イギリスのEU離脱とトランプには類似点がたくさんある.どちらも権威主義的な運動で,ただひとりの人物についてであれ,ただひとつの国民投票(みんなの目をくらませてしまった投票)についてであれ,権威者が嘘をついている.この権威者は,運動のアイデンティティを体現している.どちらの運動も非合理な運動だ.つまり,運動の願望と衝突してしまうときには専門知識を脇に置いてしまう.その結果として,運動の支持基盤はあまり教育水準の高くない人々になっているし,大学は彼らにとって敵と目されてしまっている.どちらのグループもナショナリズム色が強い:どちらもアメリカやイギリスを再び偉大にしたがっている.
どちらのグループも,おなじみの概念に関連づけやすい:階級だの,人種だの,その手の概念とあっさり結び付けられる.だが,そうやって分類すると,大事なことを見落としてしまうと思う.どうして彼らがああいうことを信じてまとまっているのか,あれほどしょっちゅう現実と食い違ってしまう世界観をどうして維持していられるのか,そこがわからなくなってしまう.どちらのグループも,世界に関する情報をメディアの一角から得ている.そこでは,ニュースがプロパガンダに変換されている.アメリカならフォックスだし,イギリスなら右派系タブロイドや『テレグラフ』だ.
根深いあやまちは,こうしたメディアを病気の症状とばかり考えて原因だと考えないことだ.ここで話した研究がはっきりと証明しているように,フォックスニュースの産物は読者層を最大限に増やそうと設計されてはいない.そうではなく,フォックスのプロパガンダが読者層に及ぼす影響を最大限に大きくするようにできている.まったく同じことは,イギリスの『サン』や『メール』にも当てはまるといえそうだ.『フォックス』も『サン』も,所有者は同一人物だったりする.
「この手の規制を受けていないメディアはたんに読者層の思想を反映しているだけだ」という考え方をどうにか抜け出せた人たちも,この手のメディアはしかじかの政党を支持しているのだと総じて考えている.イギリスには保守党支持や労働党支持の新聞社があるし,アメリカでも事情は似ている.私見では,この見方は10年か20年ほど時代遅れになってしまっているし,10年20年前の当時ですらも,メディア組織の独立性を過小評価していた.(周知のとおり,『サン』は1997年にブレアを支持していた.)
もしもEU離脱が保守党議員の少数派が抱く願望にとどまっていたなら実現しなかっただろう.ああして実現したのは,イギリスの右派系新聞のおかげだ.読者層の大部分が慣習的な政治に飽き飽きしているのに気づいた右派系新聞が,「EU移民が仕事を奪って賃金を安くして利益をぶんどっている」という記事(ときにもっとひどい話も)をいくつも与えてご機嫌取りをしたからこそ,EU離脱が現実のものになった.こうした記事が(いつでも)虚偽だったわけではないけれど,あらゆるプロパガンダと同じく,半分だけ真実の話を強固な信念にまで高めてみせた.もちろん,こうした慰撫は古くからの自己不安や自己不信も利用したけれど,それだけでなく不安や不信を政治運動にまで盛り上げてみせた.ナショナリズムも同様だ.たんに読者がもともと抱いていた見解を反映したのではなく,読者たちの疑心や恐怖や希望を利用して,それを投票につなげたのだ.
だからといって,EU離脱の投票につながった正真正銘の問題やトランプ当選につながった人種差別をなにか軽んじようというわけではない.今日のポピュリズムのこうした分析は重要だ.少なくとも,そこから「アイデンティティ vs. 経済」をめぐる論争に逸れてしまわないかぎりは重要ではある.ポピュリズムの経済的な原因を強調したからといって,アイデンティティ問題(人種や移民といった問題)の重みが失われるわけではない.ただ,ポピュリストたちが権力につくうねりを引き起こしたのは経済学だった.たとえば,EU離脱賛成票へと多くの有権者を説得するのにメディアが一役買ったトリックにとって経済学は決定的に重要だった:EU移民や〔EUへの〕支払いが公共サービスへのアクセスを低下させているといった経済論議がなされていたが,実はその反対が事実だった.
