「AI によって大量の人たちが雇用を奪われて,経済でやるべき有用なことをなくしてしまう」というのは,事実上の通説みたいになっている.みんな,あまりにこれを確信していて,「ほらやっぱりそうなってるじゃないか」と信じる材料になる兆しがデータに現れると,すぐに飛びついている.ちょっと前に,経済学者たちも人気評論家たちもこの件に関して行きすぎた予測をしている理由について記事を書いた.
ともあれ,Economic Innovation Group のサラ・エックハートとネイサン・ゴールドシュラグがこの件に関する新しい報告書を発表している.これによると,ぼくらが知りうるかぎり,AI はまだ雇用を奪っていない――少なくとも,測定できる規模ではそうなってない.
エックハートとゴールドシュラグは,まず,いろんな仕事での AI 曝露度を予測する数値からはじめている.そうした数値を見ても,どの仕事が AI に取って代わられるのかはわからない.そうじゃなく,こうした数値が物語るのは,AI によってできそうなタスクがより多いのはどの仕事なのかってことだけだ.これらの数値は,労働者たちが AI を利用することになるかどうかの予測でかなりすぐれた実績をあげている.
基本的に,AI 曝露度と労働市場の逆風との間に,エックハートとゴールドシュラグはなんの相関も見出していない――というか,負の相関を見出してすらいる.たとえば,予測された AI 曝露度がさまざまに異なる労働者たちの失業率は,こんな風になっている(1 が接触量最小で,5 が接触量最大):

失業者数はこのところ増加しているけれど,それはもっぱら AI 曝露度が少ない人たちに集中している一方,AI 曝露度が最大の人たちはまだ仕事に就いている.同じことは,メディアでとりわけ懸念されている最近の大卒者を見たときにも当てはまる:

さらに,労働力から完全に退出していっている人たちを見たときにも,同じことが当てはまっている:

さらにもうひとつ面白い発見がこの研究にはある.AI 曝露度が最大の人たちこそ,生成 AI が市場に到来して以降に AI 接触量が少ない職業に転職する確率がむしろ下がっているんだよ! つまり,プログラマーや事務職が AI から我が身を守るために配管工になったりする事態は起きてないわけ:

また,エックハートとゴールドシュラグは AI 曝露度をはかる別の数値も使用してみて,やっぱりだいたい同じ結論に至っている.
つまり,AI による雇用喪失は,まだ起きていない.将来はそうなるかもしれないけれど,いまのところ,個別のデータに飛びついて「ついに始まった」と主張するたびに,実は蜃気楼だったと判明するのが繰り返されている.
[Noah Smith, “It doesn’t look like AI is taking jobs yet,” Noahpinion, August 12, 2025]