシアなどがこれに含まれている (WDR 2016)。その例外として最も目を引くのが中国で、同国では先進国の製造業オフショアリングを受けて中間所得職が急速な拡大をみたのだった。とはいえ、産業化の波に乗って繁栄に至る国はこの中国あたりで最後になってしまうかもしれない。20世紀のテクノロジー革新 –例えばコンテナ船やコンピュータ—はグローバルサプライチェーンの勃興に相当貢献し、企業が労働力の安価な土地に生産拠点を置くことを可能にしたし、近年みられたロボット工学や付加製造技術での発展のために、生産をオートメイト化された工場へと『リショア』することが先進国企業からみてますます経済的に有利と成っている。Rodrik (2015) が明らかにしたところでは、20世紀を通し、新興経済における製造業の雇用率ピークは一貫して減退していたという –これは労働力のオートメイト化をその因とすべきグローバルなトレンドであり、発展途上経済における将来の雇用創出に対し見過ごし難い困難を課すものとなっている。
その一方、職のオートメイト化の潜在的な対象範囲は急激に拡大してきたし、これからも不可避的に拡大を続けるだろうと見込まれる。歴史的に言えば、コンピュータ化の大部分はコンピュータコードによって容易に記述可能である明示的なルール準拠活動と関連したルーティンワークに限定されていたと言える。これと対照的に、近年のテクノロジー進歩はさらに広範な非ルーティン的タスクのオートメイト化をも可能にしてきたのであり、例えば車の運転や、乱雑な筆跡の解読などと言った類のタスクはほんの十年前までオートメイト化は不可能だと考えられていたものだった。しかしながら、今日ではこの様なタスクであってもオートメイト化が可能な程度には十分に理解が進んでいるのである。
この拡大を続けるオートメイト化の対象範囲が、世界中の労働市場での一種の分水嶺と成るかもしれない。最近の或る研究によれば、合衆国の雇用のおよそ47%はこういったトレンドの結果として起きるオートメイト化の影響を被り易いものであるという (FreyとOsborne 2013)。影響を被る職種はもはや生産やオフィス内事務に限られてはいないのである。リスクに晒されている業務は、ロジスティクスや運輸をはじめ、建築、さらには販売およびサービスの領域にも見出せる。したがって、過去においてオートメイト化の危険を免れてきた経済における非貿易部門も、現在は広くこの危険に晒されるに至っているのである。FreyとOsborne (2013) の方法論を採用して世界銀行が最近推定したところでは、オートメイト化の危機に晒されている職の割合は発展途上国ではこの上さらに高くなっているという –OECD地域における57%がオートメイト化の影響を被り易いものである一方、中国やインドでの対応値はそれぞれ77%と69%で、エチオピアでは労働力の優に85%がオートメイト化の影響を受け易いものだということである。
諸国の一人あたり所得と、オートメイト化の影響の被り易さには負の相関が存在し (図1を参照)、これがために発展途上国の方が相対的に言って危険に晒されているのだが (CitiとOxford Martin School 2016)、だからといって発展途上国は遠からぬうちにオートメイト化されてしまうのかといえば、必ずしもそうではない。高い賃金というものがオートメイト化への1つのインセンティブと成っている為に、オートメイト化の進行が速いのは先進国の方なのだ。けれども、発展途上国が影響を受けていないなどとはどんな意味でも言えないのもまた明らかである。中国は現在のところ最大のロボット市場と成っているし、またCitiの推定値によれば、現在中国におけるロボットの回収期間 (payback period) はたった2年という短さだという。
図1
だが、もしテクノロジーというものの労働削減的性格がより濃く、雇用創出的性格がより薄くなってきているのなら、依然としてこれほど多くの職が存在しているのは何故なのだろうか?
