ノア・スミス「アメリカには超党派の『ネオポピュリスト』共通意見ができてる?」(2024年5月27日)

Americans together concept.

デイヴィッド・レオンハートが『ニューヨークタイムズ』に素晴らしい記事を書いて,最近のアメリカ政府で起きてる2つの流れをまとめている.この2つだ:

  • 静かに強まる超党派の動き(マット・イグレシアスのいう「隠れた議会」)
  • ネオリベラリズムから産業主義への経済思考の転換

レオンハートはこの転換の背後にある2つの要因を言い当てている(と,ぼくは見てる):

  • 中国主導の権威主義体制ブロックの台頭.その力はアメリカのそれに匹敵するか,上回ってすらいる.
  • ネオリベラル政策が労働者階級の助けにならなかったように見えること.

ちょっと記事から抜粋しよう:

多くの進歩派と保守派にとって中道主義という考えは柔弱な穏健ぶりを思わせ,忌むべき対象だ.だが,新しい中道主義は,必ずしも穏健なばかりではない.人気のソーシャルアプリ売却の強制がおずおずした行動かといえばそんなわけもなく,中国・ロシアと対立するのも同様だ.アメリカのインフラを再建する法案や国内の半導体産業を強化する法案は野心的な経済政策だ.(…)

この新しい中道主義は(…)「ネオリベラリズムはよいことをもたらさずじまいだった」ということを認める動きだ(…).ネオリベラリズムにかわって,新しい世界観が台頭してきている.これを「ネオポピュリズム」と呼ぼう.(…) 今後とられるかもしれないネオポピュリスト政策は,他にどんなものがあるだろう? 中国の台頭に対応するさらなる法律制定や,さらなる産業政策が考えうる.合衆国がリチウムや銅などの緊要物資を調達できるようにはかる法案は,その両方に該当するだろう(…).若い世代の家族を支援するさまざまな政策もとられそうだ(…)

数十年にわたってワシントンがとってきた一連の政策は,多くの有権者に嫌われたし,約束された結果をもたらすにはほど遠かった.当然ながら,多くの市民は憤りを覚えた.その憤りから,アメリカ経済に活力を取り戻し世界のライバルたちと競争する方法を模索するネオポピュリズムの醸成につながった.アメリカの二極化の現状をふまえ,二大政党はその現実への対応を少なくとも試みてはいて,意外なまでに共通の土台があることを見出している.

この記事はすごく明敏で時宜を得てると思う.「ポピュリズム」についてまわる悪い語感のせいで,「ネオポピュリズム」って用語は定着しそうにないと思う.ただ,いま進行中の事態をうまく捉えるのに「ポピュリズム」という切り口はいまいち合っていないと思う.総じて,アメリカ人は中国についてよい意見をもっていないけれど,中国を抑止してこれと拮抗するべく採られる実際の政策対応の多くは――輸出制限,半導体助成,同盟国の拡大などなどの政策対応は――有権者を喜ばせようという試みというよりエリートの企図だ.

他方で,とりわけ重要な超党派の動きの一部,たとえば得票数集計方法の改革なんかは,静かになされている.その理由は,他でもなく,もしも市民の注目を集めたら双方の政党の基盤にある党派的なエネルギーを活発にさせてしまうだろうからだ.イグレシアスがこれを「隠れた議会」と呼ぶだけの理由はあるわけだね――アメリカの多くはいまだに苦々しい気むずかし屋の雰囲気があって,総じて党派的なエネルギーは議会を分断と立ち往生と強硬姿勢へと追い込みがちだ.

とはいえ,レオンハートの記事では,アメリカの統治の現状について重要な事実がたくさん捉えられているのはまちがいないと思う.いまアメリカにとって主な課題は,内部での文化・アイデンティティ・経済的分配をめぐる戦いから,外部の脅威への転換だ.そして,アメリカの指導者たちやアメリカ人の一部は,ゆっくりと,この事実に目を覚ましつつある.また,今後の超党派の動きには,産業政策・安全保障関連の政策・児童支援の政策も含まれる見込みが大きいというレオンハートの判断に,ぼくも賛成する.

それと同時に,レオンハートが見落としている大きなことも一点あると思う――住宅政策がそれだ.高い賃料によって,いまだに国民の間に不満が広まっている.住宅建設をずっと阻み続けている地域の障壁と制限の藪をはらうために,政府による対応が必要だ.これから数年で,住宅の潤沢な供給が超党派の協力の焦点になりうるという,とても心強い兆しもいくらか現れている――たとえば,ちょうど下院を通った YMBY 法案がそういうきざしのひとつだ.


[Noah Smith, “Does America have a new bipartisan ‘neopopulist’ consensus?” Noahpinion, May 27, 2024]
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