ブヒン & ハザン「人工知能の新たな春:初期の経済状況」

[Jacques Bughin & Eric Hazan, “The new spring of artificial intelligence: A few early economies,” VoxEU, August 21, 2017]

人工知能の登場は1950年代にさかのぼる。以来、やたらと持ち上げられては「冬の時代」を迎えるのを幾度となく繰り返してきた。本コラムでは、10カ国 3,000社以上の上級管理職の調査にもとづいて、人工知能がいまどのように新たな春を経験していて、普及・浸透しているということを述べる。また、我々著者2人は、人工知能によって企業レベルでの生産性向上と利益増加がもたらされうるとともに、一部で予測されているほど雇用のダイナミクスは悪くないかもしれないことを論じる。

人工知能 (AI) の指導的な専門家アンドリュー・ングは、かつて AI の特徴を述べてこう言った――AIは、経済のあらゆる部門をつくりかえる「新しい電気」だ (Ng 2017)。だが、1950年代に登場して以来、AI は〔こういう風に〕やたらと持ち上げられては「冬の時代」を迎えるのを幾度となく繰り返してきた。我々の近年の研究では、AI の新たな波がどう発展しているのかを評価することに決めて、科学技術の面でも経済の面でもさまざまな技術がいままさに花開こうとしているとう証拠を見出している。

また、我々の研究では、経済学者のあいだで議論の盛んな他の2つの問題についても、事実と思われていたことの誤りを露呈させた:すなわち、総生産性成長の進化 (Crafts and Mills 2017) と、雇用の将来 (Frey and Osborne 2013, Autor 2015, Acemoglu and Restrepo 2017) に関わる擬似事実だ。我々の研究から徐々に浮かび上がってきたのはこういうメッセージだ――「AI はいまだに幼年期にあるものの、普及・浸透している。」 主要国10カ国以上のおよそ 3,000社の幹部級管理職らの層別分析によると、AI採用と予想便益のつながりがあることから、AI は物質的な企業レベル生産性と利益の向上をもたらしうる一方で、一部経済学者たちや多くのラッダイト主義者たちの予測ほど雇用ダイナミクスは悪くないことが示唆される。もちろん、〔AIによる人間労働者の〕代替はスマート資本に有利にはたらくだろう。しかし、AI を採用している企業は同時にさらに人を雇おうとしている企業でもある。とくに、技術革新をもたらし産出を拡大する方法として AI を活用している企業がそうだ。このことは、技術変化と雇用の定型化された事実と整合する (Spiezia and Vivarelli 2000)。

AI の新しい春

単純に言ってしまえば、産業革命の要点は、人間の筋力を機械で強化することだった。AI革命の要点は、人間の脳みそを機会で強化することにある。我々の研究では、AI について機能的な見方をとっている。すなわち、コンピュータ画像認識、自然言語処理、バーチャルアシスタント、スマートロボティクス、自動運転車といった〔すでに一定の段階にあって実現可能性が〕証明済みの技術をもっぱら考察する。こうした技術はどれも新世代の機械学習アルゴリズムによって一定の成功を収めている。

たとえばコンピュータ画像認識の正確度合いはたえまなく向上しつづけている。5年前、機械が正確に画像を認識できるのは 70% だった。人間なら 95% だ。データの改善、アルゴリズムの改良、コンピュータ処理速度の向上によって、機械の認識精度は 96% にまで到達している。一方、我々人間はいまも 95% のままだ。スマートロボティクスに目を向ければ、Amazon は性能の向上をつづけて、ロボットのおかげでクリックから出荷までの時間を1時間から15分にまで短縮している。しかも、人間が管理業務をしなくてはならない場合に必要なスペースと比べて半分ですませている。

