豊かな国ほど,科学や工学に割り振られる労働者の割合は大きくなる.そして,科学や工学がもたらすアイディアはみんなの利益になることも多い.だからこそ,他国が豊かになるとじぶんたちも得をするわけだ.とはいえ,科学者やエンジニアの人数だけが重要なわけじゃない.Agarwal & Gaule はかしこい論文を発表している.この論文では,同等な才能をもつ人たちであっても,より豊かな国にいる方が生産性が高くなることが示されている.
Agarwal & Gaule は,1981年から2000年のあいだに国際数学オリンピックに出場した十代の子供たちのスコアを何千人ぶんも収集し,彼らがその後にたどったキャリアを追跡した.数学オリンピックで獲得したスコアが1ポイント高くなるごとに,その参加者がのちに PhD を取得し,たくさん論文を引用され,ひいてはフィールズ賞を受賞する確率が高まる.だが,同等な才能の持ち主であっても,より貧しい国の出身者ほど,先端の数学に貢献する確率は下がってしまう.もしかすると,貧しい国出身のおりこうな子供たちは数学のキャリアをたどりにくいのかもしれない――しかもその方が最適なのかもしれない――けれど,Agarwal & Gaule によれば,貧しい国出身の才能ある子供たちは世界のレーダーからただ消え去ってしまうのだという.彼らの才能は無駄になっているんだ.
数学オリンピック出場後の損失は,ものすごく大きな損失ではない.貧しい国出身の偉大な数学者の卵たちの大半は,数学オリンピックに出場するずっと前に消え去っている.ただ,〔数学オリンピックに出て〕こういう才能のある子がここにいるとわかったあとですら,その子が才能を開花させるとはかぎらない.とはいえ,どうやら事態は改善しつつある.
下のグラフを見てもらうと,世界の所得分布でみて上位層の国々と同じくらい,中の上にある国々でも,才能ある子がなんらかの結果を残すようになっているのが見てとれる.また,Agarwal & Gaule によれば,低所得層の国々が〔才能ある子に与えている〕ペナルティは時とともに消え去りつつある.
世界中で所得が伸びるにつれて,あたかも人類史ではじめて全世界の処理能力がオンラインにやってきているかのように見える.これは,楽観論をとる1つの理由にはなるだろう.
多謝: Floridan Ederer