ポンペウ・ファブラ大学に籍を置くヤン・エークハウト(Jan Eeckhout)の最新のワーキングペーパー(pdf)より(情報を寄せてくれた Torsten Slok に感謝)。
金融政策に用立てるためのインフレ率の指標として月次のインフレ率を前年同月比で測る(過去12カ月の月次の前月比のインフレ率の平均をとる)のが慣例となっている。しかしながら、インフレ率の変動が激しいようだと――インフレ率が急速に上昇する場合であれ、急速に下落する場合であれ――、月次のインフレ率を前年同月比で測ると、古いデータに重きが置かれすぎてしまって、物価水準の正確な値が得られるまでに6カ月の遅れが生じてしまう格好になってしまう。そこで、本稿では、物価の変動をより正確に捉える指標として「瞬間インフレ率」という代案を提示する。「瞬間インフレ率」は、ノイズがいくらか含まれているものの、足許の物価変動の実態をできるだけ正確に捉えることを意図した指標である。最新のデータを使って計算すると、アメリカやユーロ圏の「瞬間インフレ率」は2%(FRBおよびECBが目標として掲げている値)にまで下落しており、インフレが鎮静化している様子が窺(うかが)える。その一方で、「瞬間インフレ率」に照らす限りだと、イギリス/日本/オーストラリアでは、インフレはまだ鎮静化していないようである。
本ブログでも、月次のインフレ率をどう測るべきか――前年同月比(あるいは、17カ月前比、18カ月前比)で測るべきか、それとも3カ月前比で測るべきか、あるいは前月比で測るべきか――についてあれこれ論じてきた。前年同月比だと古いデータに重きが置かれすぎてしまうし、前月比だとノイズが多くなる。以下の図をご覧いただきたい。青色の線(“conventional”)は前年同月比で測ったインフレ率の軌跡を表しており、黒丸は前月比で測ったインフレ率を表している。
赤色の線は、多項式カーネル(カーネル関数)を用いて計算された「瞬間インフレ率」の軌跡を表している(バンド幅を規定するパラメーターであるaの値が4の場合。a=0だと、過去12カ月の月次の前月比のインフレ率に同じウェイトが掛けられることになるので、前年同月比で測った月次のインフレ率が求められることになる。論文の図2(a) にまとめられているが、aの値が大きいほど、古いデータよりも直近のデータにより大きなウェイトが掛けられることになる)。
エークハウト曰く、
2022年12月のアメリカの「瞬間インフレ率」は、2%――FRBが掲げる目標値と同水準――である。・・・(略)・・・その一方で、2022年12月のインフレ率を慣例通りに前年同月比で測ると、6.5%である。
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【訳者による補足】ユーロ圏(a)/イギリス(b)/日本(c)/オーストラリア(d)の「瞬間インフレ率」の軌跡は以下の通り(論文の pp. 7 より転載)。「瞬間インフレ率」の軌跡を表しているのは赤色の線(前年同月比で測ったインフレ率の軌跡を表しているのが青色の線、前月比で測ったインフレ率を表しているのが黒丸)。
〔原文:“Instantaneous Inflation”(Econbrowser, January 23, 2023)〕