マーク・ソーマ 「自爆テロ犯の実像」(2005年12月17日)

テロ組織が産声を上げている国で「市民の自由」が拡大されたら――政府が「集会の自由」に干渉せずに平和的に抗議する権利を国民に認めたら――、自爆テロが減るかもしれない。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23632196

プリンストン大学の経済学者であるアラン・クルーガー(Alan Krueger)が、「市民の自由」と「テロ」との間にある興味深いつながりを見つけ出している。貧困という経済的な要因がテロを生んでいるという説に手痛い一撃を食らわす発見だ。

Murdercide” by Michael Shermer, Scientific American:

・・・(略)・・・「貧しくて、無学で、世に不満を持っていて、情緒が不安定気味」というのが自爆テロ犯に対して世間一般で抱かれているイメージだが、科学(学術的な研究)はそのイメージに異を唱えている。司法精神医学が専門で外交政策研究所に籍を置くマーク・セージマン(Marc Sageman)がアルカイーダのメンバー400名を対象に行った研究によると、400名のうちの4分の3が上流階級ないしは中流階級に属していたという。 さらには、「圧倒的多数――90%――が温かくて両親が揃っている家庭で生まれ育っている。(400名のうちの)63%が大学に進学している。ちなみに、第三世界で大学に進学している人の割合は、5~6%に過ぎない。すなわち、彼らは、多くの面に照らして、それぞれの出身地における『最良にして最も聡明な人材』なのだ」。無職だったわけでもなければ、養うべき家族がいないわけでもない。「73%が結婚していて、そのうちの圧倒的多数に子供がいる。・・・(略)・・・4分の3が専門職ないしは準専門職に就いていた。エンジニア、建築家、土木工学者など、理系の職が大半を占めている。前職が文系の職という例は非常に少ない。宗教絡みの職に就いていたという例も驚くほど少ない」。

・・・(略)・・・自爆テロ犯になるためには、自爆テロという行為に伴う恐怖を飼い慣らす必要がある。テロ組織は、どうやってテロリストの新人たちに恐怖を克服させているのだろうか? 心理的な条件づけを試みるというのが一つのやり方である。・・・(略)・・・ 1980年代に自爆テロが称えられ祝われるようになると、殉教という行為および殉教者が崇拝されるようになった。自爆テロで命を落とすと、まるでスポーツのスター選手みたいにポスターにしてもらえるのだ。

「集団力学」に頼るというのが別のやり方である。セージマン曰く、「テロリストの知り合いを介してジハードに参加したり、知り合いと一緒にジハードに参加したりする例が多い。知り合いとの絆がジハードへの参加を決める上で重要な役割を果たしたケースは、全体の65%に達する」。人との絆は、自己犠牲を避けようとする自然な衝動を抑えつける上でも一役買っている。セージマン曰く、「スペインで自爆テロを起こしたグループがもう一つの格好の例である。彼らは、7人で一緒に同じアパートに住んでいた。そのうちの一人がこう言ったという。『なあ、みんな。今夜にでも一緒にぶちかまそうぜ』。友達を裏切るわけにはいかず、一緒に同行するわけだ。単独で行動していたら、おそらく自爆テロには手を染めなかっただろう」。

自爆テロを減らすためには、どうしたらいいのだろう? テロリストの育成に組織が果たしている重要な役割を踏まえると、 アルカイーダのような組織に狙いを定めて解体を試みるなりすべきだと言えよう。自爆テロを減らすための方法は、他にもある。プリンストン大学の経済学者であるアラン・クルーガー(Alan B. Krueger)によると、テロ組織が産声を上げている国で「市民の自由」を拡大すればいいという。クルーガーがテロに関する国務省のデータを分析したところ、以下のような事実が明らかになったというのだ。「比較的多くのテロリストを輩出しているサウジアラビアやバーレーンといった国は、経済的には豊かだが、『市民の自由』が大きく制限されている。その一方で、貧しくても『市民の自由』が確保されている国では、自爆テロ犯が生まれにくいようだ。政府が『集会の自由』に干渉せずに平和的に抗議する権利を国民に認めたら、テロの代わりを用意する(自爆テロを減らす)上で大いに役立つのは明らかである」。


〔原文:“Alan Krueger: Civil Liberties and Terrorism”(Economist’s View, December 17, 2005)〕

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