アメリカ政府によるニコラス・マドゥロの誘拐劇の中で生まれた珍場面の1つは、トランプ大統領がトゥルース・ソーシャル〔トランプ自身が立ち上げたソーシャルメディア〕に慌ただしく大量の画像を投稿したことだ。私はこれを見ていて、春休み中に撮った写真のうちどれが一番かわいく映っているかを決めきれず、全部アップロードしてしまう学生を見ているような気分になった。

恐らく、オサマ・ビンラディン殺害作戦の経過を見守るホワイトハウス戦況報告室を思い起こさせるような象徴的なイメージを作りたかったのだろう。冷静沈着な男たちが集まって(女人禁制!)、画像の外にあるスクリーンを険しい表情で見つめている。メッセージは明白だ。「見てくれ、俺たちはめちゃくちゃ真剣で重要な仕事をしてるんだぜ」。だがこうした写真は、わざとらしさのせいで狙った効果をかえって損なっている。そのため、歴史が今まさに動いている瞬間というより、素人劇団による名作ミュージカルの上演を見ているような気分になるのだ。

CIA長官、統合参謀本部議長、国防長官がラップトップを囲む様子を収めたある写真では、彼らの後ろに、紛れもなくXのタイムラインが映し出されたスクリーンが写っている(黄色の目立つ絵文字まで映されている)。別の画像を見ると、検索窓には「ベネズエラ」というワードが打ち込まれているようだ。

つまり、世界最高峰の諜報システムを利用できる立場にあって、彼らがミッションの最中にチェックしていたのは、なんとXだったのである。この作戦本部はマール・ア・ラーゴの大統領の屋敷内に設置され、屋敷の他の部分とはカーテンで仕切られている。そのことも相まって、この画像はほとんどシュールな空気すら纏わせている。あたかも12歳の男の子たちが地下室に集まって、史上最も殺傷能力の高い軍隊を指揮しているかのように見えるのだ。しかもその目的はと言えば、オンライン上での評判を高めることなのである。
ネット張り付き民によるアルゴクラシー
トランプは間違いなく、ソーシャルメディアをアメリカ史上最も巧みに操った大統領だ。ソーシャルメディアを利用して、人々の注意を惹きつけ、規範を作り変え、陰謀論を焚きつけた。この巧みなソーシャルメディアの利用によって、例えば、孤立主義を掲げていたMAGAの連中を、一夜にして熱心な植民地帝国主義者にしてしまった。
だが本エントリで指摘したいのは、目下のトランプ政権の行動が、単にソーシャルメディアを巧みに操っているという以上の、もっと懸念すべき事態であるということだ。私たちは現在、クリック独裁(clicktatorship)の下に置かれている。この国を支配しているのはワロリヴァイアサン(LOLviathan)であり、ネット張り付き民(poster brains)がアルゴクラシー(アルゴリズム統治)を敷いている [1] … Continue reading。
私の言う「クリック独裁(clicktatorship)」とは何か。それは、ソーシャルメディア的世界観と権威主義的傾向が組み合わさった統治形態を指す。クリック独裁下において、政府職員たちは、単にオンライン・プラットフォームをコミュニケーション手段として利用するだけでなく、その信念、判断、意思決定自体が、オンライン空間の影響を受け、オンライン空間のノリに極端なほど反応するようになってしまっているのである。「クリック独裁」の下では、基本的な政策決定からその実行手段まで、あらゆるものがコンテンツと見なされる。
ソーシャルメディアはドラッグのように作用し、ドーパミンを放出させて脳の報酬系を組み替える、ということを思い出そう。これだけで既に不健全だが、そのダイナミクスをいっそう悪化させているのは、オンラインで目立つためには往々にして最低なふるまいをすることが求められる、という事実だ。こうして人は、デマや陰謀論などに基づき、怒りや憤りなどのネガティブな感情を刺激する言動をとるようになるのである。
ここまでの議論に目新しいところは何もない。実際、ソーシャルメディアが投票行動に及ぼす影響は、政治学において盛んに研究されている。クリス・ヘイズ(Chris Hayes)と共著者たちは、注目稼ぎ産業(attention farming)が、私たち個人、そして民主主義にとっていかに有害かについて、説得力ある議論を行っている。しかし、私がここで言いたいのは、ソーシャルメディアが政策立案者たちによる国家権力の行使の仕方にまで影響していることにも目を向けるべきだ、ということである。
