Gollin et al. 「農業が発展の原動力となるとき:グリーン革命からわかること」(2021年3月20日)

[Douglas Gollin, Casper Worm Hansen, Asger Mose Wingender, “When agriculture drives development: Lessons from the Green Revolution,” VoxEU, March 20, 2021]

【要旨】グリーン革命は,現代の育種技術と多収性品種の応用にもとづいて農業イノベーションがなされた重要なエピソードだった.本コラムでは,発展途上国におけるグリーン革命の文脈で農業生産性成長がもたらした経済効果を検討する.食用作物の収穫量,一人当たり GDP,学校教育,平均寿命に農業生産性はプラスの影響をもたらす.だが,その影響は国々で均等ではない.気候変動に直面するなかで,途上国向け農業科学への投資は,こうした利得を今後数十年にわたって維持する力を秘めているかもしれない.


貧しい国々では,比較的に生産性の低い農業部門が大きい.経済発展を研究してきた初期の研究者たちは,農業を袋小路だと感挙げて,発展と経済成長の原動力の大半は必然的に工業部門からもたらされると想定していた (Lewis 1951, Nurkse 1953).この見解は,近年の研究文献で挑戦にさらされている.そうした文献では,農業生産性の成長がその後の工業化に重要となる理論モデルを提示している (Gollin et al. 2007, Restuccia et al. 2008, Vollrath 2011).政府が開発の努力を農業に振り向けるべきかどうか,振り向けるべきとしたらいつがいいのか――この問いは,いまなお活発な政策論争の的となっている.だが,発展途上国で経済成長をもたらす力が農業にどれほどあるのかについて,明快な因果関係の推定を見出すのは困難なのがわかっている.

これまでの研究では,狭い地理的規模での準-自然実験を利用したり (Bustos et al. 2016),構造的推定に依拠したりして (Foster and Rosenzweig 2004),農業生産性の変化の代表的な影響を検討してきた.こうした証拠は,経済総体にもたらされる全体的影響に敷衍するのが難しい場合がある.農業で働く人々が労働者の大きな割合を占める貧しい国々では,経済発展の主要な仕組みは地域の労働市場のなかで働いていない.むしろ,そうした仕組みには,さまざまな場所をまたいで人々が大規模に移動することが関わっている:つまり,農村地帯から都市部への移動,あるいは,ある地域から別の地域への移動が関わっている.地域内の人々の移動を重視する研究では,こうしたより後半でより長期的な変化が見過ごされる.

我々の論文では (Gollin et al. forthcoming),グリーン革命の文脈で農業の生産性成長がもたらす全体的な経済的影響を研究している.グリーン革命は,現代史における最重要の農業イノベーションだったといえるだろう.グリーン革命は途上国が抱える農業面の各種課題に現代の育種技術を応用することで農業の生産性を高めた一例だと理解するのがもっとも適切だろう  (Evenson and Gollin 2003).だが,その生産性向上は各国で均等でなく,また,時期で見てもつねに一定の伸びを見せていたわけではない.当初,高収量品種 (HYVs) は米・小麦・トウモロコシで開発された.その後,科学者たちはグリーン革命の技術を他の多数の作物にも拡大していった.アジアの灌漑稲作地域や,アジアおよびラテンアメリカの小麦生産地では,ほぼ間を置かずに食料生産がとてつもなく増大した.だが,そうした初期の取り組みで他の発展途上地域が手にした便益は少なかった.

グリーン革命の起源

初期の高収量品種は国際的に資金提供を受けた一群の農業研究所 (IARCs) の創設と密接に結びついていた.そうした研究所が,低所得諸国における農業問題に新しい植物育種技術をもたらした.したがって,グリーン革命の起源はかなり精密にさかのぼれる.最初の2つの IARCs はフィリピン(国際稲研究所,1962年)とメキシコ(国際トウモロコシ・コムギ改良センター,1967年)で創設された.メキシコの国際トウモロコシ・コムギ改良センターは,1940年代後半に設立されたロックフェラー財団に資金提供を受けた小麦研究の進行中のプログラムから生まれた.他の多くの食料作物での育種活動を行う  IARCs  は,その後に創設されていった.

