ノア・スミス「AI はまだぼくらの仕事を奪ってないの?」(2026年2月11日)

エージェント型コーディングアプリに世間が驚嘆しているところで,そろそろ「AI はまだみんなの仕事を奪っていないの?」をまた取り上げよう.このところ,世間の注目は,もっぱら若い大卒者たちに注がれている.これまでの図式はこんな具合だ――「AI は主に知識労働を自動化する.ソフトウェア開発・法務サービスなどがその対象だ.だから,AI は他のどの職種よりもホワイトカラー初級職の雇用に大きく影響する.」

これが,Brynjolfsson et al. (2025) の説だった.そして,マイク・コンツァルの新しい投稿の話題でもある:

Source: Mike Konczal〔点線が歴史的パターンから予想される水準を示すのに対して,実線は実際の水準を示している.オレンジの点線・実線が大卒新卒者の失業率〕

コンツァルはこう述べている:

ここに見てとれるように,22歳~27歳の非大卒者たちは,労働市場が減速したときに予想されるとおりの推移を見せている.ところが,若い大卒者たちは,労働市場の減速時に予想される傾向線を大きく上回っている.

念のため:大卒者の失業率は,いまも非大卒者より低い.そして,全体の失業率は上がっている(…).異例なのは,歴史を踏まえて大卒者失業率が位置するはずの水準と,今日じっさいに位置している水準の乖離だ(…).若い人たちの失業率は,全体の失業率が 4.4% のときに予想される水準を上回っている.とくに,失業率のピークと20代を通して,その乖離が目立つ.歴史に照らして,最近の失業率は驚きだ.よろしくない種類の驚きだ.

「AI によって,この歴史的パターンの変化が生じている」とは,コンツァルは主張していない.ただ,それを色濃くほのめかしている.

そこへ,アダム・オジメックがこう指摘した――この筋書きは,失業率を用いるかどうかに左右される.失業率じゃなくて雇用率を見ると,様相がガラリとかわる:

Source: Adam Ozimek

「雇用率も失業率も同じものを測ってるんでしょ?」と思うかもしれないけれど,ちがうんだよ.政府による計算方法では,雇用率とは仕事に就いている人たちの割合だ.他方,失業率とは,いま仕事に就いていないけれど仕事を探している人たちの割合をいう.つまり,失業率の方は,誰が「いま求職中です」と回答するかで変わってくる.雇用率は,それに左右されない.

実際,オジメックが示しているように,近年の大卒者の労働参加率はだいたい一定の割合を示している(i.e. みんな仕事を見つけようとしている)のに対して,同年齢の非大卒者たちの多くは求職をすっかりやめている.すると,大卒者の失業率の方が高くなるわけだ.でも,「仕事に就いてる人」の割合を見ると,両者の差は,ChatGPT の公開以降に実は開いてきてる.

この単純な観察は,「AI が若い大卒者の雇用を奪っている」という考えに冷や水をぶっかけている.それでもまだ足りないとばかりに,ゼンナ・イシェンコがこの説にさらに疑いをかける秀逸な記事を書いている.イシェンコはこう指摘している――「AI 曝露」がより大きいと典型的に認識されている雇用は,マクロ経済の浮沈に影響を受けやすい雇用でもある傾向がある:

ただ,現にそうなっているのを示すよい証拠はなさそうだ.もしかすると,今年がその年になるのかもしれないけど.

「AI 曝露度」と「金利感応度」の変数はとても強く相関している(…).AI 曝露度が上位五分位に入っている職業は,「情報」「金融・保険」「専門・技術サービス」といった分野に圧倒的に集中している.(…)これらは,まさしく資本コストと広範な経済の不確実性にもっとも感応しやすい部門だ.この発見は,既存の経済学文献に支持されている.たとえば Gregor Zens, Maximilian Böck, & Thomas O. Zörner がそうした研究だ.この論文では,容易に自動化されるタスクに従事している労働者たちは,伝統的金融政策ショックに圧倒的に影響される人々でもあるのを見出している.

AI 曝露度がマクロ経済ショックへの感応度と相関しているという解釈をさらに支持する事実がある.それは,「AI 曝露」の大きい職種の求人数が2020年前半の採用減少期にいっそう大きく落ち込んでいる,という事実だ(…)これは,生成 AI が理論上ですらこの差の説明になりえない時期だ.

まだまだ,大学新卒者の採用の減速は,AI が仕事を奪っている好例ではなさそうに見える.みんながこれを心配している理由はぼくもわかるし,AI 時代に新しい仕事を探さなきゃいけなくなる人がおおぜい現れるのはありそうな未来だとも思ってる.さらに,なんだかんだ人々は AI にとってかわられずじまいになるとしても,AI の及ぼす影響に関する不確実性で採用が減速してしまう可能性は大いにありそうに思える.

ただ,現にそうなっているのを示すよい証拠はなさそうだ.もしかすると,今年がその年になるのかもしれないけど.


[Noah Smith, “Is AI taking our jobs yet?”, Noahpinion, February 11, 2026]
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