ノア・スミス「ウォーレン・バフェットがあんなに投資でうまくやった方法は?」(2025年5月12日)

Photo by Aaron Friedman via Wikimedia Commons

投資界の伝説が歴史の人になった.バークシャー・ハサウェイ CEO・議長のウォーレン・バフェットが,この年末に引退すると表明した――齢95での引退だ.バフェットが投資をしてきた機関のバークシャーは,株式市場を驚くほど上回る成果をあげてきた:

Source: Bloomberg

もしも1964年に S&P 500 に1000ドル投資していたら,いま手にしているお金は数百万ドルになっていただろう.他方,バフェットの会社に投資していたら,10億ドルを手にしていたはずだ.

シャープ比率(自分がとったリスクに対する超過リターンの指標)で見ても,バフェットは他のあらゆる投資信託をぶっちぎって孤高の存在となっている:

金融理論からするとできるはずがないことを,バフェットはこうしてやってのけた:長年にわたって,彼は一貫して大差をつけて市場を打ち負かし続けてきた.しかも,そうやって市場を打ち負かしてきたバフェットのリターンは,複利で増えてきた――トップ投資信託の大半は,毎年,お金を顧客にいくらかもどすので,その分は再投資にまわらない.ところが,バフェットはバークシャーの株主たちのお金をみんな再投資して,とんでもない率で増やしていった.

いや,まあ……それに近いところまでいった.バフェットが市場を打ち負かしていた度合いは,初期の数十年の方ほどずっと大きい:

Source: Ashley Owen

単純な説明をすれば,こういうことだ.バークシャーが一定以上に大きくなると,膨大な資金を投じるのに十分な「割安でおいしい投資機会」をだんだん見つけにくくなっていった.バフェットの高いリターンはすごく長い時間をかけてじょじょに減衰していったけれど,それでも減衰は減衰だ.

もうひとつ,大きな疑問が浮かぶ.バフェットのあげた成果のどれくらいが,他の投資家たちも真似できる体系的アプローチによるもので,どれくらいが個人の天賦の才によるものだったんだろう? 《バフェット流投資》に関する本はあれこれと書かれてきたけれど,ふつうの人たちが本当にバフェットのようにやれるんだろうか?

Frazzini et al. (2018) は「やれる」と言っている.この研究によれば,バフェットが市場に対して上げた超過収益は,まるごと2つの体系的要因で説明できるという.その2つとは,「ベータに逆らって賭ける」(Bet Against Beta; BAB) と,「品質・マイナス・ジャンク」(Quality Minus Junk) だ:

BAB 要因の因子負荷量は,安全な株式(i.e. 低ベータ株式)を買いつつ高リスク株式(i.e. 高ベータ株式)を忌避する傾向を反映する.同様に,QMJ 要因の因子負荷量は,高品質企業を買う傾向(つまり好収益で成長しつつあり安全で高配当を行う企業を買う傾向)を反映する.(…) バフェットは,好んで安全で高品質な株を買う.こうした要因を統制すると,バークシャーの公開株式ポートフォリオのアルファ(超過収益)は,統計的に有意ではない年率 0.3% にまで下がる.つまり,こうした要因によって,バフェットの公開ポートフォリオの成績がほぼ完全に説明できる.したがって,バフェットの成功の大部分は,「安全・高品質な割安株を買う」という戦略にその秘訣がある.(…)本研究の統計分析の結果は,バークシャーハサウェイ2008年報告書にあるバフェット本人の言と合致している:「株式でも鍋敷でも,私は高品質のものが値下がりしているときに買うのを好む.」

とはいえ,これで一件落着かというと,そうでもない気がする.金融理論では,リターンを説明する要因はリスク要因にちがいないと決まっている――効率的な市場では,長期での超過予想リターンは,短期でとったリスクを相殺するにちがいないと決まっている.「ベータに逆らって賭ける」というのは,リスク要因っぽくない.なぜって,ベータ(市場全体との相関)は,それ自体がリスク要因だからだ――むしろ,これは市場の非効率っぽい.非効率な市場では,投資家たちが少なすぎる利得のためにベータをとりすぎてしまう.同様に,「高品質」株式が――好収益で成長している企業が――体系的に他の株式よりもリスクが高いとはなかなか想像しにくい.

それよりも実態に近そうな説明は,こういうものだ.1960年代,1970年代,1980年代に,アメリカの株式市場がいくぶん非効率だったにすぎない――投資家たちが,たんに愚かな賭けをしていただけだ.そして,冷静な合理性と株式指標に頼らず割安株を探り当てる独自の手法を手にしたバフェットは,平均的な投資家たちがいかに多くのあやまちをおかしているかを見抜いてそこに莫大な資金をかけた最初期の投資家たちの一人だった.やがて,他の投資家たちも続々とバフェットのように冷静かつ合理的になっていくにつれて,市場に対するバフェットの優位は薄れていった.

もしこれが当たっているとしたら,ジェウソン・ツウィーグが書いているように,第二のバフェットはけして現れないだろう.バフェットの基本的な手法は,おそらくいまも通じるだろうけれど,かつてのように驚異的な超過収益を充てることはないはずだ.バフェットは,ひとつの時代を定義した.そして,役者は去って幕は閉じられたんだ.


[Noah Smith, “How did Warren Buffett invest so well?,” Noahpinion, May 12, 2025]
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