以下の「バットとボール」問題については、よくよくご存知だろうと思う。
野球のバット1本とボール1個の総額(合計金額)は、1ドル10セントです。
バットの値段は、ボールの値段よりも1ドル高いです。
さて、ボールの値段はいくらでしょうか?A. _____セント [1] 訳注;正解(ボールの値段)は、10セント・・・ではなく、5セント。ちなみに、バットの値段は1ドル5セント。
アンドリュー・マイヤー(Andrew Meyer)&シェーン・フレデリック(Shane Frederick)の二人の共著論文――Cognition誌に掲載――で、「バットとボール」問題に捻(ひね)りを加えたいくつかの変種(および、似たようなクイズ)を取り揃えた上で、人間の直感がどんな具合にしくじりを犯すのかが探られている。マイヤー&フレデリックの二人が用意している(「バットとボール」問題の)変種の中でも特に目を引くバージョンが以下の二つだ。
野球のバット1本とボール1個の総額は、110ドルです。
バットの値段は、ボールの値段よりも100ドル高いです。
さて、ボールの値段はいくらでしょうか?
以下の空欄に答えを書き込む前に、答えが5ドルであるやもしれない可能性について吟味してみてください。A. _____ドル [2] 訳注;正解(ボールの値段)は、10ドル・・・ではなく、5ドル。ちなみに、バットの値段は105ドル。
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野球のバット1本とボール1個の総額は、110ドルです。
バットの値段は、ボールの値段よりも100ドル高いです。
さて、ボールの値段はいくらでしょうか?
答えは、5ドルです。
以下の空欄に、5という数字を書き込んでください。A. _____ドル
驚くべきことに、答えが5ドルであるやもしれない可能性について吟味(検討)するように伝えられまでしたのに、大半の人(回答者の55%)はやっぱり「(ボールの値段は)10ドル」って答えたらしい。それ以上に驚くべきことに、(5ドルという)正解をはっきりと伝えられてその数字を空欄に書き込むように指示されたにも拘(かかわ)らず、正解したのは全体の77%にとどまったという。すなわち、回答者の23%もが依然として誤答したというのだ。ワオ!
マイヤー&フレデリックの二人は、以下のように結論づけている。
・・・(略)・・・「バットとボール」問題に「ヒント」を付け加えるというちょっとした工夫を凝(こ)らすことにより、回答者を(2つではなく)以下の3つのタイプに区分けする道が開かれることになる。①熟慮型(直感に惑わされて誤答せずに、一回のチャンスで――ヒントが無い状態でも――正解に辿り着ける人)、②おっちょこちょい型(ヒントが無い状態だと10ドルと答えるが、10ドルという答えは間違いだというヒントが与えられると、間違いを修正して5ドルという正解に辿り着ける人)、③救い無し型(10ドルという答えは間違いだというヒントを与えられても、正解に辿り着けないか、正解を導こうとする気のない人)。
・・・(略)・・・多くの回答者は、自分の出した答えが間違いであることを明確に伝える事実に注意を向けるように仕向けられたとしても、間違いを繰り返す傾向にある。・・・(略)・・・間違いを驚くほどしつこく繰り返すというかような傾向は、人間の推論能力について思った以上に悲観的な見方に誘(いざな)うことになる。一考を要する(問題を解くにあたって、直感に頼らずにしばしの吟味を必要とする)人ほど、一考する機会が与えられても得られるものが少ないのだ。
経済学者という立場からすると、「バットとボール」問題の変種として「インセンティブつき」のバージョン [3] 訳注;正解したら何らかの報酬が貰えるようにしたりするなど も試してもらいたかったところだが(正解しようが間違えようが一切の得も損もしないということもあって、回答者の中にはマイヤー&フレデリックの二人をからかっているだけの輩もいるかもしれない)、マイヤー&フレデリックの二人が得ている実験結果をインセンティブの有無によって説明できそうかというと、無理だろうと思う。かなりの数の人間が 「救い無し」型っていうのは動かせない事実のようだ。
〔原文:“The Bat the Ball and the Hopeless”(Marginal Revolution, September 11, 2023)〕