なるほど経済問題はEU離脱やトランプ当選を決める多数派の支持をうみだしたかもしれないが,その一方で,メディアがずっと流し続けたアイデンティティ問題によって,それぞれの支持がなかなか薄らぎにくくなっている.EU離脱やトランプはアイデンティティの表明であり,また,失われてしまったものの表現であることも多い.〔これらを喧伝する〕グループのメディアによって維持されているときには,そう簡単には瓦解しない.それに加えて,主導者・支持層が維持を望んでいるおかげで,トランプもEU離脱派も,「これは,ありとあらゆる専門家を抱えた首都の統治マシーンに対する逆襲なんだ,通常なら無視されてしまう反逆がとりあげられているんだ」という考えを維持している.
だが,一部でポピュリズムの「需要」と呼ばれているものに関心をせばめていると,事態の少なくとも半面を見落としてしまう危険がある.EU離脱やトランプの支持者たちがどういう至極もっともな不満を抱えていたにせよ,それが利用されたことに変わりはなく,やがて裏切られることにもなるだろう.イギリスやウェールズの忘れ去られた街の助けになるようなものなど,EU離脱にはまったくない.本人はやろうとするかもしれないが,トランプが製造業の雇用を大量にラストベルトに取り戻すことにもならないし,NAFTA をめぐる彼のバカ騒ぎは事態をいっそう悪くしてしまうかもしれない.「取り残されてしまった人々」がここにいるあそこにいると見つけ出すのは物語の半分でしかない.なぜなら,それだけではいったいどうしてその人々がガマの油売りの喧伝するいんちきガマ油にひっかかってしまったのかわからないからだ.
投票直後に書いていちばん広く読まれたポストでも言っておいたように,EU離脱はなによりもイギリス右派系新聞にとっての勝利だった.この新聞が最初にイギリス独立党 (UKIP) を育てた.新聞が押し立てた見解を体現した政党だ.次に,この政党の脅威と同党への議員の移籍を受けて,首相はこの右派新聞がのぞんでいた国民投票を提案するほかなくなった.イギリス経済について途方もない嘘を売り込んだのは右派系新聞だ.その嘘を放送局が受け売りして,次の選挙で保守党の勝利が確実なものとなった.いざ国民投票となったときには,〔離脱支持の〕十分な投票が獲得されて政権が転覆するのを確実にしたのは右派系新聞だった.
同じように,ドナルド・トランプはなによりもフォックスニュースの候補者だった.ブルース・バートレットがここで雄弁に書いているとおり,なるほどフォックスの出発点はたんに共和党支持の放送ネットワークだったにせよ,その力は着実に増していった.党派的になることでフォックスは視聴者に誤情報をもたらした.その結果,たとえば,他のニュースの視聴者に比べてフォックスの視聴者の方が明らかに正しい情報に欠けている.ある分析の主張によれば,フォックスで伝えられた事実の半数以上が真実でないという:イギリスの読者なら,「ムスリムでないならバーミンガムに足を踏み入れてはならない」という報道を覚えているだろう.
フォックスは,視聴者層に「民主党議員に投票するのより悪いことなどない」と思わせ,その怒りをたぎらせ続けるための機械になった.いま自分たちが投票しようとしている候補はデマゴーグだということを共和党支持の有権者に見えなくしたのも,,トランプがしょっちゅう嘘ばかりついていることを隠蔽したのも,他の宗教や民族集団への憎悪をあおったのも,クリントンは牢屋に入れられてしかるべきだと視聴者に信じさせたのも,フォックスニュースだった.フォックスはたんに視聴者の見解を反映しているのではなく,彼らの見解を形成している.経済学者たちが示したように(翻訳),フォックスの産物はたんに読者層を最適化しているのではなく,その産物のプロパガンダ性能を最適化している.ときに言い合いこそするけれど,予備選のトランプはフォックスの候補者だった.
共和党の政治的な本流を転覆してみせた右派系メディア組織があり,右派系政府を転覆してみせた右派系新聞がある. メディアが政権を引きずり下ろしたり政党をひっくり返したりしているこの実態を見てもなお,あたかもメディアが受け身なままに〔政党を〕支持しているかのように――ことによれば透明な存在であるかのように――分析し続けられる政治学者が一部にいるのはどういうわけだろう.
