タイラー・コーエン 「チャーチルとその懐事情」(2016年2月26日)

あのチャーチルは、お金の管理がだいぶ下手だったらしい。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/1070778

今回取り上げるのは、デビッド・ロウ(David Lough)の新著だ。「Churchill and His Money」(「チャーチルとその懐事情」)というのがサブタイトルで、『No More Champagne』(『シャンパンはそこまで』)というこれまた的確なタイトルがついている。チャーチルがかくまでにお金の管理が下手で、私生活でかくまでにダメダメな判断ばかり下していたとは知らなかった。本の冒頭の一部を引用しておこう。

・・・(略)・・・チャーチルは、曾祖母がアイルランドに所有していた不動産を相続したばかりだった。かくして、起業家精神の持ち主だった一人の男が人生で初めて土地の持ち主(地主)――妻のクレメンティンの表現だと、「不労所得者」(rentier)――へと転身したのだった。

チャーチルは、相続した財産を10年もしないうちに食いつぶしてしまい、妻をいたく落胆させた。 チャートウェルに建てたばかりの邸宅の管理費を過少に見積もってしまっただけでなく、妻に伝えている以上の額をギャンブルにつぎ込んでいたのだ。それに加えて、1929年にウォール街で起きた株価暴落で大損してしまったのだ。

チャーチルは、1930年代に保守党の中枢から退いたが、そのおかげで(文筆活動に割ける時間が増えて)作家としてこれまで以上にお金を稼ぐことができ、それまでの損失をある程度埋め合わせたという。チャーチルの生き生きとした文体が育(はぐく)まれた背後にはこういう事情もあったのだ。ところで、チャーチルが生涯で借りたお金(借金)の総額は、現在の価値に換算しておよそ375万ドルに上(のぼ)るらしい。そして、こんな話も。

・・・(略)・・・チャーチルは、10年間にわたり、休日になるとギャンブルに大金をつぎ込んだ。年平均の負け額が(現在の価値に換算して)4万ポンドに達するほどまでに。

個人的にお気に入りの箇所も引用しておこう。

財務大臣を務めるからには、これまでの金遣いを見直さねばならぬだろう。チャーチルは、そう自覚していた。

お気に入りをもう一丁。

第二次世界大戦が終わってみると、イギリスの所得税の最高税率は97.5%という涙が出るほどの高さに達していた。そのため、チャーチルは、お抱えの税理士が内国歳入庁〔日本で言う国税庁〕を説得できない限りは――何かしらの事業で得た収益を税金がかからない資本収入(capital receipt)として届けても問題無さそうという保証が得られない限りは――、どんな事業にも手を出そうとしなかった。

チャーチルは、第二次世界大戦中に内国歳入庁と何度もやり合ったそうだ。何度も不服申し立てを行って、大抵は彼の言い分が通ったというのだ。やがては内国歳入庁もチャーチルの(税金の)申告にケチをつけるのをやめたらしい。チャーチルは40年以上にわたって徴税吏員と小競り合いを続け、そのほとんどで彼に軍配が上がったというのだから驚きだ。

お薦めだし、興味深い一冊だ。お金(お金の管理)の面で問題を抱える政治家というトピックに切り込むなら、他にも材料がありそうだ。


〔原文:“Churchill and His Money”(Marginal Revolution, February 26, 2016) 〕

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