ポール・シーブライト(Paul Seabright)が共著者の一人として名を連ねている論文(pdf)のアブストラクト(要旨)より。
「真の」笑顔――あるいは、「説得的な」笑顔――は、相互信頼を要する状況において相手から協力を引き出すために進化してきた「コストのかかるシグナル」であるという仮説を検証するのが本稿の目的である。そのために信頼ゲーム [1] … Continue readingの実験を行ったが、「送り手」が一定額のお金を「受け手」に委(ゆだ)ねるかどうかを決める前に、ショート動画を見てもらうことにした。その動画には「受け手」が「送り手」に向けて(お金を自分に委ねてくれるように)語り掛ける様子が収められているが、「送り手」にはその動画を見た後にお金を委ねるかどうかを決めてもらうだけでなく、動画の中の「受け手」の顔に浮かんでいる笑顔が本物かどうか(笑顔の真実度)を評価してもらった。その評価結果は動画ごとにバラツキがあったが、説得的な笑顔というのはおいそれと浮かべられるようなものではないということなのだろう。
本稿での実験を通じて得られた結果を三点ほどまとめておくと、まず第一に、説得的な笑顔を浮かべるというのは、コストがかかるようである。というのは、得られるものが大きい(「送り手」からお金を委ねてもらえるのと引き換えに得られる儲けが大きい)「受け手」ほど、笑顔の真実度が高く評価されたのである。説得的な笑顔を浮かべるには努力を要し、報酬が大きくなるほど「受け手」が費やす努力も大きくなるようなのだ。第二に、説得的な笑顔には、相手から協力を引き出す力があるようである。笑顔の真実度が高く評価された「受け手」ほど、「送り手」から信頼されがちであり、お金を委ねられる可能性が高かったのである。第三に、説得的な笑顔というのは、あてになるシグナル(honest signal)のようである。笑顔の真実度が高く評価された「受け手」ほど、「送り手」と分け合う(「送り手」にお返しする)額が大きかったのである。説得的な笑顔というのは、「受け手」の人柄を伝えるシグナル――正直じゃない人ほど、説得的な笑顔を浮かべるのに苦労する――という面もあるにはあるが、それと同時に、「受け手」の懐具合を伝えるシグナル――「送り手」にお返しできる分け前が少ないほど、説得的な笑顔を浮かべるのが難しくなる――でもあるのだ。
ついでに、シーブライトの他の共著論文も紹介しておこう。こちらの論文(pdf)によると、医薬品市場において「楽々もぎ取れる果実」が収穫され尽くしてしまった(医薬品開発の分野でイノベーションを起こすのが困難になっている)とのことだ。
〔原文:“A convincing smile is difficult to fake”(Marginal Revolution, April 18, 2011)〕
References
↑1 | 訳注;「送り手」が「受け手」に一定の額――例えば、10ドル――を委ねることに決めると、その額が何倍かになって――例えば、2倍(20ドル)ないしは3倍(30ドル)になって――「受け手」の手に入ることになる。「受け手」は、手に入ったお金(20ドルないしは30ドル)を独り占めしてもいいし――独り占めしたからといって、何の罰則もないし何の制裁も受けない――、「送り手」と分け合ってもいい。 |
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