●Joseph Heath, “Capitalism remains controversial”（In Due Course, August 12, 2014）
価格システムを通じた財の配分に対する世間の抵抗というのはだいぶ粘り強いようで――あのアメリカにおいてでさえも！――、その根強さには驚かされるばかりだ。「需要量と供給量を一致させるために、価格を自由に変動（上下動）させるべきだ」という考えは、大抵の人にとって、直感に反するばかりか、道徳にも反するように感じられるらしいのだ。そのことを示す又（また）とない実例がある。（配車サービス業界の革命児たる）Uber社が導入した料金システム（サージ・プライシング）に対する最近の騒動がそれだ――「市場行動の社会学」に興味がある向きには、こちらやこちらの記事は面白く読めるに違いない――。Uberのサージ・プライシングは、その時々の需給状況――乗車を希望している人がどれくらいいるか、路上にいるドライバーの数はどれくらいか――に応じて、リアルタイムで乗車料金を変動させる仕組みだ。テクノロジーの助けを借りて、あの完全競争市場――経済学入門の講義で必ずや登場するあの完全競争市場――に似たマーケットを作り出そうとする試みの格好の例だと言える。料金が据え置かれて「不足」に悩まされる（乗車の順番が回ってくるまで長時間待たされる）よりは、料金の上昇（を通じた需給の調整）を受け入れる方がいいんじゃないかと思う人もいるかもしれないが、Uberの利用者たちの間で（需要の急増に伴う）料金の引き上げに怒りの声が上がっているのだ。
品不足が生じたら（需要が供給を超過したら）価格の上昇を受け入れるべき理由について経済学者が説明に乗り出してから200年以上が経過している。世間の人々も程度の差はあれその説明を受け入れてきているように見える。そうであるにもかかわらず、品不足が生じて価格が上昇したらこんな反応になるのだ。道徳的な直感のレベルで大いに反発を感じてしまうようなのだ。私としては、そのことに驚かされてしまうのだ。勘違いしないでもらいたいが、「市場」という制度はそのうち消えてなくなるだろうとか、Uberの料金システムはおかしいとかって言いたいわけではない。「市場」が我々の生活を取り巻く支配的な経済制度として浸透する一方で、我々の道徳的な直感は「市場」を組織立てる中心的な原理（需給の変動に応じた価格の上下動）に未（いま）だに――何世代もの長きにわたって！――馴染（なじ）めないでいる。そんなことがどうして可能なんだろうか？ 私が気にかかっているのは、そのような何とも不可解な（そして、哲学的でもある）疑問なのだ。
