ノア・スミス「パッシブ運用についての興味深いアイディア」(2025年11月8日)

この数十年ほど,アクティブ運用からパッシブ運用に大きな転換が進んでいる.「ただインデックスファンドなり ETF なりを買っておけば自動的に市場の平均と同じ成果が得られるってのに,わざわざ時間をかけて株式を選ぶ労力を注ぐ理由ってなんだ?――これなら手間も手数料もかからないってのに.」

この論理はすごく強力だ.歯止めがかからない勢いでパッシブ運用がアクティブ運用を超えていってる理由もそこにある:

Source: Morningstar

でも,もしも市場のみんながこぞってこれをやりだしたらどうなる? もしも,誰も株を自分で選ばなかったら――「ETF購入」ボタンをただクリックする人たちしかいなくなったら――どの株が実際に買う値打ちがあるか探り当てるのに必要な調査を誰がやる? それに,みんなが同じ時に同じ株を買ったり売ったりしていたら,それってなんか危なくないの? 企業統治は? もしもヴァンガードやブラックロックみたいな一握りの資産運用会社がすべての企業を所有するようになったら,競争が減ってしまうんじゃない? Etc, etc.

これらは,パッシブ運用に関する長年の懸念だ.いまも甲論乙駁の論争が続いている.ただ,ここでひとつ,懸念すべき新しい潜在的な欠点が加わった:投資不足だ.Kontz & Hanson (2025) では,こう論じている――株式がますます相関すればするほど,そのリスクは高まる.古典的な「ベータ」の概念だ.リスクが高い株ほど安くなる.だって,リスクは悪いことだからね.株が安くなるほど,企業は自社株を売りに出して事業拡大の資金に充てるのが難しくなる.それで,Kontz & Hanson はこう主張している――パッシブ運用は相関を高めるので,実物投資を抑制する.なぜって,企業が自社株を売るのが難しくなるからだ.

これはありそうな話だけれど,経済全体にとってこれがどれほど重要なのかというと,そこは疑わしいとぼくは思う.パッシブ運用は,1995年頃から本格的に広まった.でも,実際には企業の借り入れコストは1995年から2021年まで下がっていった:

おそらく,この大半は金利引き下げや新しい機関投資家のお金の市場流入によるものだろう.ただ,パッシブ運用によって企業が自社株を売りにくくなっているとしても,それはアメリカの実物投資の低迷をもたらす主要因ではないのがうかがえる.

とはいえ,頭の片隅に置いておいていい話ではあるね.


[Noah Smith, “An interesting idea about passive investing,” Noahpinion, November 8, 2025]
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