西洋の資本主義諸国では、大恐慌の影響で私企業の国有化に弾みがついた。ドイツもその例外ではなかった。ワイマール体制下でのドイツでも、大恐慌の影響であちこちの業界の私企業が国有化されたのである。しかしながら、ナチスが政権を奪取した後のドイツでは、国有企業および公共サービスの一部が民営化された。すなわち、ナチス・ドイツは、1930年代当時の潮流に逆らったのである。一旦国有化した企業を再び民間の手に委ねる「再民営化」に本格的に乗り出したのは、西洋の資本主義諸国の中でナチス・ドイツだけだったのである。さらには、公共サービスの民営化が試みられた点でも唯一無二だった。それまで行政機関が担っていた公共サービスの一部を提供する役目が民間の手に委ねられもしたのである。民営化された国有企業や公共サービスの範囲は、あちこちの業界(あるいは分野)に及んだ。ナチスによる民営化は、イデオロギーによって突き動かされていたわけではなく、複数の目的を達成するために試みられた意図的な政策の一環だった。近年における民営化の多くのケース――とりわけ、EU(欧州連合)諸国におけるケース――と同じく、国庫の厳しい資金繰りの改善(=財政収支の改善)というのが肝心な動機の一つだったのである。それに加えて、政治的な思惑も込められていた。ナチスにとって民営化というのは、政権および党に対する支持を強化するための手段でもあったのである。
個人的に興味深く感じた箇所(pp. 10)も引用しておこう(pp. 11 のグラフもあわせて参照されたい)。
EU加盟の15カ国全体で見ると、1997年~2000年の間に民営化(国有企業の株式の売却)を通じて国庫に入った収入は、歳入総額の1.79%を占めている。1934年~37年のドイツで民営化(国有企業の株式の売却)を通じて国庫に入った収入が国家の歳入総額に占めた割合もほぼ同じくらいである。
この件については、マーク・ソーマも過去に取り上げている〔拙訳はこちら〕。それにしても、歴史というのは驚きで満ちてるね。
〔原文:“Nazi privatization”(Marginal Revolution, December 27, 2008)〕