AI が新たな春をむかえており今後も普及・浸透する理由は3つある。

  • 第一に、ベンチャーキャピタルから未公開株式投資会社まで、AI に何十億ドルも投資するかしこい投資家たちは過去3年で増加してきている。投資先としてはまだまだ小さな割合ではあるにせよ――今日のベンチャーキャピタル全体のおよそ 3% ではあるにせよ――急速に増加中だ。その速度はビットコインを上回る。
  • 第二に、もちろん未公開株式投資会社やベンチャーキャピタルが〔投資判断を〕間違っている余地はあるとはいえ、企業による AI への投資はすでに未公開株式投資会社やベンチャーキャピタルによる投資額の3倍に達している。AI の見込みに賭けている企業のなかでももっとも強気なのは、インテルやサムスンといったハイテク企業で、これに続くのが〔グーグル〕アルファベット、フェイスブック、アマゾンといったデジタルネイティブの企業だ。自動車企業も積極的だ―― GM が昨年1億ドル以上を投じてクルーズオートメーションを買収したのを考えてもらうといい。比較的に新しい企業にこれほどの額を出すのが賢明な判断なのかどうか疑問視する向きにも、AI 投資がすでに見返りをもたらしつつあることに留意してもらう値打ちはあるだろう――2012年にアマゾンが 7億7500万ドルで買収したロボティクス企業 Kiva をご記憶だろうか? Kiva のロボティクスはアマゾンの流通に使われており、この新たなオーナーに 50% の投資利益率をもたらしていると報道されている。
  • 第三に、ここでとくにとりあげる AI 技術群は、実際に導入がすすみつつある(Figure 1 参照)。我々が行った3,000社以上の調査では、対象企業の3分の2が AI に注目していることがわかった。企業は次のグループに分類される。およそ 20% はすでに真剣に採用をすすめている――その大半は、機械学習やコンピュータ画像認識を採用している。ここには、ベンチャーキャピタルや未公開株式投資会社やはいてくきぎょうによる投資が反映されている。さらに 40% の企業は実験的に導入したり部分的に採用したりしている。残りの企業はまだ導入実験や実装を行なっていない。だが、それでも過半数は AI 技術の導入を試しているということだ。これでおしまいではない: 採用していない 40% の企業では、未採用の主な理由はべつに AI を信じていないからではない。我々の調査からは、商業的な障壁と技術的な障壁が入り混じっていることがわかっている。一方、技術的な障壁については、企業の 28% が実装に必要な技術的能力を持ち合わせていないと感じている。

Figure 1: 技術別にみた AI への注目度

Figure 2: 部門別にみた AI 導入状況

AI 普及の経済要因と見込まれるもの

AI が企業のなかに広まりつつあるのだとして、では、AI はどのように普及し、どんな経済的方程式のもとで普及するのだろうか? 我々が使ったのは単純なモデルだ。このモデルでは、AI を一定規模で導入する度合いとある産業/企業が見込む利益増加予想が関連している。AI を導入するかどうかが産業/企業の健全性に左右されやすいことから、我々は2段階で推定を進めた:まず、導入のロジスティック・モデルをつくり、次に、AI導入を利益方程式のリグレッサーに用いた。言うまでもなく、使用したデータにさまざまな限界があることは我々も承知している。このため、我々の分析は注意して受け取られねばならない。それでも、この分析は AI の供給経済学に関するはじめての大規模な証拠だ。

AI 普及を推し進める要因

はじめに、我々は15の産業別にデータを集計した。次に、企業別に深く掘り下げていった。産業別に分けて見ると、AI で先頭に立っているのはハイテク・電子通信・自動車で、これに続くのがメディアと金融だ (Figure 2)。こうした部門はもっともデジタル化が進んでいる部門であり、しかも、AI にもとづくビジネスモデルと製品・サービスの将来需要が大きくなると予測している部門でもある。実際、どうやら AI は企業がおいそれととびつけるものではないようだ。AI 導入態勢が整うには、デジタル化の長旅に出発しておく必要がある。実際、我々が用いたデジタル化指標(MGI によって「デジタル・ヨーロッパ」で開発されたデジタル資産と利用の数値)と、同じ計測法を応用してつくったAI指標(AI投資と利用の数値)をみると、産業を横断したこの2つの相関は 0.55 にのぼっており、強く有意だ。さらに、AI 導入の傾向が強い部門は、〔企業間で〕利益率と収益成長の開きがもっとも大きい部門でもある。ここには、こうした部門がいっそう大きな混乱に直面していることが反映している。

