訳注;この格言は、ミルトン・フリードマン(著)『Money Mischief:Episodes in Monetary History』(邦訳『貨幣の悪戯』)の中で出てくる言葉。具体的には、チリとイスラエルによるドルペッグ制の実験との絡みで発せられた言葉。チリは1979年に、イスラエルは1985年に、それぞれドルペッグ制(自国通貨とドルとの交換比率を固定する為替制度)を採用したが、その結果としてチリは痛い目に遭ったが、イスラエルは上々の成果をあげた。「同じ選択」が「正反対の結果」をもたらすことになったわけだが、フリードマンはその理由を「外的な環境」の違い(ドル相場の変動、主要な輸出入産品の価格動向)に求めている。当事者の力ではどうにもならない「外的な環境」の違いによって、「同じ選択」が「正反対の結果」を生んだという経験を要約して発せられたのが、「運的な要素(偶然)が果たす重要性を過小評価するなかれ」という格言というわけである。
訳注;ちなみに、タイラー・コーエンもこの論文を話題にしており、関連する研究としてローレン・ブラント(Loren Brandt)&トーマス・サージェント(Thomas Sargent)の共著論文――“Interpreting new evidence about China and U.S. silver purchases”(pdf)――と、ミルトン・フリードマンの論文――“Franklin D. Roosevelt, Silver, and China”――に言及している。フリードマンの論文は、訳注1でも触れた『貨幣の悪戯』に第7章として収録されている。『貨幣の悪戯』のはしがきで概要が述べられているので、引用しておこう。「第7章では別のエピソードを取り上げよう。1930年代にアメリカが実施した銀購入計画の波紋である。西部選出の上院議員たちを懐柔しようとフランクリン・ディラノ・ルーズベルト大統領はある決断を下した。まさかその決断〔銀購入計画;引用者注〕がアメリカから遠く離れた中国共産党の勝利に目に見えるような形で貢献することになろうとは誰が聞いても突飛な話としか思わないだろう。だが、この出来事が引き起こした一連の事象は明白であり、紛れもない事実である」(邦訳、pp. 9)。ルーズベルト大統領による銀購入計画は、「小事と思われた出来事の波紋がはるか遠くまで拡がり、まったく思いも寄らない影響を歴史に及ぼしたという実話」(邦訳、pp. 7)であり、「一見、通貨の動向の些細な変化と思われたことが、実は経済全体に思いも寄らない影響を広範に与えた」(邦訳、pp. 6)例の一つだという。