つまり、トランプ政権がナラティブを作るためにソーシャルメディアを利用しているというだけではなく、トランプ政権のメンバーの多くはソーシャルメディア中毒である、というのが本エントリの主張だ。政府幹部がアルコール中毒や薬物中毒であれば、判断や意思決定に影響が出る以上、私たちはそれを懸念するだろう。だが、ピート・ヘグセス〔国防長官〕やイーロン・マスクのソーシャルメディアへの強迫衝動も(彼らのアルコール摂取やケタミン服用と)同じように懸念すべきなのだ。
世界で最も権力を持つ人々の一部の脳みそが、ネットの見過ぎのせいでめちゃくちゃになっている。これはアメリカだけの現象ではない。韓国の元大統領・尹錫悦は、ネット上の選挙不正陰謀論を本気で信じ、戒厳令を敷き憲政の危機をもたらして、最終的に逮捕された。
だがアメリカ政府の場合、ネット張り付き脳の問題は広く蔓延しているように感じられる。トランプ政権はネット張り付き民たちによって構成されている。だからこそ、トランプ政権はこれほど多くの人々の注目を勝ち取ってきたのだ。例えば、現在のFBI長官カッシュ・パティルの最も有名な肩書きはpodcast配信者である。
彼らはソーシャルメディアのレンズを通して世界を眺めている。それは間違いなく、彼らの判断を歪め、パフォーマンスを低下させている。ネット張り付き脳によって政府運営にどんな影響が生じ得るかを考えてみよう。
オンラインバブル
「Twitterは現実じゃない」という格言にもあるように、ほとんどの人はソーシャルメディアにそこまでたくさんの時間を費やしているわけではない。怒り製造職人(outrage farmer)は、たくさんのフォロワーを獲得して自分たちのナラティブを広めているが、それを支えているのは、分断を煽るようにプログラムされたボットだ。
オンラインに長い時間浸りすぎると、非現実的かつますます有害になっていく環境の中で、ドーパミンを放出し続けるために、極端な行動に駆り立てられるようになっていく。富裕層や権力者はそもそも、自分たちに忠実でない人々と接触する機会がほとんどないので、このオンラインバブル問題 [2]訳注:エコーチェンバーやフィルターバブルと同義と捉えてよい。 はいっそう深刻だ。これが代表制政府の理想などではないということは指摘するまでもない。だがオンラインバブルは、政府の上層部だけでなく、あらゆるレベルにおいて問題を生じさせる。例えば、ネット張り付き民が政府のメディアアカウントの運営を任されて、自分たちのいるバブルの中で流れてくる白人ナショナリストのプロパガンダをそのまま大量に投稿してしまったりすることもある。
職業上の人格とオンライン上の人格との葛藤
これまでは、政府機関を代表する立場にある人々は公の場での発言に気を付けるものだった。例えば、大学の学長が自分のアカウントで悪ノリ投稿を繰り返していたらおかしいだろう。しかしトランプ政権の職員たちは、そうした自制を行っている気配がなく、トランプのイメージに沿うようなオンライン上の人格を保ち続けたままである。しかし、専門性を持つ職員として職務を遂行しなければならない場面では、オンライン上の人格と制度的期待との間の緊張関係が限界に達してしまうこともある。
このことが最も明確に現れるのは、トランプ政権の政府高官が議会で証言する場面だ。そこでは、彼らのオンライン上やその他の場所におけるふるまいは専門職としての自覚が欠けている、ということがはっきり炙り出されてしまう。中には、この緊張を解消するために、オンライン上の人格を完全に受け入れ、ネットウケする言動を武器に公聴会に乗り込んできた者もいた。公聴会がXの投稿のような様相を呈し始めれば、行政府の説明責任など存在しないも同然になる。

職業倫理と職場慣行の劣化
ハーミート・ディロン(Harmeet Dhillon)はネット張り付き民の典型だ。ディロンのことを知らない人のために言っておくと、彼女はソーシャルメディアに張り付いている編み物中毒者である。
ハーミート・ディロン:帽子を編み終わるのが1時間も遅れちゃったよ。
知恵遅れ(retards)のインフルエンサーたちのおかげで。
残念ながら、ディロンは司法省公民権局の局長でもある。公民権局の中には障碍者権利課も置かれており、障碍を持つ人々の権利を守るという任務が与えられている。しかしディロンはそんな立場にあって、編み物に集中できないという不満を言うために、障碍者コミュニティで広く障碍者差別のスラングと見なされている表現(他人を発達障碍を持つ人になぞらえて嘲笑する表現)を使ったのだ。こんな人間が障碍者の権利を守るなどと思えるだろうか?