IARCs には公共的な性質があったため,公表後の高収量品種はどんな途上国でも自由に採用できた.そのなかで,小麦は興味深い例外となっている.小麦で初期に開発された高収量品種は1950年代中盤にメキシコで公表された.これは,関連する IARC の創設に先立っている.こうしたさまざまな品種の成功にもとづいて,メキシコの研究所の先端科学者だったノーマン・ボーローグは,1960年代序盤にインドに新しい種をもたらした.1965年に,その種はインドでもひとにぎりの近隣諸国でも商業利用できるようになった.歴史的な収量に関して我々が収集したデータを用いると,メキシコとインドで高収量品種の小麦が到来した時期のちがいは図1 にはっきりと見てとれる.

【図 1】 小麦の収穫量と高収量品種 (HYVs)

高収量品種の経済的な影響

各国経済にグリーン革命がもたらした影響の推定を,2段階で行う.第一に,高収量品種が作物の生産性にもたらした影響を推定する.そのために,グリーン革命の研究がもたらした16種の作物それぞれの生産性成長の傾向の変化を他の作物との比較で検討する.ここで注目するのは,最初の高収量品種が利用可能になった日時の前後期間だ.我々の検討からは,高収量品種で年間収穫量の伸びが 1.3% 増えたことが見出されている.なかでも,小麦と米が収穫量の伸びがもっとも高かった.キャッサバやソルガムといった他の重要な作物は,それほどグリーン革命の影響を受けていない――これには,高収量品種が利用できるようになった時点がずっと後の方だったこと,そして,高収量品種が収穫量に穏やかな影響しか及ぼさなかったこと,この両方の理由がある.

分析の第二段階では,各国の農業総生産量にしめる作物ごとのシェアと作物それぞれの推定値を組み合わせる.これにより,高収量品種が各国に及ぼした総合的な影響を推し量れるようになる.その論理は次のとおりだ.小麦や米といったグリーン革命の重要な作物に当初依存していた国々ほど,農業生産性の改善に関して高収量品種から便益を得ている.平均でみて, 1965年から2010年のあいだに高収量品種によって食料作物の収穫量は 44% 増えている.図 2 に示しているように,国によって高収量品種から得た便益の大小は異なる(図で,色が暗い地域ほど予測収穫量の増加が大幅だったことを示す).実際の収穫量にもたらされた総合的な効果はいっそう高い.その理由は,高収量品種が利用できた作物への置き換えがなされたことと,土地・労働力の割り当て変更にある.

【図 2】 予測された収穫量増大(パーセント),1965年~2010年

農業にもたらされた影響のこうした推定値をもとに,次はより広範な経済発展の数値を検討しよう.発展途上国86ヶ国を標本とした我々の実証分析からは,グリーン革命が多くの結果に及ぼした影響が強く,よい方向にはたらき,しかも頑健だったことが示されている.もっとも顕著な影響は,一人当たり GDP だ:グリーン革命が10年遅れると,2010年時点の一人当たり GDP が 17% 低下することが我々の分析結果からは含意される.さらに,〔収穫量の増大で〕食料がいっそう手に入りやすくなったあと,人口が増加しても食料がふたたび手に入りにくくなってはいない.この結果は,ネオ・マルサス的なモデルから予測されうることと異なっている.逆に,グリーン革命は出生率に負の影響をおよぼしているのが見出されている.我々の分析からは,グリーン革命の開始が10年遅れていたならば2010年時点の人口は2億人多くなっていただろうことが示唆される.また,発展を示す他の標識にも正の影響が及んでいるのが見出される.たとえば,平均寿命や学校教育への影響だ.さらに,研究文献でしばしば表明されている懸念についても,我々の研究で明らかになった部分がある.その懸念とは,農業生産性が改善すると,農地に利用される土地が増えていき,環境面で価値がある他の土地利用や森林が犠牲になるのではないか,というものだ.証拠はそれと逆になっているのが見出される:すなわち,グリーン革命を主導した科学者の一人であるノーマン・ボーローグの予測どおり,高収量品種によって収穫量が増大すると,農業に振り分けられる土地は減少していった傾向が見られる.

