飛行機に乗って長距離を移動することに伴う恩恵の一つは、本を読める時間がたっぷり生まれることだ。ロンドンから(米国のコロラド州にある)デンバーに向かう最中に貪(むさぼ)り読んだ何冊かのうちの一つが、レベッカ・ソルニット(Rebecca Solnit)のあっぱれな一冊である『A Field Guide to Getting Lost』(邦訳『迷うことについて』)だ。経済学とは無縁の一冊だが、「迷う」という現象は二通りに区分けできるという指摘にはいたく惹(ひ)かれた。ソルニットによると、身の回りを取り囲んでいた馴染み深いあれやこれやがどこかへ消え去ってしまって「迷う」こともあれば、身の回りを取り囲んでいるのが馴染みのないものばかりであるのにふと気付いて「迷う」こともあるというのだ。
「哲学的な探求にまつわるあらゆる経験が物語っているが、何かを探り出すためには『予期せぬもの(未知なるもの)』を拠り所とせねばならないのが大概(たいがい)なのだ」。本書の中で引用されているエドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe)の言葉だ。あれにもこれにも適用できそうな言葉だが、経済予測にも間違いなく通ずる言葉だ。経済予測の腕を磨くためには、馴染み深いものにばかり目を向けていてはダメで、馴染みのない未知なるものに取り巻かれていて迷子なのを自覚しなくちゃいけないのだ。・・・おや、どこからか声がすると思ったら、『The Black Swan』(邦訳『ブラック・スワン:不確実性とリスクの本質』)とかいう本が手招きしているようだ。
『A Field Guide to Getting Lost』
〔原文:“The art of forecasting”(The Enlightened Economist, October 12, 2011)〕