●Menzie Chinn, “Russia, FX Reserves and External Pressures in the Event of War”(Econbrowser, February 15, 2022)
つい先日のニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、ロシアが西側諸国による経済制裁に備えてあれこれの措置を講じているという。そのうちの一つが、外貨準備の積み増しだ。なるほど、図1にあるように、ロシアの外貨準備高はかなりの額に達している。しかし、外貨準備の潤沢さは、対GDP比で測るとなお一層際立つ。というのも、ロシアの名目GDPの水準は2014年時よりも今の方が低いからだ。
図1:ロシアの外貨準備高(単位は100万ドル)
ニューヨーク・タイムズ紙の同じ記事によると、
「外貨準備が潤沢なおかげで、プーチンが選べる戦略的な行動の幅が広がっている」と語るのは、コロンビア大学に籍を置く経済史家のアダム・トゥーズ(Adam Tooze)氏。
・・・とのこと。
ロシアの対外債務残高は、外貨準備高の3分の2程度。通常であれば、通貨(ルーブル)の一斉売りに対して十分に立ち向かえるだけの備えがあるように思えるが、政策金利が相当高い水準にあるにもかかわらず(図3をご覧あれ)、ルーブル安が進んでいるのが現状だ(図2をご覧あれ)。
図2:ルーブル/ドルの為替レート(1ドル=○○ルーブル表記)
図3:ロシア中銀が操作する政策金利の水準(単位は%)
2014年にロシアがクリミアを違法に併合し、ドンバス地方で武力衝突が起こると、それに応じるかたちで西側諸国から経済制裁が科されることになったが、それに伴ってロシアは大規模の資本流出に見舞われた。今後ロシアがウクライナに武力侵攻を試みることになれば、前よりもさらに厳しい経済制裁が科されることになる可能性が高い。
ロシアが潤沢な外貨準備のおかげで資本流出の圧力に耐えきれるかどうかは、数多くの要因に依存している。今のところ貿易収支も経常収支も大幅な黒字ということもあって、当初のうちはどうにか耐えきれそうではある。外国人による(ルーブル建ての)国債保有比率が低下傾向にあることも資本流出への抵抗力を高める方向に働くだろうし(海外とつながりのある一部のロシア国民がどうにかして資本を海外へと流出させようと試みる可能性もないではないが)、資本取引の開放度が低下している――一国の資本取引の開放度を測る指標の一つであるチン&伊藤指数によると、2014年時点のロシアの資本取引の開放度は0.72だったが、2019年時点では0.48へと低下している――ことも同じく資本流出への抵抗力を高める方向に働きそうだ。
しかしながら、ロシアが銀行間の国際的な決済ネットワーク(SWIFT)から排除されたり、ロシアの国有銀行に対して制裁が科されるようであれば、話は違ってくる。ルーブル安に伴う損失の発生を恐れての資本の引き揚げとは質的に異なる影響が生じる可能性があるのだ。
ともあれ、国際金融にまつわる興味深い展開が目の前で起きようとしている。ロシアの今後を刮目(かつもく)せよ。