ノア・スミス「みんなの認識よりももっと日本は半導体に強みをもっている」(2024年8月18日)

Closeup picture of some computer parts in blue light

昨年末に,日本の半導体産業への関心がとても盛り上がっていた.伝統的に日本はとても強かったけれど,半導体生産の大半は台湾と韓国にとられてしまった.それでも,日本はいまも才能ある人々の宝庫だし,とてもすぐれた半導体生産ツールや部品をつくっている企業はいまもたくさんある.これに加えて,このところの円安もあり(円安によって日本国内に半導体工場を建設するのも海外に日本製の半導体を売るのも容易になる),また,工場建設の規制障壁が比較的に少ないこと,低賃金,気前のいい政府の支援などが合わさって,日本は半導体産業の未来を築くのに完璧な場所に思える

半導体部門で日本がとても強みをもっていることを裏打ちするかのように,とある日本の大学が,半導体生産技術の大きな躍進になるかもしれないものをつくった.現在,最先端の半導体製造には極端紫外線リソグラフィ (EUV) の機械が必要で,これはオランダ企業 ASML だけが独占的に製造している.そうした機械はものすごく高価だ――1台あたり3億8,000万ドルもかかる.さらに,EUV の機械にはきわめて複雑で最高に精密な部品が必要なうえに,ものすごくたくさんの電気と高価な維持管理も必要となる.ところが,沖縄科学技術大学院大学の新竹積教授が,EUV をやるもっと単純で安価な方法をみつけたかもしれない:

沖縄科学技術大学院大学 (OIST) が,極端紫外線 (EUV) リソグラフィの新型機器を設計した.この機器は,7nm 以下の半導体を製造するコストを大幅に削減しうる(…).各種の報告によれば,この EUV 機器の光学システムは大幅に単純化されている一方で電力消費は10分の1まで削減される.これにより,先進半導体製造機械をいまよりもずっと安価にする見通しが開けた.

新竹教授は,直線上に2枚の線対称の鏡を配置し,合計10枚ではなく合計たった4枚の鏡を用いた(…).吸収性の高い EUV 光は鏡に反射されるたびに 40% 弱まる.このため,10枚の鏡で反射を繰り返した場合には光源のわずか約 1% のエネルギーしかウェハーに到達しない.他方,4枚のみの鏡を使用すれば 10% 以上がウェハーに達する.(…)これにより,現行のものより小さい EUV 光源を用いつつ電力を10分の1に抑えることが可能となる. 「この配置はちょっと想像できないほど単純なんです」と新竹教授は言う.「従来のプロジェクターでは少なくとも6枚の反射鏡が必要ですから.光学の収差補正理論を慎重に考え直すことで,この単純化が可能になりました.」 (…)さらに,「光学シミュレーションソフトウェアを用いてパフォーマンスは立証されています.先進半導体の生産には十分使えることが保証されています.」

沖縄科学技術大学院大学は,このテクノロジーの特許を申請した.沖縄科学技術大学院大学では,同テクノロジーを最初に半分の規模のモデルで実証する計画を立てている.概念実証が終われば,2026年に日本の企業パートナー1社または複数社と協力して実働する EUV リソグラフィ・システムの製作に着手される.(…)計画どおりに進めば,いまの日本の地政学的に重要な半導体産業の世界的地位は大幅に強化される.(…)提携企業の候補としてもっとも有望なのはニコンだ.

これは日本のリソグラフィ産業にとっての朗報であるだけじゃなく,科学的専門知識と研究能力を日本が潤沢に保有している証明でもある.これは,将来の吉兆だ.

日本には他にも過小評価されている長所がある.それは,台湾・韓国と密接に協力できる点だ.最近,TSMC は日本に大きな投資をした.また,韓国と日本は,アメリカとともに半導体サプライチェーンで協力している.

こうしたことを考え合わせると,日本の半導体ルネサンスはいまなお重要に思える.


[Noah Smith, “Japan’s strength in semiconductors runs deeper than people realize,” Noahpinion, August 18, 2024]
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