金権政治トランプと EU離脱はある種の金権政治の産物だ.アメリカの政党には強固な金権政治の要素が生じてしばらくたつ.これほど強固になっているのは,お金が選挙結果を大きく左右できるからだ.このため,民主党には金融界が強い影響をもつようになったし,共和党はなにかに取り憑かれたように〔富裕層にかかる〕高い税率を削減しようとやっきになっている.これに比べると,イギリスには金権政治はなきにひとしい.イギリス政治は主に政党助成金と貴族院の議席をとおして運営されている.とはいえ,EU離脱キャンペーンの裏で動いていたお金がどこから出てきていたのかは,まだ十分に解明されてはいない.
ポピュリズムの「供給側」ではなく「需要側」(と一部で呼ばれるもの)に注目すると,トランプと EU離脱がなによりも金権政治の権力の発露だったということがわからなくなってしまう.トランプ政権は,トランプ個人に体現された金権政治だ.ポール・ピアソンが論じているように,トランプ政権がやろうとしている実質的な方針は,これまで共和党の経済エリートたちが長く掲げてきたことを真っ向から完全実現しようとするものだ.EU離脱派はイギリスをシンガポールにしたがっている.つまり,「市場がみんなのために自由に機能するというより政府介入から自由になるべきだ」「規制によって企業が自由に貿易できるよう調和をもたらすのではなく貿易が規制から自由になるべきだ」と強調する一種のネオリベラリズムを彼らはのぞんでいる.
また,この金権政治が資本を支持すべくできあがっていると考えるのも間違いだ.この点も,EU離脱とトランプからあからさまにわかるはずだ.財や人々の動きに対して国境が開かれている方が,障壁や高い壁をつくりだすよりも資本の利害にかなう.「1%」あるいは「0.1%」の観点からみて,この格差が維持されたり,さらにはいっそう大きくなったりするのを確実にすることが,金権政治のやることだ.それどころか,多くの金権政治主義者はみずからがはたらく企業から巨額の富を引き抜いて蓄えている.配当のかたちで投資家たちに渡されたはずの富をじぶんのふところに入れているのだ.この点で,彼らは資本の寄生虫のようなものだ.この金権主義は,社会的流動性を低くおさえて金権政治の会員資格が確実に維持されるようにもはからっている:社会的流動性は平等と連動するのはピケティとウィルキンソンが示しているとおりだ.
また,「いま起きている事態は,1%(あるいは 0.1%)の連中が結託した秘密委員会かなにかの結果なんだ」と考えるのも間違いだ.大富豪のコーク兄弟の利害関心は,べつにトランプの利害関心と必ず合致するわけではない(コーク兄弟が〔メレディスによる〕『タイム』誌買収をすすんで支援したのは偶然ではない).アロン・バンクス〔EU離脱派「リーブEU」創設者〕の利害関心は,ロイド・ブランクファイン〔ゴールドマン・サックスCEO〕の利害関心と必ずしも合致しない.「1%」が結託しているというよりも,メディアを支配する富豪たち個々人が特定の政治家と提携してじぶんの企業利害にくわえてじぶん個人の政治的な見解も押し出しているのがわかってきている.こうしたメディア王たちと政治家個人の提携関係では,誰が誰に依存しているのかはっきりしている場合がよくある.なんといっても,政治家は山ほどいるのに対して希少なメディアの競争ははげしい.
「それで,これがネオリベラリズムとどう関わるの?」 ネオリベラリズムは政治的右派の支配的な文化だという話になっている.ここで論じたように,ネオリベラリズムをなにか統一されたイデオロギーのように考えるのはまちがいだ.たしかに,市場を最重要視する中核部分こそ共通してはいるけれど,その解釈のしかたは統一されていない.ネオリベラルは自由貿易賛成だろうか,反対だろうか? どうも,両方でありうるらしい.統一されたイデオロギーというより,ネオリベラリズムとは,市場を尊ぶ共通の信条にもとづくいろんな考えを集めたもので,それをいろんな集団がじぶんたちに都合がいいように解釈して使っている.利害も思想も,両方がものをいうわけだ.ネオリベラルのなかには,資本主義のいろんな要素のなかで競争こそなにより重大な特徴だと考える人たちがいる一方で,独占力を維持するために競争をどうにか回避しようと試みる人たちもいる.EU離脱派とそれを支援する報道機関もネオリベラルだし,彼らが崩壊させたキャメロン政権も負けず劣らずネオリベラルだった.