さらに、企業の AI 導入と相関しているものを部門別に調べた。この作業が可能になったのは、15産業のおよそ200社〔のデータ〕を収集したおかげだ。調査回答のさまざまな要注意点や我々のパネルデータの縦断的な性質はあるのを認めたうえで、それでも、研究対象とした15の産業において、AIに基づく 5つの技術それぞれについて、その一定規模での採用の蓋然性と強く相関するものが5つ見つかった。企業レベルでの分析では、デジタル成熟度と AI 採用のつながりでも、利益予想と AI 採用のつながりでも、産業によって結果がわかれることが確かめられた。オッズ比を使って さまざまな要因をランク付けして、もっとも小さい結果からもっとも高い結果まで並べることで明らかになった事実をざっくりまとめると次のようになる:

  • AI 採用は、大きな企業ほど顕著になっている――とりわけこの結果が明らかだったのはテック系大企業で、こうした大企業はすでに AI で大きな選択をしている(上記参照)。
  • ほぼあらゆる産業で、AI の採用を進めている企業は重役級管理職から顕著な支持を受けている。CEO をはじめとしたビジネスリーダーたちが、AI 技術を理解し、その採用を支持している。
  • AI と親和性のある情報技術インフラにすでに投資している企業ほど、体系的に、AI 採用は頻繁に行われている。これはつまり、ビッグデータやクラウド基盤アーキテクチャに投資している企業ほど AI を採用することが多い、ということだ。
  • 企業は、事業の中核で AI を導入する傾向にある。つまり、もっとも価値を生み出している分野に近いところに AI を導入している。AI に投資する企業は、すでにコスト削減と同じくらい収益増加も当て込んだ強いビジネスケースを予想している。

実績と AI 導入を関連づける

我々は、AI 導入と相関する妥当な操作変数 (IV) として ポイント 2〜4 で述べた変数を用いて、企業の利益幅増大に AI 導入がおよぼす影響を推定した(IV で「規模」と「予想収益」を除外しているのは、このどちらも利益幅増大に直接相関しているかもしれないためだ。典型的な妥当性テストで、我々がリストにあげた IV 変数が棄却され得ないことが確証されている)。方程式は産業ごとに推定された。推定にあたっては、企業のさまざまな統制を用いている(本社の所在地や既存の利益幅のレベルなど)。

こうした分析から、AI 導入の IV 効果は15部門のうち11部門で統計的に肯定的なのがわかった。ただし、説明される変異はやはり限定されている(平均で、同じ産業の企業のあいだで、利益幅増大の 8 – 15%)。しかしながら、我々の標本のうち、AI 導入企業の 70% 以上がみずからの産業内で有意な競争上の有利をえている(導入していない企業では 45%)という事実に、この効果はしっかりと関連している。

AI と我々の経済の未来

ついでに述べておくと、上記の分析は、今日の経済学者たちが提起している2つの重要問題の議論に敷延できる。第1の問題は、「先進国で消失しつつあるらしき全要素生産性成長を復活させる解決策の一環にAI はなりうるかどうか」という問題。第2の問題は、「かしこい AI 基盤の労働資本を AI が完全に代替したとき、雇用は完全に消え去ってしまうのか」という問題だ。これは我々の研究の中核ではないものの、現在の論議を活性化する一助になる副次的な発見なら少しばかりある。

AIと生産性

利益関数の産出の見地を用いることで、技術変化の成長や総生産性成長は利益幅増大の関数であると同時に、長期的な産出の拡大の関数でもあることはよく知られている(短期的には、設備稼働率の項も加えねばならない; Karagiannis & Megros 2000 参照)。規模を拡大すると収穫が増大(減少)するとき、産出の拡大はプラス(マイナス)となる。上記の推計から、AI に関連した利益幅増大を計算できる。我々の事例では、産業により異なるものの、平均は 5% から 12% の間にある。したがって、AI 導入企業と非導入企業の総生産性の相対的な変化は大きなものとなりうるし、AI から規模の経済が生まれればいっそう大きなものとなりうるだろう。企業の生産性向上の範囲は、ほかの領域で見られるものと似ている。たとえば、デジタル技術全般の場合や(Brynjolfsson et al. 2011) やビッグデータ (Tambe 2014, Bughin 2016) がそうだ。

AI と雇用

労働経済学者のあいだで主流となっている議論では、AI にもとづく自動化は多くのタスクを(そして、集約によって多くの既存職業も)無用にしてしまうと考えられている。これが起こりうる範囲と速度によっては、大きな技術的失業が伴うかもしれない。

