●Mark Thoma, ““Mr. Bailout””(Economist’s View, August 5, 2009)
Economics of Contemptブログで、デイビッド・ウェッセル(David Wessel)の新刊が話題にされている。
“Quotes/Revelations from Wessel Book”:
昨日は旅行の移動に丸一日を費やさねばならなかったのだが、これ幸いと移動の合間にデヴィッド・ウェッセルの新刊である『In Fed We Trust』(邦訳『バーナンキは正しかったか?』)に目を通した。ほぼ読み終わったところだ。大変優れた(そしてそれと同じくらい大事なことに、内容も正確な)一冊だと思う。個人的に強く興味を惹かれた引用なりすっぱ抜きなりをいくつか列挙しておこう。
- リーマン・ブラザーズの救済(公的資金の注入を通じたベイルアウト)に乗り出すべきかどうかが俎上(そじょう)に載せられていた時のことだ。ヘンリー・ポールソン(当時、財務長官)が、ガイトナー(当時、ニューヨーク連銀総裁)とバーナンキ(当時、FRB議長)に対して次のように語ったという。「(ベアー・スターンズを救済したせいで)私のことを『ミスター・ベイルアウト』と呼ぶ声がちらほら出てきてるんです。同じこと(破綻の危機にある金融機関に対する公的資金の注入)は、もうできませんよ」。
- ハーバード大学に籍を置く経済学者のマーティン・フェルドシュタイン(Martin Feldstein)は、AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)の役員を務めていたが、FedによるAIGの救済に反対した。ウェッセルによると、フェルドシュタインは「民間企業を強制的に買収するというのは、政府の役割ではない」と語ったという(AIGの株主のために尽くすよりも、己が信じる経済哲学に忠実であろうとすべきだ、というのがフェルドシュタインの考えだったわけだ。何たる阿呆か!)。
- 連邦預金保険公社(FDIC)の総裁を務めていたシーラ・ベア(Sheila Bair)は、ダメダメだ。そんなことは改めて言うまでもないという意見もあるだろうが、本書を読むと、ベアが規制監督官としてマジでダメダメだったことが痛いほど再認識できる。バーナンキ&ガイトナー&ポールソンの三人が金融システムの救済に向けて奮闘している中で、ベアは機会を捉えては三人の努力を踏みにじろうとした。それに加わるのが、ワシントン・ミューチュアル絡みでの大失敗だ。ベアは、パニックの絶頂の最中にワシントン・ミューチュアルへの債権者に巨額の損失を背負わせるという大失敗も犯しているのだ。他の規制監督官たちが(金融機関の)救済計画を練るあらゆる現場からベアをどうにかして締め出そうと必死になったのも、驚くにはあたらない。ベアが銀行業の分野で経験を積んだ年数は、合計で・・・0年だ(ずぶの素人だ)。彼女が気にしているのは、たった一つ。自分が世間からどう思われているかだけだ。シーラ・ベアという名の歩く難破船が一日も早く連邦預金保険公社から立ち去ってくれんことを!
- ハリー・リード(Harry Reid)上院議員は、バーナンキとポールソン(さらには、ペロシ、ベイナー、マコーネルといった大物議員ら)に対して、不良資産救済プログラム(TARP)はそう簡単には上院を通過しないかもしれないと警告した。曰く、「この件は、簡単じゃない。・・・・(略)・・・ヒアリングの機会も設ける必要がある。上院のことは、よく知ってるんだ。トイレの流れをよくするためのこの法案を通すには、2週間はかかる」。
ウェッセルの新刊を読んで印象に残ったエピソードを書き出すと、こんな感じだ。激しくオススメの一冊だ。