“Mr. Kuroda’s vacation plans” by Lars Christensen from The Market Monetarist.
以下に引用するのはウォール・ストリート・ジャーナルのブログJapan Real Timeである。
前任者達とは打って変わったアグレッシブなスタイルで中央銀行を運営する黒田日銀総裁は夏の休暇に臨む方法についても同様に前例を顧みないことが明らかになった。
日本銀行の総裁としては異例なことに、黒田氏は自らの夏季休暇について言及した。
「実は盆休みは海外で過ごそうと思っています。」黒田総裁は金融政策と経済に関するごく通常の講演としてはやや風変わりな質問にこう答えた。
日銀の総裁や高官らが夏に一週間の休みをとることはそれほどおかしなことではないが、1400人余りの聴衆の前でこう語ることは珍しい。
慣例としては日銀総裁の休暇日程は機密事項である。これは部分的には金融市場に無用な混乱を招かないようにするためである。
さらに、日銀総裁がお盆休みに日本を不在にするということは、その期間になにか特別な事態が起きないと日銀が予想していることを意味する。「(日本経済は)デフレ脱却に向けて安定して進んでいる」と黒田氏が自身の金融緩和策の効果について述べている時、確かにリラックスしているように見えた。
素晴らしい!これはまさに中央銀行総裁がとるべき態度であり、世界中の多くの中央銀行家の態度「消防士としての中央銀行家」とはまるで対照的である。
もし危機が勃発した時に世界を救うべく、常に臨戦態勢でいなければならない消防士のような立場にある、と自分のことを考えているならば、だれも休暇を取ろうなどとは思わないであろう。そういう人は、もし休暇を取ると誰かに言ったなら、いざというときに自分がいなかったがゆえに世界が破滅すると考えるはずだ。
しかし、まことに正しいことに黒田氏は自分のことを消防士だとは考えていないようである。むしろ、ルールを重んじる中央銀行家であると考えているようだ。彼は就任して最初の機会に日銀の名目ターゲット(2%インフレ)とターゲットの実現方法(マネタリーベースの拡大)について説明したものである。
それゆえ彼はリラックスしているように見えたし、そう見えるべきだったのである。そして彼は一週間の休みという贅沢を享受することになるであろう。事実、もし日本人および市場が日銀のターゲットとその「反応関数」を理解していると彼が確信していたならば、一ヶ月の休みでさえとることは容易であったと私は考える。彼にはやるべきものはそれほどないのだ。既に発表されているマネタリーベースの拡大とインフレターゲットが明確である限り、金融政策の「遂行」の残りは市場に任せてしまえるのである。
彼の政策が100%信認されていると想像しよう(実際には違う!)。そして、彼の休暇中に何か事件が起きたとする。例えばユーロ危機が再燃し、そのため円の需要が急増したとしよう。このことは日本のインフレ予想を引き下げる方向に働く。しかし100%完全に信認されている2%インタゲのもとでは、インフレ予想がターゲットを下回ったとすると、日銀が2%のターゲット以下で持続することを許容せず、その結果、より緩和的な金融政策—より高い株価、より安い円、よりスティープなイールドカーブ—からの恩恵をうけるような取引を行うことが利益を生むことに投資家は気づくであろう。これにより、投資家は自動的に金融緩和を「遂行」し、インフレ予想を2%に押し上げるのである。黒田氏が休暇で不在であるかどうかとは無関係に。
信認の欠如が黒田氏の休暇を短くしている
残念ながら、黒田総裁のインフレターゲットはまだ100%の信頼を得てはいない。事実、日本で完全に信頼の置ける金融政策ターゲットが行われているとはまだとても言えない。だから、日本の将来のインフレの市場予想は2%をだいぶ下回っているのである。これは黒田総裁がデフレ脱却に向けて進行中であるかを投資家が完全に納得しているわけではない明白な証拠である。
よって、日本の金融政策の信認を確立するためにはもっと多くのことをなすべきである。私はこれまで黒田総裁はこれまでよりさらにもっと明確に市場のインフレ予想に言及すべきであると主張してきた(こことここを参照せよ)。
休暇の計画について語った時に次のような声明を加えるべきであったのかもしれない。
「・・・インフレ予想は上昇してきたものの、あらゆる重要な時間軸について2%のターゲットにはまだまだ達していない。よって、我々は必要とあらば、毎月のマネタリーベースの増加ペースをさらに引き上げる用意がある。将来のインフレの市場予想をベースに我々はその増加幅を算出する。
とく我々が注目するのは2年/2年、5年/5年のブレークイーブンインフレ予想(BEI)である。市場価格がインフレターゲットを完全に反映することを我々が保証することを投資家には理解していただきたい。つまり、すべての重要な時間軸において2%インフレ予想が織り込まれるということであり、それ以上でも、それ以下でもない。
ですから、4週間後に私が休暇から戻ってきた時には市場は2%インフレを織り込んだ価格になっていることでしょう。ではみなさん、ごきげんよう。」
世界は信認ある名目ターゲットを実行する中央銀行家を必要としている。そしてそれゆえ、決して休みを取らない消防士的な中央銀行でなく、長い休みを取れる中央銀行家を必要としている。黒田総裁が楽しそうに休暇の予定を語った事実は日本の金融政策が火消しから(より)ルールベースの金融政策レジームに実際に変化したことを示すものである。
PS 黒田総裁は休暇を本を読んで過ごしたいそうだが、それは良いチョイスだ。しかし、彼はゴルフもしたほうがよいかもしれない。その理由はこれだ。
PPS 名目GDPレベルターゲットではなくインフレターゲットを日本が採用したことは誤りであると私が考えていることをいつか書かねばなるまい。