クルーグマン「オバマケアが改善すればするほど怒り狂う共和党」

Paul Krugman, “As Obamacare Improves, Republicans Just Become More Enraged,” Krugman & Co., December 4, 2013.


オバマケアが改善すればするほど怒り狂う共和党

by ポール・クルーグマン

Doug Mills/The New York Times Syndicate
Doug Mills/The New York Times Syndicate

HealthCare.gov はずいぶんマシになってきた.Amazon.com ほど見事に動いてはいない――でも,思い出そう,政府は主として人々にお金を与えようとしている――保険に助成金をだそうとしている――んであって,なにかを売りつけようとしてるわけじゃない.だから,すぐさま商業的なサイトほど見事な稼働をみせなくてもかまわない.

ただ,舞台裏ではいまだに深刻な問題がある――保険会社への情報伝送の問題だ.ただ,同サイトもすでに物笑いの種じゃあなくなってるし,これから改善していきそうだ.自由登録が3月31日におわるまでに,多くの人が登録するだろう.

ようするに,危機は去ったわけだ――オバマ大統領と民主党にとってはね.でも,共和党にとってはまさにこれからがはじまりだ.医療保険プログラムが犯罪的な不祥事だという考えを意地でも手放そうとせず,この正体さえ知れば群衆は大挙して熊手をふりかざしてホワイトハウスまで行進するだろうと思いたくて仕方ない共和党にとって,これからははじまりだ.彼らはなんだってやるだろう.終わりのない公聴会を開き,いつもの連中にあれこれと論説をたくさん書かせるだろう.もしかすると,〔CBSドキュメンタリの〕『60 Minutes』に,撤回すべきというレポートをさせるかもね.

そう,それに,まだまだ先のことではあるけれど,共和党は中間選挙でいくらか議席を獲得するかもしれない.でも,保険医療改革はほぼ確実に,峠を越したんだ.

© The New York Times News Service


受け入れがたい現実

先日,公的な発言をする機会の多いリベラル系の人たち数名とお外で楽しんできた(そう,白ワインを飲みながらね).

そのうち,話題は抗議メールになった――具体的に言うと,どの主題がいちばんヒステリックな悪口雑言をもたらすのかってことだ.他の面々が思い浮かべた主題はぼくの管轄じゃなかった.たとえば生殖権とか.じゃあぼくの場合はって言うと,2つある:保険医療と金融政策だ.

オバマケアをめぐるヒステリーは,もちろん,しっかり記録が残されてる.このまえ,ウェブ上の記事で Talking points Memo の Sahil Kapur が「オバマケア・マッカーシズム」について書いてる――国法に同調する気配を見せた共和党議員をすぐさま排除しようという動きのことだ.この記事は,しかるべき注目をたくさん集めている.

ただ,Kapur氏が強調してない点が1つある.それは,ぼくの受信箱にたくさんあふれてるやつだ(あと,ぼくが読むもののなかにもあふれてる):「健康保険の政府保証に類似したものは絶対にうまく機能するわけがない」と怒髪天で言い張ってるのが山ほどある.

なんとも興味深い信念ではある.なにしろ,他のすべての先進国はそうした保証をしているし,合衆国にだって45歳以上を対象にした単一支払者の制度があってずっとかなりうまく機能してきたわけだからね.

でも,オバマケアが実際にうまく機能しうるという示唆ほど,この手の人たちを怒らせるものはない.

で,それがこのところ悪化しつつある.この2ヶ月ほど,HealCare.gov の公開が大コケしたおかげで,連中の妄想が現実によって確証されたかのように受け止められたんだ.事態はよくなってきてるけれど,炎上してるのはみなさんすでにごらんいただけるとおり.こんなはずじゃなかった――だから,これはあるべき姿じゃない,というわけですな.いまやきわめてありそうなことに思えるけれど,もしオバマケアの登録目標数が2015年までにおおむね達成され,また,コストが穏当なものにとどまったなら,それは容認されないだろう――「こんなのぜんぶウソだ!」って怒りの主張があちこちにでてくるはずだ.

さっき言ったように,この種の怒りをつくりだすもう一方の主題は,金融政策だ.

右派には,連銀はドルを毀損して野放図なインフレをつくりだしているんだと知ってる――「知ってる」――人がいっぱいいる.この5年というもの,いまにもインフレが到来するぞという予言がハズレ続けてきたというのに,この信念はちっとも傷ついてないみたい.

保険医療論議でもインフレ論議でも,現実を許容できないと思う人が大量にいるってのが自明な結論だ――政府は医療保険提供でうまくやってるという現実や,〔金本位制じゃない〕不換紙幣は社会主義の惨劇に至る道じゃなくって経済を制御するべんりな道具になりうるんだって現実を,とうてい受け入れられない人たちはいっぱいいる.

そういう人たちは,これまでいつだって存在してたんだろう.新しいのは,近頃じゃ彼らが二大政党のかたっぽを支配しちゃってるってところだ.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

技術問題一掃

by ショーン・トレイナー

12月1日,連邦政府当局は,オンライン保険市場 HealCare.gov の機能が大多数のユーザーにとって改善したことを公表した.

10月の頭に立ち上げたとき,同ウェブサイトは――オバマ大統領の医療改革法案の目玉は――技術問題の続発に悩まされた.サイト利用者は,長い遅延とクラッシュの頻発を経験した.

議員やメディアの評論家たちから厳しい批判を受けた後,オバマ氏は10月下旬に「技術問題を一掃する」と発言した.この技術問題一掃にあたって,サイトの修復支援のために大手技術企業からコンサルタントと追加人員を迎えると述べた.

大半の点で,同ウェブサイトは大幅に改善している――オバマ政権によると,同サイトは稼働時間の95パーセントで機能している.これに比べて,10月には42パーセントでしかなかった.健康保険登録の増加ペースも伸びている.

残る重大問題は,同サイトの背後で行われる通信の信頼性問題だ.立ち上げ以降,同ウェブサイトから保険会社に送られた情報にはエラーが頻繁に含まれていて,一部の個人で,保険適用に署名登録したと思っていたのに実際には登録されていなかった懸念事例がうまれた.

12月2日,オバマ政権は,情報伝送エラーの80パーセントに関わるバグは対処済みだと公表した.ただ,同システムがいまだに経験しているエラーの数に関するデータの公表を当局は拒否した.ニュース報道によれば,いくつかの保険会社の代表が,こうしたエラーはいまも大きな問題のままだと言っているそうだ.

アナリストのなかには,HealCare.gov の開始がゴタついたことで,より能動的に市民に介入する政府の支持者は大きな打撃をくらったと見る人たちがいる.Slate のコメンテータであるマシュー・イグレシアスはこう書いている.「進歩派がやりたいと言うことを実際にやってのける能力が政治体制にあるのか,国民は長い間ずっと懐疑的だった.保険医療ウェブサイトが何ヶ月も遅れて予算を食いながら登場し,しまもいまだに完全に機能してはいないことで,当初はまさにその反証となるはずだったのに,こうした恐れを確証してしまっている.サイトがなんらかの意味で「機能する」かどうかに関わらず,それは事実なのだ」

© The New York Times News Service

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