オマー・アリ(Omer Ali)&クラウス・デスメット(Klaus Desmet)&ロマイン・ヴァクジアル(Romain Wacziarg)の三人の共著論文より。
「怒り」は、ポピュリズムの台頭に一役買っているのだろうか? 怒りという感情は、世の中の問題を引き起こしている元凶とされる個人なり集団なりへの反発を生んで、選挙でポピュリストの政治家に票を投じるのを助長しがちだと思われている。そこで本稿では、2008年から2017年までの間に米国内の大勢の有権者がどんな感情を抱いて日々を過ごしていたかを探った独自のデータを利用して、怒りの感情とポピュリストの政治家の得票率の間に郡単位で何らかのつながりがあるかどうかを検証した。その結果はというと、2016年の米国大統領選の予備選挙および本選挙のいずれに関しても、怒りを感じている有権者の割合が高い郡ほど、ポピュリストの政治家の得票率が高くなる傾向にあることが見出された。しかしながら、怒りとは別の負の感情や人生への満足度といった他の変数の影響を除去してみると、怒りの感情がそれ独自でポピュリストの政治家の得票率を高めるのに貢献していること示す証拠は見出されなかった。ポピュリズムの台頭には、怒りそれ自体ではなく、倦怠感や憂鬱(ゆううつ)感といったいくらか複雑な感情が一役買っているようだ。
〔原文:“It’s the malaise and gloom, not the anger”(Marginal Revolution, June 26, 2023)〕