タイラー・コーエン 「イギリス海軍の指揮官は、勝ち目があるかどうかを合理的に判断していた?」(2019年7月15日)

帆船時代の海戦において、イギリス海軍の指揮官は、勝ち目があるかどうかを合理的に判断して、戦いを挑むかどうかを決めていたようだ。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23787546

相互楽観理論によると、争いの結果(勝ち目)について両陣営がともに楽観的な「信念」を抱く(「こちらに勝ち目がある」と楽観的に見込む)がゆえに国際紛争が起こるとされる。しかしながら、信念というのは第三者には観察できないために、理論(相互楽観理論)の妥当性を系統的に検証するのは容易ではない。そこで、本稿では、帆船時代の海戦に備わる独自の特徴――指揮官の判断で戦わずに逃げるのが可能になっているというのもそのうちの一つ――に目を付けて、観察可能な変数(特徴)だけに照らし合わせて理論の妥当性を検証する可能性を探った。まずはじめに、相互楽観理論を定式化した数理モデルを組み立てて、二通りの予測を導き出した。すなわち、戦うか戦わずに逃げるかを両陣営がともに選べる状況で起きる「双方向海戦」では、観察可能な戦力から勝敗(戦果)がどうなるかを占うことはできない [1] … Continue readingが、戦うか戦わずに逃げるかをどちらか一方の陣営だけが選べる状況 [2] … Continue readingで起きる「一方向海戦」では、観察可能な戦力から勝敗(戦果)がどうなるかを占える [3] … Continue readingという予測が導き出されたのである。次に、これらの予測の妥当性を検証した。1650年から1833年までの間にイギリス海軍の戦隊が関わった全海戦のデータと突き合わせたところ、理論から導かれる予測と整合的な結果が確認された。観察可能な戦力が上の陣営が「双方向海戦」で勝つ可能性が高いかというと、そうではないのだ。

デビッド・リンジー(David Lindsey)の論文のアブストラクト(要旨)より。切れ者のケヴィン・ルイス(Kevin Lewis)経由で知った論文だ。イギリス海軍版の(「同意しないことに同意」できるか否かに関する)オーマンの定理(pdf)ってことだろうかね。


〔原文:“British naval commanders were somewhat rational in avoiding battles”(Marginal Revolution, July 15, 2019)〕

References

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1 訳注;観察可能な戦力が上の陣営(例えば、銃を多く持っている側)が勝つ確率が高いとは言えない、という意味。言い換えると、観察可能な戦力が下の陣営が(戦うか戦わずに逃げるかを選べるのに)戦うのを選ぶだけでなく勝つ可能性も大いにあるということになる。なぜそうなるのかというと、観察可能ではない私的な情報に照らして勝ち目があると判断するがゆえであり、その判断が的外れではないからである――観察可能な戦力が下であるだけでなく、観察可能ではない私的な情報に照らしても勝ち目がないと判断されるようなら、戦わずに逃げる――。「双方向海戦」では、観察可能な戦力が上の陣営も下の陣営も「こちらに勝ち目がある」と楽観的な見込みを抱くがゆえにぶつかり合うことになるが、どちらもそれなりに合理的な根拠があって楽観的な見込みを抱くに至っているという解釈が成り立つわけである。
2 訳注;もう一方の側が(錨を下ろして停泊中だったり、商船団を護衛している最中だったりして)攻撃を仕掛けられたら迎え撃たざるを得ない状況。
3 訳注;観察可能な戦力が上の陣営(例えば、銃を多く持っている側)が勝つ確率が高い、という意味。戦うか戦わずに逃げるかを選べる唯一の陣営が戦うのを選ぶ(攻撃を仕掛ける)がゆえに「一方向海戦」が起こるわけだが、なぜ戦うのを選ぶかというと「勝ち目がある」と判断したからこそだろう。「観察可能な戦力が相手を上回っている→『勝ち目がある』と判断→攻撃を仕掛ける→勝利」となる可能性が高いがゆえに――「勝ち目がある」という判断が的外れではないがゆえに――、観察可能な戦力が上の陣営が勝つ確率が高くなるという結果になるわけである。
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