- 第一に、オートメイト化可能な職の全てが現実にオートメイト化されている訳ではない事が挙げられる –前途有望なセルフサービステクノが在るにも関わらず、合衆国では依然として3百万人を超えるレジ業務従業員が雇われている。
- 第二に、雇用創出はテクノロジー以外の要素に依存している事 –重要な点だが、1980年代のコンピュータ革命以降にみられた雇用創出の殆どは経済の非テクノロジー部門に由来するものである。
例えばSpenceとHlatshwayo (2011) の推定が示すところでは、非貿易部門、–つまりローカルに消費される財・サービスの生産をする部門のことだが–、によって1990年から2008年に掛けての合衆国における総雇用成長の優に98%を説明できるという。そしてさらに、この成長のうちの40%は政府およびヘルスケアサービス (市場力が専らの動因となっている訳ではない部門である) から来ており、他方で小売・建設・飲食および宿泊に関わる諸産業も相当な貢献をしていたという。
- 第三に、テクノロジーはテクノロジー部門を超えた領域に在る職に相当なインパクトを与えてきた事がある。
専門職サービス業といったテクノロジー利用部門は、情報・コミュニケーションテクノロジーの発展のおかげでその種の職務が広く貿易可能となったのをうけて、急激な拡大をみせている。付け加えれば、テクノロジー職はサービスに対するローカルな需要に相当な波及効果を及ぼす –1つ新たなテクノロジー職が加われば、それは地域の非貿易部門に新たなおよそ5つの職を創出するのである (Moretti 2010)。
工場におけるオートメイト化が進んでゆくというのはつまり製造業が吸収する労働者数の減少してくることを意味するが、これは発展途上国においても変わらないのであって、雇用創出の未来はより技能を重視した生産様式への移行の成否に掛かってくるのだろう。重要な点だが、技能職というのは一般的に言ってオートメイト化の影響を比較的受け難く (FreyとOsborne 2013)、ローカルなサービスへの需要を増やすものである (Moretti 2010)。最近の或る研究が示すところでは、発展途上国において1つの新たな技能的製造職が有する乗数効果は、非技能職の乗数効果の少なくとも3倍の高さとなっている –技能製造職の乗数効果はブラジルの13からインドの21というレンジになっている (Bergerら2016)。この様に、テクノロジーが全体的にみて将来の需要を減少させてしまうかもしれない可能性を消し去る事はできないにしても、今すぐ現実化する懸念という訳ではなさそうである。
結論
以前ほど多くの職を創出できていないとはいえ、今日のテクノロジー部門はローカル経済における非貿易部門に対する追加的需要を生み出すものであるがゆえに、その雇用創出へのインパクトは過去を遥かに上回っているのであって、翻ってこれが多くの先進国で散見されている製造業からサービス業への雇用のシフトの説明になっている。労働者の命運はしたがってバイオテクノロジー企業やコンピュータ会社の創出する雇用機会ではなく、こういった企業が創出するローカルなサービス業への需要に掛かっているのである。実際のところ、今日のテクノロジー部門がもたらす間接的な雇用インパクトは極めて決定的であって、雇用の未来がテクノロジー部門における雇用創出それ自体よりも乗数効果の大きさの方に多く依存してしまうほどなのである。拡大を続けるオートメイト化の対象範囲が意味しているのは、オートメイト化される低技能サービス業の範囲は今後ますます拡大して、潜在的には乗数効果の大きさをも縮減してゆくだろう事なのだが、一方では全く新しいサービスへの需要もまた同時に創出されている—ズンバのインストラクターやビーチボディで働くコーチはいまLinkedInで最も急速に成長している業種である。テクノロジーの変化に労働削減的性格がより濃く、雇用創出的性格はより薄く成ってきているとはいえ、大量失業を引き起こすオートメイト化なるものをめぐる懸念は幾分誇張されている様に思える、–少なくとも現時点では。
原註
1 これらの数値は直接的に比較できるものではない。新テクノロジーの到来により生まれた新たな職の比率を推定する事には幾つかの測定上の問題がつきものだ。とはいえ、同数値は新規雇用創出における下向きのトレンドに関して依然として示唆的であるといえる。
参考文献
Autor, D, F Levy, and R J Murnane (2003), “The skill content of recent technological change: An empirical exploration”, The Quarterly Journal of Economics 118(4): 1279–1333.
Berger, T and C B Frey (2015), “Industrial Renewal in the 21st Century: Evidence from U.S. Cities”, Regional Studies, forthcoming.
Berger, T, C Chen and C B Frey (2016), “Industrialization, Cities and Job Creation: Evidence from Emerging Economies”, Mimeo.
Citi and Oxford Martin School (2016). Technology at Work v2.0: The Future Is Not What It Used to Be.
Frey, C B and M Osborne (2013), “The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?”, Oxford Martin School Working Paper No. 7.
Goos, M, A Manning and A Salomons (2009), “Job Polarization in Europe”, The American Economic Review 99(2): 58–63.
Haltiwanger, J, I Hathaway, and J Miranda (2014), “Declining business dynamism in the US high-technology sector”, The Kauffman Foundation.
Lin, J (2011), “Technological Adaptation, Cities and New Work”, Review of Economics & Statistics 93(2): 554-574.
Moretti, E (2010), “Local Multipliers”, American Economic Review 100(2): 373-77.
Rodrik, D (2015), “Premature Deindustrialization”, National Bureau of Economic Research (No. w20935).
Spence, M, and S Hlatshwayo (2012), “The evolving structure of the American economy and the employment challenge”, Comparative Economic Studies 54(4): 703-738.
WDR (2016), “Digital Dividends”, World Bank Development Report 2016.