マクロ経済学者用。このポストはEggertssonとMehrotraによる長期停滞に関する新しい論文の紹介である。例のごとく、あらゆる解釈ミスは私の責任である。
長期停滞の裏にある基本的なアイデアは、長期にわたって自然実質金利がマイナスになっているであろうことである。実質金利が定常的にマイナスになるモデルができればシンプルだ。それは基本的な代表的個人モデルでは生じない。代表的個人モデルでは(成長の無い場合の)定常状態の実質金利(r)は以下のようになる。
1+r = 1/β
β<1は効用割引因子である。 人口成長(人口成長率=n)を入れると、以下のようになる。
1+r=n+1/β
人口成長率nの低下が実質金利を下げるということに留意してほしい。このことは、長期停滞と人口成長低下を結び付けようとするときに有用な分析結果だが、この分析では金利は時間選好率以下にはならない。
スタンダードな2世代OLGでは、より柔軟な結果が得られる。仮に主体が第一期だけ労働を行うとすると、当該主体は労働期から退職後の間のスムーズな消費を可能にするために貯蓄する必要がある。資本に投資することで貯蓄を行うことを可能にし、 αをコブ・ダグラス型生産関数の資本指数とすると、対数効用を含めた定常状態の実質金利は以下のようになる。
r=k+kn ただし k = α(1+β)/β(1- α)
仮に1期を約25年とすると、βは0.5となり(単年 β = 0.973)、α = 0.4ならk=2となる。そうすると人口成長減少の実質金利に対する影響は増幅される。しかし、定常状態の実質金利は代表的個人の場合より高くなるだろう。(もしn=0でb = 0.5,なら、r=1とr=2がそれぞれ得られる。25年間の場合、これは単年金利2.8%~4.5%に相当する)
三世代OLGの設定では、資本抜きで貯蓄を成立させることができる。中間年齢層が働き(所得Yを受け取る)、彼らが若年層に貸し付け、引退層は現在の中間年齢層から払い戻しを受ける。しかし、信用摩擦から若年層の借入可能量である利払い総計がDに固定されると仮定し、d=D/Y<1であるとしよう。中間年齢層は引退後も消費出来るように彼らに貸し付けたいと考えるため、定常状態における融資供給は(対数効用を用いて)以下のようになる。
β (Y-D)/ (1+β)
ここでは、Y-Dは、若い時の借入の返済を加味した中間年齢層の純所得である。融資需要は以下の通り。
D(1+n)/(1+r)
借入制限は利子総計である。したがって、何の人口成長もない場合、実際の借入はD/(1+r)となる。人口成長がある場合は、若年層が中間年齢層より多くなるので、それに応じて融資需要を大きくする必要がある。実質金利は需給を均衡させ、以下の通りとなる。
1+r=j+jn ただし j = (1+β)d/β(1-d)
ここで、dが小さい場合、jは1より小さくなり、(人口増加率減少によってなお金利が減少するとは言えども)人口増加率の金利への感応度は小さくなる。しかし、このことは総金利(1+r)が1より小さくなることも意味しており、こうして定常状態の実質金利がマイナスになりうる。
中間年齢層は引退後のために貯蓄する必要があるが、その唯一の方法は若年層に融資することである。実質金利が高ければ高いほど、(信用摩擦のせいで)借入できる若年層は少なくなる。そうした状況では、実質金利は容易にマイナスになる。なぜなら、そのときにしか、中間年齢層の引退後のスムーズな消費を可能にするのに十分なだけ若年層が借り入れ可能にならないからである。
EggertssonとMehrotraの研究の重要な分析成果は、信用収縮――Dの下落――が実質金利をマイナスの領域まで引き下げ、それによって長期停滞を生み出し得るということである。彼らはどのようにして不平等をモデル内に取り込むかを考え、モデルを名目のフレームワークに埋め込むことにした。名目賃金硬直性を(私がここで議論したSchmitt-Grohe and Uribeのペーパーと似たメカニズムを用いて)加え、金融政策・財政政策のインプリケーションを考察した。私はここのペーパー(リンク切れ)にしか目を通していないが、三世代OLGセットアップはスタンダードではないので、このポストは有用だろうと考えている。