Chartbook #145: China on the tightrope
Posted by Adam Tooze
Aug 24
中国経済は強い逆風にさらされている。住宅市場の崩壊と習近平によるゼロ・コロナ政策のリスクに加え、さらに猛暑が加わったのだ。経済政策に関しては、中国政府は嵐の中で綱渡りをしているような状態である。
中国の大部分に影響を与えている熱波は、ほとんどの指標で、過去最悪の記録を示している。
武漢では、長江が干上がり、地元住民が川底を散歩している。
熱波は、単なる環境災害に留まっていない。経済にも直接の影響を与えている。
〔中国メディア〕財新グローバルの報道によると、猛暑と干ばつに見舞われている6つの地域(四川省、重慶市、湖北省、河南省、江西省、安徽省)は、2021年の中国のコメ生産量のほぼ半分を占めているとのことだ。環球時報では、唐仁健農業・農村相が、秋の収穫を確保するために、高温と干ばつへの「総力戦」を呼びかけたと報じられている。
四川省は、水力発電に大きく依存しており、〔長江の〕水位低下によって停電を余儀なくされている。これは、リチウム、ポリシリコン、アルミニウム、銅の生産に直接影響する。しかし、それ以上に重要なのは、この地域の電力網全体が圧迫されることだ。上海を含む主要都市では、電力使用量の節約に努めている。名高い〔上海の観光エリア〕外灘スカイライン(遊覧用自動車専用道路)は、今週になって23日24日と2日間、ライトアップされていない。ファイナンシャル・タイムズ紙は、「中国南西部では、干ばつと熱波による水力発電の電力不足に悩まされており、トヨタやアップルのサプライヤーであるフォックスコン等、工場の操業を停止した企業がある」と報じている。
中国のエネルギー政策については、ラウリ・マイリヴィルタが、いつものように傾聴に値する欧米側の重要なウォッチャーだ。彼は以下のツイッターのスレッドで、最新の中国のエネルギー危機を深く掘り下げている。
中国経済がフルスロットルで稼働していれば、電力事情はさらに逼迫したものとなっていただろう。
たしかに中国経済の一部は加熱している。特に、ウォールストリート・ジャーナル紙が報じているように、輸出は活況を呈している。
全世界の貿易を追跡している国連貿易開発会議のデータによると、世界の商品輸出額に占める中国のシェアは、2019年には13%だったが、パンデミックの渦中に増加し2021年末には15%に達している。同期間、主要競争国の輸出シェアが減少していることから、中国の輸出増は他国の犠牲の上に成り立っていると考えられる。世界輸出に占めるドイツのシェアは7.8%(2019年)から7.3%(2021年)に低下し、日本のシェアは、3.7%(2019年)から3.4%(2021年)に低下し、米国のシェアは8.6%(2019年)から7.9%(2021年)に低下している。
しかし、中国の輸出の急上昇を牽引しているのは、国内市場での需要不足から、国外市場での需要を求めた動きだ。ポール・クルーグマンがニューヨーク・タイムズ紙の記事で指摘しており、マイケル・ペティスやマット・クラインも長年指摘してきたように、中国の貿易黒字は、国外での成功を意味すると同時に、国内需要が不振に陥ってる現れでもある。
国内経済の低迷で中心となっているのは、不動産セクターであり、2021年9月から10月にかけて、緩慢な危機を経験している。
マット・クラインはファイナンシャル・タイムズ紙で以下のように指摘している。
住宅市場の低迷は、住宅ローンの借り入れとデベロッパーのレバレッジへの政府による規制を受けて、昨年の夏に始まった。住宅建設業者は、2021年4月から6月にかけて、月平均1億5600平方メートルの住宅床面積を販売している。今年の同時期、中国のデベロッパーの販売量は月平均でわずか1億600万平方メートルだ。需要の急減はビルの新築にも波及し、2022年4~6月の「住宅着工床面積」は、前年比でほぼ半減した。住宅建設のペースがこれほど遅くなるのは、2009年以来のことだ。
マイケル・ペティは、カーネギー基金のために書かれた素晴らしいブログ記事で、不動産価格の下落は住宅金融システム全体を崩壊させる危険性をはらんでいると指摘している。中国の指導者層は悪夢の中にある。7月に河南省で生じた住宅ローンへのストライキは、以後の事態の先触れであった可能性が高い。
住宅市場の急停止の影響は、中国経済全体に及んでいる。消費者心理は崖っぷちに立たされている。
7月、中国の16~24歳の若年層失業率は、19.9%という驚くべき数字となった。
出典:SCMP
