●Tyler Cowen, “Who are the people I most admire?”(Marginal Revolution, February 9, 2015)
「あなたが一番に称賛したいと思う人物は誰だろうか?」 つい先日そのように問いかけたわけだが、本ブログの読者の意見を集約すると一番人気は「イーロン・マスク」という結果になっているようだ。
個人的な意見を述べさせてもらうと、成功しているクリエイターや科学者、起業家に大いなる称賛の声をといきたいところだ。その点、イーロン・マスクもうってつけではある。しかしながら、私なりに称賛に値する人々のリストを作成するとなれば最上位には多大な自己犠牲を払っている人々が名を連ねることだろう。試しにいくつか列挙してみよう。
1. 時に自らの命を危険に晒してまでも麻薬ギャング(麻薬カルテル)に立ち向かい続けているメキシコの司法当局のメンバーたち。彼らはメキシコに明るい未来がやってくることを信じて麻薬カルテルの壊滅に向けて心血を注いでいるが、その努力もやがては報われて最終的には麻薬戦争に勝利するに違いない。私はそう思っている。
2. マラリアやエボラウイルスの感染拡大を防ぐために長年にわたって厳しい環境下で苦難に耐えながら働き続けている公衆衛生の専門家たち。彼らは生活環境が悪い中で任務にあたっているだけではなく、時に自らの健康を危険に晒しながら働き続けているのだ。
3. アウンサンスーチーはどうだろうか? 彼女はミャンマーに自由をもたらす一助となることを心に誓って15年近くに及ぶ獄中生活を耐え忍んだのだ。
4. 3に比べるとスケールは小さくなるが、病院のやけど治療センターで働くボランティアの人々はどうだろうか? やけど治療センターで働くというのは決して愉快な仕事とは言えないだろうが、医療行為としてはかなりの効果を秘めている。
1~4の変種もいくつか考えられるだろうが、私としてはとりあえずこんな感じでリストの作成に取り掛かることだろう。リストの最上位には持ってこないだろうが、子供の養育者としての務めをきちんと果たしている世の親たちもリストのどこかに入れたいところだ。
政治家や公人に限定しなければならないのであれば、私ならベン・バーナンキに一票入れたい(バーナンキを真っ先に称賛したい)ところだ。
読者の反応を眺めていて感じたことだが、私と同じようなかたちで今回の問い(「一番称賛に値する人物は誰?」)に切り込んでいる人々があまりに少なくて驚かされているところだ。読者の全般的な傾向として言えることだが、オタクっぽいところがある白人男性に票が集中しているようだ。PC(ポリティカル・コレクトネス)的にいかがなものかと言いたいわけではないし、オタクっぽいところがある白人男性ばかりに票が集まっているからといってその集票プロセスはバイアスを抱えているとも矯正の必要があるとも言いたいわけではない。とは言え、私のリストには読者の多くの意見と比べると女性や非白人が入り込む余地が大きいらしいことも確かだ。私のリストには人間の経験の普遍性に対する(読者の多くよりも強めである私なりの)信念が反映されているのかもしれない。
エンターテイナーやアスリートの名前を挙げている読者が少ないのも注目すべきところだ。昔であればエンターテイナーやアスリートは(称賛に値する人物の)リストの上位に続々と名を連ねていたものだ(この点について詳しくは拙著の『What Price Fame?』をご覧いただきたい)。例えば1971年の時点であれば(ミュージシャンである)「ジョン・レノン」に多くの票が集まったことだろうし、(プロ野球選手である)テッド・ウィリアムズも全盛期にはその方面の人気投票で上位に食い込んでいたものだ。ここ最近の傾向としてはどうやらハイテクの分野や政治の世界が良くも悪くも我々の想像力をこれまで以上に強く捉えて離さないところがあるようだ。本ブログの読者層はとりわけその傾向が強いようだ。
(追記)ノア・スミスも彼なりに(称賛に値する人物の)リストを作成している。
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