タイラー・コーエン 「ははあ、さてはあのボタンを押しちゃったんだな」(2008年11月20日)

●Tyler Cowen, “Imagining the button”(Marginal Revolution, November 20, 2008)


アンガス(Angus)経由で知ったのだが――アンガスがTFP(全要素生産性)について皮肉を交えて加えているコメントも必見だ――、ポール・サミュエルソン(Paul Samuelson)がインタビューの中で次のように語っている。

リバタリアンというのは、情緒に問題があるダメ人間(bad emotional cripples)の集まりです。それだけじゃありません。政策アドバイザーとしてもダメなんです。

情緒に問題がある好人物(“good” emotional cripples)なんているのだろうかという疑問はさておいて、4点ほどコメントさせてもらうとしよう。

1) サミュエルソンが20世紀を代表する真に偉大な経済学者の一人であることは疑いない。

2) 「ミルトン・フリードマンとフリードリヒ・ハイエクは、社会が『隷従』(“serfdom”)への道を歩む可能性があると警告しました。・・・(略)・・・彼らは、中道路線を選んだ国家においてそうなる(隷従への道が歩まれる)恐れがあると警告したのです。ここでちょっと、スイス、イギリス、アメリカ、スカンジナビア諸国、環太平洋諸国の現状について考えてみますと、いずれも国民の『幸福度』が高いことで知られているだけでなく、言論の自由も信仰の自由も満喫できているようです。どういうわけなんでしょうね?」とサミュエルソン。福祉国家でも「自由」がしぶとくその命脈を保つ可能性をハイエクが過小評価していたというのは、その通りだ。しかしながら、あわせて指摘しておかないといけないことがある。ハイエクは、『The Constitution of Liberty』(邦訳『自由の条件』)の中で、社会的なセーフティーネットだけでなく、当時のドイツ自由民主党(FDP)の一連の政策も大いに支持しているのだ。

3) 計画経済に対するハイエクの批判が間違っている証拠として、ソ連経済のパフォーマンスをしつこく引き合いに出し続けた経済学者がいた。1989年になってもだ。それは誰だったかというと、サミュエルソンだ [1]訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事を参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「サミュエルソンの過ち … Continue reading

4) 冒頭に引用したような(情緒に問題があるダメ人間云々とかいうような)コメントを誰かが口にしている場面に出くわすたびに、脳の中にある小さなボタンを押しちゃったんだなと思うようにしている。そのボタンを押すと、知能が一時的に低下してしまうのだ。感情的な物言いをすると、脳の働きが鈍ってしまうのだ。

今後の人生で色んな文章に出くわすだろうが、「脳の中にある小さなボタン」の話を頭の片隅に留めておいてもらえたらと思う。文章を読んでいて感情的な表現に出くわしたら、こう思うようにすればいいのだ。「ははあ、この人(文章の書き手)はあのボタンを押しちゃったんだな」。

References

References
1 訳注;この点については、本サイトで訳出されている次の記事を参照されたい。 ●アレックス・タバロック 「サミュエルソンの過ち ~ソビエト経済の将来に関する度重なる予測の誤り~」(2014年1月9日)
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