教訓と展望

グリーン革命といえば1960年代~1970年代が想起されやすい.だが,1980年代,1990年代,2000年代になっても新しく登場した高収量品種の数やその採用率は低下するどころか,逆に高まって言っている.サハラ以南の散在的な証拠からは,高収量品種の採用率は2000年代になっても,それ以前の40年間と同程度に増えていることがうかがえる.ひとつには,世界の他の地域,とくに東南アジアと比べて,アフリカの農業はキャッサバ・ソルガム・アワなど,比較的に遅れて高収量品種が利用できるようになった作物に特化していることが,その理由に挙げられる.この点で,我々の分析結果からは,20世紀後半に東南アジアとアフリカに生じた〔経済発展度合いの〕分岐を理解する手がかりが得られる.また,21世紀序盤にアフリカで比較的に急速な成長が起きたこと (McMillan 2014) を説明しうる説が,我々の結果からはもたらされる.

場合によっては,農業生産性の成長は農業以外の成長を進める重要な刺激となることがある (Marden 2014).しかしながら,一般に,農業生産性の向上がもたらす成長効果は,おのずと,農業部門が GDP に占める規模を低下させる.したがって,世界経済に占める農業の割合が縮小していくのにともなって,農業研究にさらに投資することでもたらされる総所得成長への寄与は,将来,小さくなっていくだろう.だが,途上国の平均で見て,農業はいまなお雇用のおよそ4割を占める.また,技術開発の前線はなおも進み続ける――そうした技術は,収穫量増加だけでなく環境面での便益や気候変動への対応力のためでもある.

グリーン革命が環境にマイナスの影響をもたらしたことに批判者たちが注意を喚起している点にも触れておく.マイナスの影響には,たとえば農薬(肥料・殺虫剤)の濫用,地下水の枯渇・汚染,生物多様性の喪失が挙げられる.我々の研究では,こうしたマイナスの影響を計量化する試みをしていない.また,我々の分析ではグリーン革命がもたらす複雑な社会的影響を考慮に入れていない――たとえば,土地所有パターンの変化や農村地域の社会構造の変化から,均質でない厚生効果が生じることを考慮していない.

とはいえ,我々の研究結果からは,農業技術の開発・普及への投資によって世界の最貧地域で物質的な生活水準が過去半世紀で大幅に向上したことがうかがえる.( Hertel and Rosch 2011 で記述されているような)気候変動をはじめとするさまざまな課題に直面するなかで,途上国を対象とした農業科学へのさらなる投資は,今後数十年間にわたってこうした利得を維持しうるかもしれない.


参照文献

  • Bustos, P, B Caprettini and J Ponticelli (2016), “Agricultural productivity and structural transformation: Evidence from Brazil”, American Economic Review 106(6): 1320-65.
  • Gollin, D, C W Hansen and A M Wingender (forthcoming), “Two Blades of Grass: The Impact of the Green Revolution”, Journal of Political Economy.
  • Gollin, D, S L Parente and R Rogerson (2007), “The food problem and the evolution of international income levels”, Journal of Monetary Economics 54: 1230-1255.
  • Evenson, R E and D Gollin (2003), “Assessing the impact of the Green Revolution, 1960 to 2000”, Science 300(5620): 758-762.
  • Foster, A D and M R Rosenzweig (2004), “Agricultural productivity growth, rural economic diversity, and economic reforms: India, 1970–2000”, Economic Development and Cultural Change 52(3): 509-542.
  • Hertel, T and S Rosch (2011), “Climate change and agriculture: Implications for the world’s poor”, VoxEU.org, 17 March.
  • Lewis, W A (1951), Principles of Economic Planning, London: Dennis Dobson Ltd.
  • Marden, S (2014), “The agricultural roots of industrial development”, VoxEU.org, 28 December.
  • McMillan, M (2014), “What is driving the ‘African growth miracle’?”, VoxEU.org, 30 August.
  • Nurkse, R (1953), Problems of capital formation in underdeveloped countries, Oxford University Press.
  • Restuccia, D, D Yang and X Zhu (2008), “Agriculture and aggregate productivity”, Journal of Monetary Economics 55: 234-250.
  • Vollrath, D (2011), “The agricultural basis of comparative development”, Journal of Economic Growth 16: 343-370.
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