中国人民銀行は、住宅市場の回復を目的に、金利の引き下げに踏み切っている。そして、最近になって、様々な非伝統的な政策が実施されつつある。中国人民銀行傘下の中国銀行間市場交易商協会(The National Association of Financial Market Institutional Investors:NAFMII)は、銀行間債権市場の自主規制に関与している機関だ。この機関は、6社の〔不動産〕デベロッパーを選別して、信用保証の可能性について議論している。ブルームバーグ通信では、住宅ローンストライキの原因となったプロジェクト完成の遅れに対処するため、中華人民共和国住宅都市農村建設部〔訳注:日本の国土交通省にあたる行政機関〕は、停滞している住宅プロジェクトを可能な限り迅速に提供できるよう、200億元(293億ドル)の特別融資を行ったと報じている。
しかし、〔中国関連ニュースレター〕シノシズム(Sinocism)でビル・ビショップは以下のように指摘している。
政策立案者が住宅ローンに関するストライキや、未完成建築の混乱に驚いているように見える事実は、彼らが経済、特に不動産に関する隠れたリスクを把握していないことの現れかもしれない。最近の動き(一部デベロッパーへの金利の引き下げと貸付金支援)は投資家心理を変えるほど十分なものとなっていないようだ。動的なゼロ・コロナ政策を乗り切るまで、何をやってもうまくいかないのではないかと考えられる。
共産党指導部が、10月の共産党大会まで、ゼロ・コロナ政策を撤回しないとするなら、景気後退を反転させるシナリオは、大規模な景気刺激策となるだろう。そのためには、住宅市場の活性化と、インフラ整備の両方に力を入れる必要がある。〔投資アドバイス機関〕カヴェカルが指摘しているように、インフラ投資だけでは、それがどれほど物惜しみのないものであっても、中国の景気循環を転換させるほどの十分なものとなっていない。
退任予定の李克強首相の最近の発言は、中国の指導者層の一部が事態の深刻さを把握していることの反映となっている。現状は2020年より悪化しているようだ。しかし、これまで中国政府は、何十もの政策を打ち出しているが、その規模はどれも控えめなものとなっている。
〔新興国向け投資機関〕Seafarerファンドは、洞察に富んだ分析の中で、ここまでの政策対応の規模が比較的小さいのは、中国の公的部門に隠された予算制約があるためとしている。つまり、中国の政府赤字の水準は、書類上ではそこまで大きく見えないかもしれないが、公的部門が抱える隠された債務は相当額にある。よって、地方政府・地方自治体は、〔中央政府からの〕資金流入を継続的に受けているが、それでもそうした部門の資金調達手段は財政的に厳しい状況にあるかもしれないのだ。
Seafarerは以下のように続けている
中国政府では、現行制度が限界に近づいているとの認識が高まっているようだ。地方政府の歳入と歳出のバランスを改善するための、財政移転制度の改革が議論されているようである。こうした改革によって、地方政府の財源が純増すれば、中央政府は増税を行わない限り、慢性的に高い財政赤字を抱え込むことになる。中国の現在のジレンマに対する長期的な解決策は、経済を成長軌道に戻すことだ。何よりもまず、パンデミックの制御と経済の維持との間のバランスを見つけ出さないといけない。次に、経済を改革するにあたって、優先順位を見直さないといけない。中国が進むべき最善の道は、経済成長率を高め、負債を減らすことだ。そのためには、最近の国家安全保障・国家統制の懸念優先から、経済成長優先への再挑戦が必要となっている。
いずれにせよ、中国政府は綱渡りの状態にある。そして、直面しているリスクの大きさは、中国だけに留まらず、世界レベルにおいても前例のないものだ。マット・クラインは、最近のファイナンシャル・タイムズへの寄稿で、インフレ対策という観点からは、中国経済の減速によるデフレ効果は、現時点では歓迎すべきかもしれない、と主張している。これは正しいかもしれない。しかし、この議論「中国の苦境を世界の他の国は必要としているかもしれない」は、あまりに一側面だけに見すぎている。確かに、以前の中国経済は「堅調な輸出と、弱い輸入」によって、「中国の消費者に財やサービスを売って得られたはずの収益を〔輸出によって〕海外の労働者から奪い、世界経済の足を引っ張っていた」かもしれない。しかし、これは反実仮想的な議論だ〔訳注:もう起こってしまった過去の出来事を今になって問題としてもしかたない〕。実際、1990年代以降の中国の経常収支がもっと均衡していれば、世界経済はもっと良くなっていたと想定することはできるだろう。それはそうかもしれない。一方、現状の世界経済では、中国の輸出に大きく依存している労働者や企業が世界中に多数存在している。特に、ドル高とFRBの引き締めによって〔世界経済の需要が〕縮小している事実を考慮すれば、中国の悪いニュースを、良いニュースだと喜べる人はいないと思われる。