Paul Krugman, “The Republicans’ Obamacare Hypocrisy: A Mystery Solved,” Krugman & Co., December 27, 2013.
共和党のオバマケア欺瞞:謎解きを1つ
by ポール・クルーグマン
『ワシントンポスト』のコラムニスト,エズラ・クラインは,保険医療をめぐる共和党の欺瞞に困惑してる(と,少なくとも本人は言ってる.ほんとはちゃんとわかってるんじゃないかと思うけどね).
長年にわたって,共和党が提唱してきたのは,市場と個人インセンティブの魔法を保険医療に持ち込もう,というものだった:控除免責歩合を高くして人々に「身銭を切らせ」たり,オンラインの保険交換市場で民間保険企業どうしに競争させたり(その競争には,ネットワークの制限によってコストを削減することも含まれる),そう,それにもちろん,アメリカ人高齢者の保険プログラムであるメディケアを削減したりとか,そういうやり方だ.さて,いま共和党は苦々しげに不平を漏らしてる.適正価格医療保険法 (Affordable Care Act) の保険には控除免責歩合が大きいものがあるだの,保険交換市場で〔企業を〕脅かすことに立脚しているだの,保険ネットワークの一部が制限されてるだの,メディケアが削減されそうだのと言ってる.〔※「ネットワークの制限によってコストを削減」:保険プランのネットワーク外の医師・病院で治療を受けたときに保険が適用されるかどうかが異なる.〕
今月でたウェブ上の論説でクライン氏が示唆するところによれば,共和党が本当に怒っているのは,オバマケアの他の側面なんだけど,取り上げやすい標的をねらったあげくに自分たちが言ってきた考えを攻撃しているんだそうだ.ある意味で,彼は正しい.でも,さっき言ったように,彼が言ってる以上にこの問題は大きくて,しかももっと単純なんだと思うな.
評論家のジョナサン・チェイトが「継承不確実性原則」という現象の基礎にあるのはなんだろう? チェイトは『ニューヨーク』誌でこんな風に述べている:
《保守的な医療保険の考え方は,確固たる存在にならずにいる不確実な状態にある.保険契約の内容は概要に書ける.ときには,詳しく書くこともできる.だが,物理的なかたちにそれらを再現しようとするどんな試みも,そうした案を瞬時に消失させてしまう.クラインが捉える問題の構図とちがって,これはとくに「欺瞞」の問題ではなくて,むしろ,保守的な医療保険契約が実際に存在するのかどうかというもっと深い形而上学的な問題だ.この問いは,私などより,もっとよく訓練された哲学的な知性の持ち主に問いかけた方がいいだろう.保守的な医療保険はどんな現実的かたちでも存在しないのだと,私なら考える.これを「継承不確実性原則」と呼ぼう.》
えっとですね,実はえらく単純なのよ.大半の医療制度改革は,不運な人たちを助けることを目的にしている――既往症のある人たち,雇用を通して保険が得られない人たち,保険料を出せるだけの稼ぎがえられない人たちを助けるのがその目的だ.コスト管理も,問題の構図の一部になっているけれど,主要な部分ってわけじゃあない.それに,いま起こっていることは,これまでぼくなんかがずっと主張してた論点を確証してるように思える:コスト管理と保険アクセスの拡大は互いを補いあう目標になっている.なぜなら,制度をもっと公平でもっと包括的なものにする大枠の一部になっていないかぎり,コスト節約策や控除免責歩合の引き上げみたいなことを政治家たちは売り込めないからだ.
で,ここが要点だ:共和党は不運な人たちを助けたいと思っちゃいない.連中は,既往症がある人たちその他の助けになると称するあれこれの医療制度案を持ち出してくるだろう――でも,そういう案は,実は提案じゃない.現実の医療改革を失速させるための陽動作戦なんだ.
かくして,右派が暴れてる次第だ.連中は,敵のレーダーをかく乱させるための目くらましにばらまけるものならどんなものでも使って,保険未加入の人たちに保険を実際に提供しようって試みをとにかく混乱させようとした.ところが,卑劣なる民主党のやつらめは,それを出し抜いて,まんまとそういう案を現実の改革にとりこんじゃったってオチ.
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【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
登録は順調に増加中
by ショーン・トレイナー
10月にウェブサイト立ち上げに障害が多発して以来,オンライン健康保険市場 HealCare.gov の機能は,大幅に改善してきている.また,新規登録増加ペースも劇的に高まっている.技術的な問題のせいでバラク・オバマ大統領の保険医療改革法が損なわれるのではないかという懸念は,やわらいできている.
政府当局によると,11月に連邦政府の保険交換市場を通じて民間保険適用に登録した人数は11万人を超える.その前の10月には,同ウェブサイトの不調が長引いたために,2万7千人未満しか登録できていなかった.初期の報告をみると,需要は12月にも急増しつづけ,第1週だけで12万2千人が保険を購入したようだ.登録人数の総数はいまもウェブサイトの失態以前に立てられた予想を下回っているものの,連邦政府当局のかねてからの予想では,登録はゆっくりと滑り出し,それから12月23日を前にして急増するだろうと見られていた.1月1日にはじまる保険適用を購入するには,この23日が期限になる.また,さらに,2014年度の保険適用申し込み期限は3月31日で,同じくこの前に登録は急増するだろうと予想されている.
ワシントンでは,この医療保険改革法をめぐる論争の軸は,大部分が他の効果に移っている.共和党議員や評論家のなかには,オバマケアこと適正価格医療保険法によって消費者が身銭を切る医療コストは増加し,保険プランをとおして利用できる医療提供者の数を制限していると主張している.
だが,この改革法の支持者たちによれば,そうした批判は実態をゆがめているのだという.『ナショナル・ジャーナル』に最近寄せた記事で,同誌の医療問題記者サム・ベイカーはこう論じている.「あることが起きていて,かつ,オバマケアが存在しているからといって,オバマケアが存在しているがゆえにそれが起きているということにはならない.(…)適正価格医療保険法は,保険医療に関して――ことによると経済全体に関して――自分が気にくわないあらゆることの非難を向けるための,安直なスケープゴートになってしまっている.オバマ大統領が選ばれるずっと前から医療制度の一部として存在し,べつに同法がつくりだしたわけでもない種々の傾向や経済的インセンティブ,基本的な現実事情を理由にして,非難を浴びせかけられているのだ.」
© The New York Times News Service