●Tyler Cowen, “Dolphin markets in everything, Gresham’s Law edition”(Marginal Revolution, November 4, 2009)
実に面白い。
ケリー(メスのイルカ)は、さらにもう一歩先を行っている。(人間の)誰かがプールに紙を投げ入れると、それを咥(くわ)えて下に潜り、プールの底にある岩の下に隠しておくのだ。その後にトレーナーの姿を目にする機会がやってくると、プールの底にある岩まで潜っていって、 隠してある紙の一部を噛み切って水面に上がってくる。その紙切れをトレーナーに渡して、それと引き換えにご褒美として魚を頂戴(ちょうだい)するためだ。ご褒美を手に入れると、再び下に潜っていって、岩の下に隠してある紙の一部を噛み切って水面に上がってくる。ご褒美の魚をさらにもう一匹ゲットして、またもや下に潜っていき・・・というのを何度も繰り返すのだ。
ケリーのこの行動は、実に興味深い。なぜなら、「未来」という観念を持っていて、楽しみを先(未来)に延ばしていることが示されているからである。トレーナーに渡す紙のサイズの大小にかかわらず、ご褒美として貰(もら)える報酬(魚)の量が同じであることも、ケリーは認識しているようだ。だからこそ、岩の下に隠してある紙をそのまま持ってくるのではなく、わざわざ小さく噛み切って持ってくるのだ。そのようにして、できるだけ多くのご褒美を頂戴しようとしているのだ。人間がケリーを訓練しているのではない。ケリーが人間を訓練しているのだ。
ケリーの狡猾(こうかつ)なところは、まだある。ある日のことだ。一羽のカモメがケリーのいるプールに飛び込んできた。そのカモメをすかさず捕まえると、トレーナーがやってくるのを待ち構えるケリー。トレーナーが姿を見せると、捕まえたカモメを差し出す。そのカモメは大きな図体をしていたので、ご褒美の魚もたくさん貰えた。この経験をきっかけに、ケリーの頭に新しい考えが浮かんだようだ。次の食事タイムの時に、ケリーは食事の魚をすべて平(たい)らげずに一匹だけ残した。そして、その一匹を咥(くわ)えて下に潜り、プールの底にある岩の下――紙を隠しておいたのと同じ場所――に隠した。それからどうしたかというと、トレーナーが近くにいない時に、岩の下に隠しておいた魚を咥(くわ)えて水面に上がり、カモメを「釣る」ための餌(えさ)として使ったのだ。カモメを捕まえてトレーナーに渡し、それと引き換えにご褒美として大量の魚を頂戴しようと企(たくら)んだわけだ。この旨みのある妙技をすっかり体得したケリーは、我が子にも伝授した。そこからさらに他のイルカたちにも伝わっていった結果、イルカたちの間で「カモメ釣り」がブームになったのだった。
全文はこちら。情報を寄せてくれた David Curran に感謝。
ところで、イルカ界におけるバイメタリズム(複本位制)の今後はどうなりそうだろうか? 「グレシャムの法則」が発動して、「悪貨(紙)が良貨(魚)を駆逐する」にきまってる?