言うまでもなく、マクロ経済への影響の全貌は、AI 導入産業で新しい雇用がつくりだされるかどうかでちがってくる。新しい雇用は、新しい種類の職種がうまれた結果としてうまれるかもしれないし、産出の拡大を支える方法としてうまれるかもしれない。また、AI 導入によってえられた生産性の伸びによって経済のほかの構造に大きな波及効果がおよぶかどうかでも、新しい雇用の創出は左右される (e.g. Gregory et al. 2016)。ここまで述べてきた我々の単純な生産性増加の影響の計算からは、過去のデジタル技術の普及から生じたのと同じくらい大きなものになりうることが含意される。

自社雇用への影響について、我々の調査では AI 導入の結果として雇用に生じる影響について質問している (Figure 3)。もっと細かい点では、「AI 導入を実験しているだけ」という企業と「まだ大規模に導入してはいない」という企業をとくに取り上げている。一般に、雇用削減を予想している企業の割合はかなり小さく、AI 導入企業でも AI 導入実験中企業でも、およそ 45% となっている。だが、すでに AI を導入している企業は雇用を増やす意欲がずっと強い(22% vs. 6%)。増加の割合が、減少を予想している企業の半分でしかないとすると、この比率は Atkinson (2013) が示した数十年にわたる新技術導入で観察されたものに驚くほどよく似ている。さらにズームインして、雇用を増やす意欲のある企業に注目すると、そうした企業は産出を拡大し製品とサービスを洗練させるために AI を使おうとしていることがわかった。これは Spiezia & Vivarelli (2000) が予想していたとおりだ。

以上から我々はこう結論する。AI は今後普及していくし、企業による AI 導入は十分な経済的要因によって後押しされる。そうした要因は、さらに(旧来の)人間のタスクの置き換えを加速していくものの、我々のデータからは、AI が市場にもたらしうるイノベーションと組み合わさることで、生産性の伸びは将来の雇用にとって自滅的なものというより歓迎すべきものとなるとわれわれは推測している (Acemoglu & Restrepo 2017)。

Figure 3: AI 導入による雇用変化の予想

参照文献

Acemoglu, D, and P Restrepo (2017), “Robots and Jobs: Evidence from US Labor Markets”, NBER Working Paper No. 23285.
Arntz, M, T Gregory and U Zierahn (2016), “The Risk of Automation for Jobs in OECD countries: A Comparative Analysis”, OECD Social, Employment and Migration Working Paper No. 189.
Atkinson, R (2013), “Stop saying that robots are destroying jobs — they are not”, Technology Review, September.
Autor, D (2015), “Why are there still so many jobs? The history and future of workplace automation”, Journal of Economic Perspectives 29 (3): 3–30.
Brynjolfsson E, L Hitt and H Kim, (2011) “Strength in Numbers: How does data-driven decision-making affect firm performance?”, MIT Sloan School of Management, December.
Bughin, J, E Hazan, S Ramaswamy, M Chui, T Allas, P Dahlström, N Henke and M Trench (2017), Artificial Intelligence: the next digital frontier, McKinsey Global Institute.
Bughin, J (2016), “Reaping the benefits of big data in telecom”, Journal of Big Data 3(1): 14.
Bughin, J and N van Zeebroeck (2017), “The best response to digital disruption,” Sloan Management Review, Summer.
Crafts, N, and T C Mills (2017), “Trend TFP Growth in the United States: Forecasts versus Outcomes”, CEPR Discussion Paper No. 12029.
Frey, C, and M Osborne (2013), “The Future of Employment: How Susceptible are Jobs to Computerisation?” Oxford Martin School Working Paper, September.
Gregory, T, A Salomons and U Zierahn (2016), “Racing with or against the machine, Evidence from Europe”, ZEW Discussion Paper 16-053.
Karagiannis, G and Mergos, GJ (2000), “Total factor productivity growth and technical change in a profit function framework”, Journal of Productivity Analysis, 14(1), 31–51.
Ng, A (2017), “Artificial Intelligence is the New Electricity”, presentation at the Stanford MSx Future Forum.
Spiezia, V and M Vivarelli (2000), “The Analysis of Technological Change and Employment”, in M Pianta and M Vivarelli (eds), The Employment Impact of Innovation: Evidence and Policy, Routledge, pp. 12–25.
Tambe, P (2014), “Big data investment, skills, and firm value”, Management Science 60(6): 1452–69.

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts