Sangmin Aum, Tim Lee, Yongseok Shin, “Computerising industries and routinising jobs: Explaining trends in aggregate productivity“, (VOX, 04 July 2018)
過去三十年間が目撃したのは前代未聞の技術的発展だった。労働市場ひいては経済全体が、大きな衝撃をうけた。本稿では、オートメイト化とコンピュータ利用増加がこの過去三十年間の生産性トレンドにいかに作用してきたかを調査してゆく。調査結果が示唆するところ、オートメイト化は、ミクロレベルで生産性を上昇させた反面、集計的生産性 (aggregate productivity) にたいしては強いスローダウン効果を及ぼした。これは業種間・産業間の要素投入再配分に由来する。
「大不況 (Great Recession)」 後の緩慢な復興のなかにあって、先進諸経済にわたって見られる生産性成長スローダウンに多くの関心が集まっている (しばしば 「長期停滞 (secular stagnation)」 の名で呼ばれる; Teulings and Baldwin 2014を参照)。しかしじつは、このスローダウンは大不況に先行している。図1は合衆国の全要素生産性 (TFP) をプロットしたものだが、スローダウンはすでに2000年代中頃から顕わになっている。一部の人はこれを不可解に思うかもしれない。〈オートメイト化、そしてコンピュータ利用の増加は、生産性を向上させた〉というのが一般的な考えなのである。
図 1 集計的TFP (対数)
出典: National Income and Product Accounts (NIPA) from the Bureau of Economic Analysis (BEA).
長引くスローダウンは、前述の諸経済にとって大きな懸念である。高い失業率しかり、停滞するメディアン賃金しかり、これら経済が直面しているその他の喫緊の課題の多くとも、無関係ではないのだ。緩慢な生産性成長は雇用創出を阻害するほか、少なくとも一時的には富裕層に利するかもしれない。かれらは土地と資本のレント増加から便益を得るのである (Piketty 2014)。
さて Journal of Monetary Economics 特別号における最近の我々の論文では、オートメイト化およびコンピュータ利用の増加が過去三十年間の生産性トレンドに及ぼした作用の存否とその態様を調査している (Aum et al. 2018)。我々の発見が示唆するところ、じつはオートメイト化は、ミクロレベルでの生産性を向上させた反面、集計的TFP成長をスローダウンさせる強い要因だった。これは業種間・産業間でおこなわれた要素投入の再配分に由来する – 一部の業種・産業が平均以上の生産性成長を迎えるばあい、もしそれらが生産において補完的なものであるならば、生産資源は生産性成長のより低いところに再配分される。こうした事態が生ずると、高成長を迎えた業種と産業は相対的な重要性を減じ、集計的生産性成長にたいする寄与もますます少なくなり、結果として集計的生産性成長のスローダウンが起きる。
当然ここで疑問となるのは、なぜ2000年代中頃になるまで生産性成長スローダウンが具現化しなかったのかである。真相はこうだ。つまり合衆国は1960年代後半から1980年代前半にかけてすでに生産性スローダウンの局面を迎えていたのである。これはIT革命に数十年間さきだつ時期に見られた、新技術の波及につづくものだった (図1)。しかし1980年代中頃から2000年代前半にかけて、この動きは当時新興のコンピュータ産業の登場により相殺されまた一時的に圧倒されていたのだ。コンピュータ産業は爆発的な生産性成長をとげ、その産出物はあらゆる産業においてますます重要な生産要素となっていった (「コンピュータ化 (computerisation)」)。
2000年代に入りコンピュータ産業の生産性成長がスローダウンしてようやく、オートメイト化が集計的生産性成長に及ぼす負の効果が顕わになった (図2)。コンピュータ関連ハードウェア・ソフトウェアの生産性成長は、他の産業と比較すれば依然として高いが、2000年代に入ってからは顕著なスローダウンが現われており、近年その傾向はいっそう強まっている。すでに数十年さきだつ時期から続いていたにもかわらず、〈集計的生産性スローダウンは2000年代に端を発する〉 との誤解が生まれるのは、まさにこの事情のためである。
図 2 コンピュータ産業TFPと全産業平均の対比 (対数)
出典: BEA Industry Accounts.
ルーティン化とコンピュータ化
Autor and Dorn (2013) 以来、信頼できるオートメイト化予測説としてルーティン化仮説が提起されてきた – より優れた機械や技術によって真っ先に置換されたのは、元来ルーティン的な性質をもつような職だった。しかしながら、ここで 「ルーティン化 (routinisation)」 と 「コンピュータ化 (computerisation)」 を区別しておくのは重要だ – オートメイト化が容易な職は、より多くのコンピュータ関連技術を利用する職と同じものではないのである。
図3では、業種をその1980年における平均賃金の順に並べたうえ、Autor and Dorn (2013) で用いられたルーティン化尺度を青でプロットしている。同論文は、ロアーミドル賃金業種にルーティン職傾向があること、そして他ならぬこれら業種こそが新技術により置換されてきたらしいことを示すものだった。 対照的に、相対的に高賃金となっている業種ではコンピュータ関連ハードウェア・ソフトウェアをともにより多く利用する傾向がある (それぞれ赤・黒)。したがって、オートメイト化は中層賃金労働者を害したかもしれないが、コンピュータ化のほうは相対的高賃金労働者の生産性を高めたのである。
図 3 ルーティン化とコンピュータ利用 (業種毎)
出典: IPUMS Census, BEA NIPA and O*NET.
これら二者は集計的生産性成長とどのように関連しているのか? 我々の分析では、異なる業種・産業におけるルーティン化/オートメイト化スピードの差こそが、集計的生産性のスローダウンを駆動した要因である。図4(a) が示すところ、1980年にルーティン職シェアが大きかった産業ほど、大きな生産性成長を迎えている。つまりこれらは、継時的に見てより多くの職がオートメイト化された産業であることが示唆されるのだ。そうであれば、労働者と従来型資本 〔コンピュータ関連ハードウェア・ソフトウェアを除く機械・設備〕 には、職のあいだの代替性に依存して、より急速な生産性成長を経験している職に向かうかそれとも離れるか、いずれかの再配分が生じたはずである。データは後者を支持する – 高生産性成長職は、付加価値および雇用シェアを縮減させるなか、集計的生産性に占める部分を減らし始めるが、低生産性成長職が占める部分のほうは増えたのである。この構成シフトが集計的生産性成長のスローダウンにつながったのだ。
図 4(a) ルーティン化と産業TFP成長
出典: IPUMS Census and BEA Industry Accounts.
図 4(b) 産業TFPと雇用成長
出典: BEA Industry Accounts.
以上と関連したものに 「ボーモル病 (Baumol’s disease)」 がある – すなわち、高生産性成長部門が重要性を低減させることはありうるのだが (例: 製造業)、そのために集計的生産性成長がスローダウンする可能性もあるのだ。しかし、我々の調査結果が示すところ、集計的生産性成長の下降トレンドの殆どは、高成長 業種 occupations の縮減によって (高成長 産業 industries ではない) 説明されてしまう。下降トレンドは前者によってほぼ完全に説明できるが、後者の影響は無視しうる程度しかない。これは、オートメイト化が産業レベルというより業種レベルで発生していることを暗示する。
とはいえ注意すべきは、にわかに信じ難いほど高い生産性成長とは裏腹に、コンピュータ産業とりわけハードウェア産業は、ルーティン職に特に高いシェアを有しているわけでもなければ、同産業の雇用が大きく縮減したわけでもないことである。この事実を把捉するため、我々はコンピュータが他と区別された一個の特別な資本投入タイプとして、あらゆる産業の生産において (コンピュータ生産もふくむ) 用いられるというモデルを構築した。
コンピュータ産業の素晴らしい生産性成長がつづく長い期間には、コンピュータ関連ハードウェア・ソフトウェア価格の劇的低下に伴っていた。これが生産において、また投資においてはさらに著しく、コンピュータ需要を底上げした (図5)。事実、コンピュータに大きく依存した産業ほど成長は急速だった (図6)。かくして、一大現象と化した生産性成長は集計的な産出量と生産性に反映され続け、ほぼ二十年間にわたる期間、集計的生産性成長にたいするオートメイト化の負の効果 (および生産における業種間の補完性) を相殺して有り余る働きを見せたのである。
図 5 非住居投資に占めるコンピュータのシェア (%)
出典: BEA Fixed Asset Tables (FAT).
図 6 産業毎に見たコンピュータ資本および付加価値産出成長 (%)
出典: BEA Industry Accounts and FAT Nonresidential Detailed Estimates by Industry and Type.
コンピュータ化・成長・格差
ではコンピュータ化はポスト1980年代の成長にたいし具体的にいってどの程度の寄与をなしたのだろうか? 本モデルの活用により判明したのは、もしコンピュータ産業の成長がなかったとしたら、1980年から2010年にかけての集計的生産性成長は、実際の0.8%にたいし、0.5%のみに留まっていたことだ。〈コンピュータ産業が集計的産出量に占めるシェアは観測期間をとおしてたったの3-4%程度にすぎなかった〉事実に鑑みれば、これは驚くべき大きさである。同産業が担ったこの大役は投資に由来する – この期間をとおし、コンピュータは総投資の約5%から20%へと成長したのである (図5)。
じっさい、コンピュータ部門の生産性成長がまったく不在だったならば、集計的生産性成長は1980年以降単調に低下していったことになる – つまり1970年代のスローダウンが中断なく続いていた可能性もあったのだ (図1)。だから2000年代における集計的な生産性と産出量の緩慢な成長は異常なものではなかったのである – 常軌を逸していたのは、1980年代と1990年代におけるコンピュータ産業の爆発的成長によって駆動された平均を上回る速さのトレンド成長のほうだった。
我々のモデルでは、コンピュータ利用を増加させる産業は、労働を削減する方向での代替をつうじてこれを行う。したがって、高賃金労働者がより多くコンピュータを利用するにしても、それは低賃金労働者の雇用減少を代償になされる。全体的にいって、この代替が、1980年代以降の労働所得シェア (労働者の雇用と賃金) 低下をほぼ完全に説明しうるほど大きなものであることも判明した (Karabarbounis and Neiman 2014)。これは図7に示すとおりである。コンピュータが総資本ストックに占める部分はほんの僅か (3%程度) であるにもかかわらず、こうした状況が生じているのだ。
図 7 労働所得シェアの変化: モデルvsデータ
データ出典: BEA NIPA and Industry Accounts.
以上の事柄は今後どのような意味をもってくるのか? 生産性スローダウンが近い未来にも続いていることはほとんど確実だが、より長い目でみるならば、結局なんらかの新技術が経済全体に行き渡りブームを巻き起こし、これが集計的生産性の底上げ要因としての役割を担うのではないかとも怪しまれるのである。ちょうど過去にコンピュータの勃興がそうしたように。これは良くいって憶測にすぎないが、バイオテック・ナノテック・ロボット工学・人工知能などはみな、「次の大潮流 (next big thing)」 となりおおせる力を秘めているのではないか。しかしそのことが、この種の技術の所有者・使用者と、それに置換される労働者のあいだの格差を悪化させかねないのだから、我々は、将来世代のために投資すべき技能タイプはなにか、これを注視し続けねばならないのは勿論、この地割れに呑まれかねない労働者の安全も確保できるよう取り計らう必要がある。
参考文献
Autor, D and D Dorn (2013), “The growth of low-skill service jobs and the polarization of the US labor market”, American Economic Review.
Karabarbounis, L and B Neiman (2014), “The global decline of the labor share”, Quarterly Journal of Economics.
Aum, S, S Y Lee and Y Shin (2018), “Computerizing industries and routinizing jobs: Explaining trends in aggregate productivity”, Journal of Monetary Economics.
Piketty, T (2014), Capital in the 21st century, A Goldmanner (trans), Harvard University Press.
Teulings, C and R Baldwin (eds) (2014), Secular Stagnation: Facts, Causes and Cures, CEPR Press.