ディロンはオンライン廃人の例でもある。上の投稿でディロンが「知恵遅れのインフルエンサーたち」と罵っているのは、陰謀論を吹き込まれたネット上のMAGAたちだ。MAGAたちは、ディロンにもっと仕事をしろと苦情を述べていたのである。彼らがディロンに失望したのも無理はない。ディロンは、ネット上の投稿を参考にして、公民権局による調査の優先順位を設定していたのだから。
ハーミート・ディロン:公民権を巡る課題に直面しているアメリカ人を助けるための新しい方法を見つけます。ソーシャルメディアの良い使い方!
だが、ディロンはこれだけソーシャルメディアに浸かりきっているのに、まだまだ影響力が足りないと悩んでいる。司法省公民権局局長にまで昇りつめた法曹であるというのに、どうすればリツイートやフォロワー数を増やせるのかと未だに頭を悩ませているのだ。
ハーミート・ディロン:政府の仕事を始めてからフォロワー数がほとんど増えてない。私ってもしかして、ここではどうでもいい奴認定なの?
みんながもっといいねやシェアしたくなるようなコンテンツってどんなの?
ソーシャルメディアのノリに合わせた意思決定
オンライン廃人の多くは、自分の想像上のオーディエンスを喜ばせようとしがちだ。例えば、FBI長官ことpodcast配信者のカッシュ・パティルは、オンラインの批判者たちのご機嫌をとるために、FBIのベテラン幹部たちをクビにしたと報じられている。USAIDは、オンライン陰謀論によって壊滅に追い込まれた最初の連邦機関だ(その結果は悲惨であった)。
トランプ政権はオンライン空間に莫大な資源を投入してきたので、MAGAのオンライン・インフルエンサーたちは今や、産業界から報酬を受けロビイストとして政策形成に影響を与えたり、逆に政府から雇われて世論形成を行ったりしている。例えば、ある内部文書によると、ICEは「Z世代やミレニアル世代のフォロワーを多数持ち、『軍人の家族』、『フィットネス』、『戦術的/ライフスタイル愛好家コミュニティ』に属する」インフルエンサーたちに、800万ドルを支払う計画であるという。
保健福祉省(HHS)の上級職員は、ミネソタ州の巨額の育児給付金詐欺事件に関して、既に誤っていることが証明済みの主張を繰り返している右翼系YouTuberの発言を取り上げて、「素晴らしい仕事」と称賛した上で、それを根拠にミネソタ州への連邦育児給付資金の全面的な打ち切りを正当化した。デュ―プロセスも審査もあったものではない。どこかのオンライン廃人の言葉だけを根拠に、こんな意思決定を下してしまうのだ。
彼らは、他のセーフティネットプログラムへと凍結対象を広げていって、100億ドル以上の資金補助を拒否したのだが、その対象は民主党が支配する5つの州だけであった。これで彼らの意図が分かるだろう。これは政府閉鎖期間に起こったこととそっくりだ。その際も、インフラ関連資金はもっぱら民主党支配の州(blue states)のみでキャンセルされていた。オンラインの陰謀論が破滅的な影響をもたらしていても、それがよそ〔共和党支配でない州〕で起こっていることなら結構、というわけだ。

コンテンツを生み出すための意思決定
トランプは、「アプレンティス」というリアリティ番組 [3]訳注:実業家が十数人の候補の中から自身の下で働く「見習い」を選ぶ番組。 で作り上げられた「無駄を嫌う経営者」というイメージのおかげで大統領になった人物だ。トランプは、ナラティブの力に対するエンターテイナー的な本能をそなえており、それはプロレス対決を手本にしている。そして、ナラティブを維持するためには、コンテンツを供給しなければならない。既に、政府のウェブサイトやソーシャルメディアのアカウントには明らかな変化が見られる。今やそれらは、MAGAの言葉遣いでトランプをヒーローに仕立て上げているのである。
政府内の意思決定者たちは、自分たちの選択がいかに視覚的に強力かをよく理解している。トランプがマドゥロ拘束時に連投した写真を思い出そう。コンテンツ映えへの意識は、彼らの意思決定にどれだけ影響しているのだろうか?