フィリップ・ミロウスキをはじめとする人たちが論じている,「ネオリベラリズムの信念には,完全に市場に従属するよう人々が説得される必要があるという反啓蒙の信条が付いて回りやすい」という議論にはいくらか真実があると思う.たしかに,左派の人たちよりもネオリベラル右派の人たちの方が,「嘘・おおげさ・紛らわしい」の技術に時間と労力を注ぎ込もうと考えやすい.だが,あらゆるネオリベラルが反民主的だと言い出すのは行き過ぎというものだ:前にも言ったように,ネオリベラリズムは多様で,いろんな派がある.ネオリベラルの拡散を取り上げたポストで論じたのは,イギリスやアメリカで形成されたネオリベラリズムによって,いま見られるような金権政治が支配的になることが可能になったということだ.
組織的でない金権政治の性質上,どういう種類のネオリベラリズムが幅をきかせるかはおおむねランダムに決まっていて,誰がメディア組織を所有しているかに左右される部分が大きい.そこから導かれる政治は,さまざまなかたちで予想がつきにくく非合理で,さらに,専制への傾向がいっそう露わになったものになる.これは,イギリスやアメリカになじみのある通常の政治とはことなる.共和党減税案がトランプと同じく巨額の財産を相続した不動産富豪たちにとってどう有利になるかは,誰もが知ってのとおりだ.これはひねりもなにもない腐敗,腐敗した方法で可決された腐敗だ.国会議員を殺害しようと触発される人物すらでたイギリス極右のツイートをアメリカ大統領がリツイートするというのは,常軌を逸している.EU離脱支持の議員たちがアイルランドの国境問題について「〔検問所を〕おくつもりはない」と発言するのは,許容範囲の言動として受け流すべきでない:その実態にふさわしく「たわごと」として笑いものにすべきだ.
まともに機能している民主制の「抑制と均衡」によって修正されないままに,仲間内の声にしか耳を貸さない少数派のきまぐれと狂気による体制に政治が成り果てたときには,超党派メディアによってそれにふさわしい扱いを受けるべきであって,「また例のやつだ」と正常化されるべきではない.金権政治を民主制扱いしていると,民主制は死ぬ.右派の主流政党を金権主義者たちが乗っ取ったからというだけで,この金権政治が正常な政治のように見えるなどと謀られていてはいけない.
分岐点ネオリベラリズムがいまよりさらにろくでもないものになる地点まであとわずかのところまできている.POTUS〔トランプ大統領〕は,宗教的少数派を悪者に仕立てあげるファシストの戦略を踏襲している.予想どおりにミュラー〔特別検察官〕による〔ロシア疑惑の〕調査が進んでもミュラーが解任されたり,かつ/あるいは共和党が大統領弾劾を阻止すれば,この臨界点を突破したことになるかもしれない.もし EU離脱派が EU の関税同盟と単一市場からの離脱に成功したら,イギリスは未来永劫,共和党アメリカの軍門に下るほかなくなるかもしれない.
この運命を逃れてイギリスとアメリカの両方で民主制を救う道筋があるとすれば,その途上で,右派政党が民主的に敗北しなくてはならない.右派政党がこの金権政治の台頭をゆるしたのであり,それどころか,大いにこれを後押しし,みずからが支配権を握っていると信じていたときには金権政治と取り引きしていたのだ.右派政党の敗北は,圧倒的かつ全面的でなくてはいけない.EU離脱に導いた人々やトランプを支援したり許容したりした人々は,災厄への先導者として面目を失わねばならない.こうした人々による共和党や保守党の支配を終わらせねばならない.
そうしてはじめて,金権政治のもろもろの要素が情報手段をこれほどまでに支配できるシステムを左派は終熄させられるし,それは左派がやらねばならない.イギリスの場合,そのためには,放送局に適用される規則にしかるべき修正を加えて新聞社にも適用することになる.アメリカでは,レーガン政権下で撤廃された公平原則(フェアネス・ドクトリン)を復活させるだけでなく,イギリスにあるような選挙支出のコントロールも導入することになる(そのイギリスのコントロールも強化される必要がある).ようするに,政治から金をしめだして民主制の存続を確かなものにする必要がある.〔メディアの〕雇用主たちが見せたがっているものをではなく,我が目で見たままを書く自由をジャーナリストたちに与え,見たままのニュースを放送する自由を放送局に与えよう.
