Chartbook #132 Nowcasting – the immediate outlook for the US economy
Posted by Adam Tooze on Juky 2, 2022
FRBが金融引き締め政策への転換を発表したため、アメリカの金融状況(借り入れ条件の広義の水準)は、1980年代前半以降のどの時点より資金調達が困難となっている。
出典:FRB
一方、インフレ率は依然として高いままである。インフレは、おそらく経済の大幅な減速局面にならないと低下しない。問題となっているのが、(a)「インフレ率の急速な低下はありえるのか?」、(b)「アメリカ経済は、どこまで厳しい状況に陥るのか?」にある。FRBは「経済は穏やかに好転し、インフレ圧力は急速に低下するだろう。よって、急激な金利の引き締めは必要とされていない」との妄想じみた予測を行っている。
経済の行く先がどれほど急転換するかについての判断を下すには、まだ時期尚早だろう。それでも、景気後退の兆しをあちこちで見ることができる。実際、不況は、多くの人の想定より早く到来するかもしれない。2020年第一四半期に、貿易データの一部が悪化しており、アメリカの実質GDPは縮小している。現在、広く引用されているアトランタ連銀のナウキャスティング(即時予測)モデルによるなら、アメリカ経済の第二四半期はマイナス成長になると予測されている。
出典:アトランタ連銀
以下の短い動画で、アトランタ連銀のパトリック・ヒギンズが即時予測モデルのロジックを説明している。
アトランタ連銀が正しければ、我々はすでに自律的景気後退――つまり、四半期水準でGDPが2回連続して縮小している局面にいる可能性がある。大多数のエコノミストはこうした予測を行っていない。ドイツ銀行の調査によると、エコノミストの71%が、次の景気後退の到来は2023年になるだろう、と予測している。この予測では、2023年に景気後退が実際に起こっても、それは穏やかな景気後退――つまり四半期水準で2回続けての穏やかな景気後退に留まる――というのがコンセンサスであるようだ。ブルームバーグ通信のコンセンサス予想によるなら、アメリカ経済は2023年に全体として1.9%成長するとされている。これは肯定的な数値ではない。2022年春に予測されていた数値よりはるかに小さい数値だ。それでも、プラスであるだけマシな数値となっている。
出典:Daily Shot NB:ニュースレター「Daily Shot」の素晴らしさは、いくら誇張しても誇張しすぎることはない。購読する余裕があるなら、なけなしのお金でも支払う価値がある。
一方、景気後退がすでに進行しつつつあることを示すリアルタイムの証拠が蓄積されつつある。アメリカの巨大な住宅市場では、住宅購入のための住宅ローンの申込みが先週大幅に減少し、現在は2021年比で24%減となっている。
アメリカの消費者は、世界経済における最大の需要源だが、ヨーロッパの消費者と同じく、非常に悲観的なムードにある。ミシガン大学によって測定されている消費者心理は、2021年に急落している。現在、通常ではあまりはっきりとした揺れを示さないコンファレンス・ボード指標も、マイナス方向に急落している。
ギャラップ社がまとめた景気動向指標は、2008年の金融危機以来の最低水準にある。
新しいトレンドに突入したと判断するには時期尚早だが、アメリカの個人消費は先々月の5月には実質ベースで減少し、年率換算で13兆896億ドルになったと推定される。
総需要のもう一つの主要な源泉は、アメリカ政府の政府支出である。2020年、2021年の景気刺激策を経て、今や財政政策は〔支出減によって〕アメリカ経済の足を引っ張っている。
出典:ブルッキングス研究所
FRBの地域部門による製造業に関する調査は現在、全ての方向でマイナスとなっている。
アメリカの鉄道に目を向けると、鉄鋼、木材、製紙など、製造業に必要な循環的な投入物の輸送重量は、近年観察された水準を遥かに下回るものとなっている。
金融市場では、景気後退の確信が高まりつつあり、長期の米国債は魅力的な金融商品となっている(長期国債はインフレによって価値が低下する可能性が低い)ため、短期国債と長期国債の間のイールドスプレッド(利回り差)は縮小傾向にある。
FRBは、世界の中央銀行の本尊だが、それでも世界中の中央銀行が金融引き締めに転じれば、一般的にアメリカ企業に負の影響を与えるだろう。今後数ヶ月の間に、アメリカの購買担当者景況指標(PMI)の大幅な低下が当然のように観察されると思われる。
ロシアによるウクライナ侵攻の衝撃は、世界の関心をエネルギーと食料価格に集中させた。このため、世界はインフレの波に直面しているという印象が強まっている。しかし、景気循環では、工業用金属の価格が重要な指標となることが多い。銅は、経済学の博士号を持っているコモディティと呼ばれるが、大きく売られており、今日、17ヶ月ぶりの安値をつけた。
全体的に、見通しは暗いと言えるだろう。〔経済の先行きで〕ソフトランディングは難しいと考える人が増えてきている。しかし、まだ判断を下すには時期尚早だ。インフレを抑制するために、経済を減速させることが目的とされているのなら、現状はまさにその立証となってしまっている。現時点では、様々な景気後退の要因がどのように相互作用するのかにかかっている。そして相互作用によって本当に厳しい局面になるかどうかはまだ未知数だ。