権力と支配を示すイメージは、とりわけ重用されている。トランプがジェット機から抗議者たちに向けてうんこを投げているといった画像は、AI生成だとしても十分な不安要素になる。それがリアルの写真ならいっそう悪い。政府支出を使って、現実の人間に苦しみを与えているのだから。
国土安全保障省(DHS)は、移民の逮捕の様子をプロパガンダ動画にまでしてしまった。覆面の政府職員が銃を振りかざして移民を追い回す様子が、さながらアクション映画やビデオゲームのような演出で編集されているのだ。ヘルメットカメラや同行カメラマン、勢いのあるサウンドトラックといった要素は、この動画がバズり目的で公開されたものだという印象をいっそう強化する。
ミーム中毒者たちを政府にリクルート
これは、ソーシャルメディアのチームが、ホワイトハウスの後押しを受け、作戦を形成したり事実を歪曲して広めたりする上でかつてないほどの役割を果たしている、という一連のパターンの一部だ。都市をまるで戦争で荒廃したかのように写した写真や、覆面の職員が移民を荒々しく取り押さえている様子を映した動画、逮捕された人々(その中には抗議運動に参加していたアメリカ市民も多く含まれている)を辱めるようなコンテンツが重用されている。「作戦の中身が、『最悪中の最悪』を制圧するというナラティブに沿わないものなら、その作戦はお蔵入りになる」とは、ある政府広報職員の言葉である。
シカゴのアパート住宅への軍隊式の突入を映したDHSの映像はとりわけ劇的なものだ。職員がヘリコプターから降下し、ドアを蹴飛ばして中に侵入していったのだ。結果は? なんと、誰も刑事責任を問われていないのである。
それどころではない。これらの画像は、ICE職員をリクルートするためにも利用されている。つまりICEは、「この仕事は外国の侵入者からこの国を守ることだ」と言って、それを魅力的に思うような人々をリクルートしようとしているのだ。軍隊っぽいイメージが強調される一方、本来それに伴うはずの軍隊的な規律は一切くっついてこないので、移民やその他の人々に暴力をふるいたくてたまらないような人々にとっては魅力的に映ることだろう。これについて元ICE長官は、ワシントン・ポストで次のように説明している。
法執行の強調は、「できるだけ早く現場に到着して人々を踏みつけにすれば、この国は良くなる」なんてものであってはいけない、と彼女は語る。「そういうメッセージによって育まれるメンタリティは、実際には業務の85%で必要とならないような攻撃性を、職員に植え付けてしまうでしょう」。
白人ナショナリストのミームと、ソーシャルメディアでの暴力映像を組み合わせたリクルート手法は、どんな人が政府職員になるか、職員が自身の目的をどう捉えるか、を変えてしまう。現在、ICE職員は過剰な暴力をふるっていると非難されているが、これは驚くにあたらない。彼らは、国家による法執行という大義名分で暴力をふるえることこそがこの仕事の売りだ、と聞かされてこの職に就いたのだから。
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ここで取り上げたのは氷山の一角に過ぎない。どの政府機関を見ても、ネット張り付き民が重要な意思決定を行っている例は見つかるだろう。デジタル・ネイティブが政府要職に入っていくにつれて、このトレンドは悪化していく一方だと思われる。そしてこのパターンは、本エントリで取り上げた以外の様々な仕方で、政府職員の専門職としての行動を掘り崩すだろう。とりわけ、トランプ政権はネット張り付き脳、個人崇拝、権威主義の交差点となっており、その有害性は群を抜いている。
ここでの説明が初歩的かつ不完全なものだとしても、これは、人々が直感的に理解していながらも、ガバナンスの問題としてきちんと論じられてきたわけではない大問題であるように感じられる。本エントリの投稿後に、同じ現象を取り上げた論考として、クーパー・ランド、チャーリー・ウォーツェル、ライアン・ブロデリックのものを挙げておく。
まとめると、ソーシャルメディアがこの国を運営する人々の脳(そして行動)を組み替えてしまっているという事実を、私たちはもっと真剣に懸念すべきである。
[Don Monynihan, Life Under a Clicktatorship, Can We Still Govern?, 2026/1/7.]