「なぜ中道ではなく左派なの?」 中道は,表現の自由や報道の自由にとってこれが意味することをめぐってくよくよ悩んでしまって,結局大したことが起こらない(たとえば Leveson を見るといい).クリントン政権下やブレア政権下でなにも起こらなかったのは見てのとおりだ.こう言うと,クリントンやブレアにとって少しばかり不公平かもしれない.当時はまだ金権政治の危険はいまほどあからさまではなかったし,メディアはもっと自重していた.だが,EU離脱やトランプを見れば,もうこれ以上の証拠は必要ない.いかにしてこの自由が現実にはたんに金権政治を維持する自由でしかなくなっているかを,左派はもっとはっきりと理解すべきだ.「1%」の権力と富を根底から覆す勇気をもちあわせているのは他でもなく左派のはずだ.おそらく,中道にはそうするだけの意志に欠けているのではないかと私は見ている.アンソニー・バーネットがとくに注目していることは私とはちがうものの,ここで彼はこの論点を実にうまく述べている: とにかく EU離脱やトランプを止めて「正常」だとじぶんが考えるものに復帰させたがるばかりでは,その正常なものが EU離脱やトランプにつながったのだという点を見失ってしまう.
これを聞いて,きっと賢明で良識ある人々の多くは首を振ることだろう.だが,他の選択肢は機能しない.トランプを敗北させるなり弾劾するなりしつつ,共和党をいまの体制のまま生き延びさせても達成されることはほとんどない.なぜなら,トランプが退場しても共和党はあいかわらずゲリマンダリング〔都合よく選挙区を区切ること〕を続けるだろうし,フォックスニュースは視聴者の精神を汚染し続けるだろうからだ.民主党のエネルギーは,トランプがもたらした痛手の回復に向けられ,そうやって彼らが「どぶさらいをする」(clear the swamp) 仕事をやってくれるおかげで勝利を収める次の共和党出身の専政主義者は,きっとトランプよりも利口な人間になるだろう.イギリスでは,もし保守党がいまの体制のまま生き延びたとすると,その面々がいまや高齢化しつつあるために,徐々に数を減らしつつある道理のわかった保守党議員を圧倒する熱狂的な EU離脱支持派を選出する危機におちいる.BBCは(そのときまで存続していたとしても),金権主義者に支配された新聞社の代弁者らしさをますます強めていくだろう [1].どちらにせよ,その時点で臨界点は突破してしまっている.
これまでいろんな人たちと会話を交わしてみて,左派の指導的な人々の多くには根深い恐怖があるのは知っている.ここイギリスでは,事態がアメリカの先に進んでいる.かつてのイギリスでは,左派は決して勝利できないとよく言われたものだったし,そういう話にはもっともらしさがあった.ところが近年の出来事を踏まえると,この話は大いに疑わしくなっている.アメリカでは「左派は決して勝利できない」という話がまだ健在だが,アメリカでもこれを疑うべき立派な理由がある.ガマの油売りどもの嘘にひっかかっていま幻滅している人々のひとりたりとも左派からの急進的な治療法を支持できない,という理由はない:アイデンティティとメディアは強力だが,政治のうねりを支配するのは経済なのだ.
いまイギリスでは,もっとずっと初歩的な話のように思える:どういうわけか左派が資本主義と民主制の存立をおびやかしている,という話になっているのだ.実際にはどうかといえば,コービンが民主制資本主義を放棄するよう労働党を説得できるはずもないし,同じく,サンダースやウォレンがそれと同じことをアメリカでできるはずもない.いま私たちが語っているのはただひとつ,ネオリベラリズムがもたらしたいろんな結果の多くをもとにもどすこと,それだけだ.だが,〔資本主義と民主制を脅かす左派という〕幽霊が見えている人たちにお化けなんて存在しないよと論理的に信じさせるのはむずかしい.左派のこうした幽霊と対照的に,この文章で述べてきた金権政治の力学はとても現実的で,この力学を終わらせるには急進的な変化が必要になる.
原註 [1]: 「イギリスの新聞社は読者が減少しているために力を失ってきている」という論が失敗している理由がここにある.放送局のニュースアジェンダをこの新聞社が支配するのであれば,彼らには大勢の読者は必要ない.
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