ノア・スミス「アメリカの朝」(2024年8月18日)

ぼくはよく2020年代を1970年代になぞらえてるけれど,両者には少なくともひとつ,大きな違いがある.1970年代には,高いインフレ率と高い犯罪率と不況が10年間ずっと続いた.他方,2020年代はというと,そうした問題はずっと急速に収まりはじめた.たとえば,インフレ率はだいたい 2% 目標にまで下がった.それに,インフレがまたすぐにも再発するとみんなは予想していない――市場価格で測ったインフレ予想は,パンデミック以前の水準にまで戻ってきている.というか,それもちょっぴり下回っている.

Source: Justin Wolfers

インフレ予想が下がっていると言うことは,FRB が金利を引き下げるとみんなが予想していると言うことだ.そして,金利引き下げ予想は,住宅ローン利率の低下につながる:

住宅ローン利率は,この15ヶ月で最低の水準にまで下がった.これにともない,苦しんでいたアメリカ住宅市場に緩和がもたらされるという期待が高まっている(…).標準的な30年固定住宅ローンの平均利率は,約 0.25ポイント下がって 6.47% となった.(…)Realtor.com の上級エコノミスト,ラルフ・マクローリンによれば,「住宅ローン利率の緩和が,多くの人々の予想よりも早くにやってこようとしている」という.(…)投資家たちのあいだでは,(…)来月からFRB が金利を引き下げるとの見方が強まっている.

犯罪はというと,多くのデータソースで,2022年と2023年に起きた犯罪の大幅減少が今年も続いていることが示されている.たとえば,FBI のデータを見ると,殺人事件の発生率は,記録的な低水準まであと一歩のところまで下がってきている:

Source: John Arnold

一部には,「FBI のデータは気に入らない」と判断した人たちもいる.なぜかと言えば,2021年にデータを報告しなかった都市が一部にあったからだ.その問題も,2022年には解決された.だから,この FBI データはいいデータのはずだ.ただ,どっちにしても,データは FBI のもの以外にもある.たとえば,「大都市警察長協会」(Major Cities Chiefs Association) では,大都市での暴力犯罪に関するデータを収集している.そして,このデータでも2024年に大幅な減少が見られる:

アメリカ主要都市から新しく得られた予備的データでは,コロナウイルス期の犯罪の波が引いていくにつれて,今年前半に暴力犯罪が急速に減少したことが示されている――一部の地域では,実に 25% 以上の減少となっている.大都市警察長協会が収集したデータを Axios が分析したところ,2024年前半の6ヶ月間に,69都市の全体で,前年同期に比べて暴力犯罪が 6% 減少したことがわかった.(…)69主要都市のうち 54都市では,2024年前半に暴力犯罪が減少している――ここでいう暴力犯罪とは,殺人・強姦・強盗・〔女性・子供が被害者となるような〕加重暴行を指す.(…)報告にある 69都市において,2024年前半の半年間に殺人件数は前年同期に比べて 17% 以上の減少を見せた

暴力犯罪がすごい高水準にとどまりつづけた1970年代とちがって,1950年代や2010年代前半に享受された比較的に安全な水準にまでアメリカはすでに戻ってきている.

経済成長と雇用はと言えば,どちらも1970年代よりずっとよい状態が続いている.

というわけで,いまのアメリカでは,70年代がそっくり再演されてはいない.たしかに類似点もいくらかあるけれど,当時に比べてずっと急速に状況は改善している.2024年は,カーター時代の「自信喪失の危機」よりも「アメリカの朝」に近く感じられる.


[Noah Smith, “Morning in America,” Noahpinion, August 18, 2024]

(※「アメリカの朝」(”Morning in America”) は,ロナルド・レーガンの1984年大統領選広告「再びアメリカの朝が来た」(”It’s Morning Again in America”) のこと.インフレが収まり雇用が改善し住宅ローン金利が下がったことを訴えていた.

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