タイラー・コーエン 「『経済学と哲学』という名の講義を受け持つことになったとしたら・・・」(2004年5月5日)

●Tyler Cowen, “Economics and Philosophy reading list”(Marginal Revolution, May 5, 2004)


「経済学と哲学」と名付けられた講義を受け持つことになったとしたら、どんな文献をリーディングリスト(課題図書一覧)に加えたらいいだろうか? ブラッド・デロング(Brad DeLong)がこちらのエントリーでその腹案を開陳している。私なら、デレク・パーフィット(Derek Parfit)の『Reasons and Persons』(邦訳『理由と人格』)もリストに入れることだろう。ジャン=ジャック・ルソーの著作も追加するかもしれない。

ルソーは、『人間不平等起源論』の中で、「富」(wealth)と「厚生」(welfare)を同一視することに疑問を呈していて、市場社会は皆をして「承認欲求の罠」に追いやる――誰もが「他者からの承認」を追い求めるものの、リスかご(走ると回転するかご)の中を必死に駆けているのと変わらない(徒労である)ことに気付かされる羽目になる――と論じている。

パーフィットに話を転じると、「功利主義(あるいは、より一般的に帰結主義)は、世俗的な(世人の直観に訴える)道徳観念とソリが合うだろうか?」とは、パーフィットが提起している問いだ。

経済学に特有の論の進め方(議論の立て方)の特徴をより深く理解するために、マクロスキー(Deirdre McCloskey)のレトリック論(『The Rhetoric of Economics』/邦訳『レトリカル・エコノミクス』)も学生に読ませたいところだし、一人ひとりの選択が抱える複雑さに目を向けてもらうために、トーマス・シェリング(Thomas Schelling)の「複数の私」論もリストに加えたいところだ。「複数の私」論については、パーフィットも一枚噛んでくることになるだろう。講義の期間が25週に及ぶようなら、プラトンの『国家』も講義で使うことだろう。『国家』の中には、後世になって提起された議論の萌芽がたっぷり含まれているのだ。

そうそう。そう言えば、2年前に経済学と哲学がテーマの講義を受け持ったことがあったんだっけ。

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【訳者による補足】ブラッド・デロングが開陳しているリーディングリストもついでに掲げておくとしよう。

●ジャック・ル=ゴフ(Jacques Le Goff), 『Your Money or Your Life: Economy and Religion in the Middle Ages』(邦訳『中世の高利貸』)
●トマス・ホッブズ(Thomas Hobbes), 『Leviathan』(邦訳『リヴァイアサン』)の中から適宜抜粋
●ジョン・ロック(John Locke), 『Second Treatise of Government』(邦訳『統治二論』)
●アダム・スミス(Adam Smith), 『The Theory of Moral Sentiments』(邦訳『道徳感情論』)
●アダム・スミス(Adam Smith), 『An Inquiry into the Nature and Causes of the Wealth of Nations』(邦訳『国富論』)
●ジェレミー・ベンサム(Jeremy Bentham), 『An Introduction to the Principles of Morals and Legislation』(邦訳『道徳および立法の諸原理序説』)
●ジョン・スチュアート・ミル(John Stuart Mill), 『On Liberty』(邦訳『自由論』)
●ハル・ヴァリアン(Hal Varian), 『Intermediate Microeconomics』(邦訳『入門ミクロ経済学』)の29章~35章 [1] 訳注;時代的におそらく第6版を指しているものと思われる。
●フリードリヒ・ハイエク(Friedrich Hayek), 『The Constitution of Liberty』(邦訳『自由の条件』)
●ロバート・ノージック(Robert Nozick), 『Anarchy, State, and Utopia』(邦訳『アナーキー・国家・ユートピア』)
●ジェームズ・ブキャナン(James Buchanan)&ゴードン・タロック(Gordon Tullock), 『The Calculus of Consent』(邦訳『公共選択の理論――合意の経済論理』)
●ジョン・ロールズ(John Rawls), “Justice as Fairness”(pdf)
●ケネス・アロー(Kenneth Arrow), 『Social Choice and Individual Values』(邦訳『社会的選択と個人的評価』)
●アマルティア・セン(Amartya Sen), 『Development as Freedom』(邦訳『自由と経済開発』)
●デイヴィド・ゴティエ(David Gauthier), “The Social Contract as Ideology
●ヤン・エルスター(Jon Elster), “The Market and the Forum: Three Varieties of Political Theory”, in Elster and Hylland(eds.), 『Foundations of Social Choice Theory
●バーナード・ウィリアムズ(Bernard Williams), “The Idea of Equality”, in Lasslett and Runciman(eds.), 『Philosophy , Politics and Society(2nd Series)
●アマルティア・セン(Amartya Sen), “Equality of What?”(pdf)
●スティーブン・シャベル(Steven Shavell), “Economic Analysis of Welfare Economics, Morality and the Law
●ティボール・シトフスキー(Tibor Scitovsky), 『The Joyless Economy』(邦訳『人間の喜びと経済的価値』)
●ウィリアム・ボーモル(William Baumol), 『Welfare Economics and the Theory of the State

References

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1 訳注;時代的におそらく第6版を指しているものと思われる。
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