コーエン & クルーグマン「インタビュー, pt.6: ニューヨーク市について」(2018年10月10日)

[“Paul Krugman on Politics, Inequality, and Following Your Curiosity,” Conversations with Tyler, Oct. 10, 2018]

コーエン: あなたの見解だと,ニューヨーク市はひとつのまとまりとしてどれくらいうまく運営されてると思います?

クルーグマン: いまいちかな.それって,なにと比べて? 実はね,ぼくはビル・デブラシオ〔NY市長〕 が好きなんだけど.彼はいくつかほんとにいいことをやったと思ってる.教育でやったことがそうだし,住宅価格を手頃にするためにやったことも,かなり実のあることだ.でも,ニューヨーク市はすごく大きいし,あれこれも問題も大きいから,人々はそこがわかってないかもしれない.

ぼくに言わせるとね,これほど公共交通機関に依存していて,そのくせ公共交通機関が市のコントロール下になくって明らかにものすごく軽視されているのは,どうかしてる.地下鉄を利用する際のありとあらゆる厄介ごとにぼく個人はそれほど苦しんでいないけれど,それでも多少は困ってる.

市の運営は,現状より改善する余地がたっぷりけれど,それでも合衆国内にたくさんある政体の中で最悪の部類ってわけじゃない.まして,世界全体で見ればね.

コーエン: 地下鉄のコントロールを純粋に地域に委ねてそうした利得を内部化するのはどうでしょう? いいアイディアですかね?

クルーグマン: 多分,そう.そうすれば,不満はすぐに〔地下鉄の運営側に〕感じ取れるようになるだろうし,おそらくいまよりも…… 地下鉄はお金が足りてなくて困ってるけれど,日常の利用客の利便を改善することよりも評判を高める方にかなりのお金を注いでる.

わからないな.他に重要なことが何かっていうと,よくわからない.デブラシオがダメなことをしてる分野もある: 混雑税は利用できるはずだ.そこの窓の外をのぞいて見たら,きっと,ぎゅうぎゅうの交通渋滞が起きてると思うよ.だって,いつも渋滞してるから.

コーエン: してますね.

クルーグマン: 正確なところはよくわからないんだよね,どうすれば政治が……政治のいろんな制度とその影響について自分にわかってることはなんなのか.ただのアマチュアで,日々の新聞を読む人なら知ってる程度のことしか知らない.ただ,いまより上手くやれることは,色々ある.

コーエン: インフラのコストを下げて,もっとたくさん建設できる助けにするってことですが,そのトリックはどんなものです? 主に労働組合の問題であるようには思えないんですが.どうしてできないんでしょう.

クルーグマン: とにかくいろんな利害関係が絡まってるように思える.労組が問題の大半ってわけじゃないよね.反対する各種の官僚組織どうしが組み合わさっているようには思えるけれど,わからないな.目を見張る事例ではあるよ.なんで何もかもがこうも高くつくのか,そのわけはいまだにわかってない.ニューヨークならではの問題ではないよね.どこにでもある問題で.

コーエン: そりゃそうです.でも,地域によっては――ロンドンはニューヨークよりずっとうまくやってるように見えます.

クルーグマン: そうだね.アメリカの問題だ.

コーエン: 清潔さ,何らかの社会秩序……いまはニューヨークも安全なものですが.でも,例えば歩いてるとそこここにゴミがあったりして,上手く運営されてる都市らしくは見えませんね.

クルーグマン: 多少はね.でも,実際のところ,ぼくなんかは40年前のニューヨークを覚えてるんだけど.

COWEN: So do I.

コーエン: ぼくもですよ.

クルーグマン: ちょっと考えられないくらいよくなったよね.

ところで,これは最近のことじゃないんだけど,ニューヨークが生み出したのに十分に手柄が認めてられていない冴えたイノベーションがあると思ってて.何十年前にできたのかは知らないけれど,複々線で急行と各駅停車が並走する地下鉄システムがそれなんだよ.

合衆国がつくり上げた立派なものがあるわけだ.どうやって成し遂げたんだろう? 昔は,インフラが見事な国だったんだよね.すごい世界をつくり上げた国民だったんだ.

コーエン: 見事なもんです.最良だったんじゃないですかね.

クルーグマン: それがいまはどうにも……何かをつくろうとすれば,1マイルあたり少なくとも10億ドルかかる.どうしてそうなるのか,ぼくにはわからない.

コーエン: ウィリアム・ボーモルが言ったコスト病仮説はどう思います? 一部の部門では〔労働集約的で〕賃金が上昇するとコストがいっそう上がっていっそう効率的でなくなるってヤツです.

クルーグマン: 当てはまるものもあるのは間違いない.でも,インフラに当てはまるかというと,はっきりしない.ボーモルが言った昔の仮説は,だいたい,財の生産に比べてサービスのコストは必ず上昇するって話だった.でも,少なくとも,1995年から2005年までにサービス部門で大いに生産性が上昇していた近年はどうかというと,まるではっきりしない.

だから,場合によってさまざまだと思う.テクノロジーが変わって,コスト病は以前と違う部門を悩ませているかもしれない.すでに,機械学習によって,かつてはコスト病に苦しんでいると思われてた部門も驚くほど安価になってる.

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