クリス・ディロー(Chris Dillow)のブログエントリーより。
“Prospect theory & populism” by Chris Dillow:
イギリスでEUからの離脱(ブレクジット)に支持が集まっていて、アメリカの大統領選でドナルド・トランプに支持が集まっているが、その理由をプロスペクト理論を使って説明できないだろうか?
プロスペクト理論によると、「負け」ている人はリスクをとるのに積極的になると予測される。失地を挽回するために、一か八かの賭けに出るわけだ。・・・(略)・・・投資家が値下がりした株を持ち続けたり(pdf)、スポーツの試合で負けている側が細かい戦術をかなぐり捨てて一か八かの総攻撃に出たり――アメフトだと、ヘイルメリーパスを出したり――、損を取り返すために危ない橋を渡ってかえって損を膨らます荒くれトレーダーが後を絶たなかったりとかいうのがその例だ。
ブレクジットやトランプに支持が集まっているのも同じ理屈で説明できるかもしれない。ブレクジットやトランプを支持する声をあげているのは、今ある秩序の中で敗北感に苛(さいな)まれている労働者なり失業者なりというのは遍(あまね)く認められているところだ。
・・・(中略)・・・
言うまでもないが、ブレクジットに賛成するのも、トランプをはじめとしたポピュリストに票を投じるのも、危険な選択だ。しかしながら、プロスペクト理論によると、敗北感を抱いている人たちはリスクをとるのに積極的になる可能性がある。その理由は、もはや失うものなんて何もないと感じているためかもしれないし――既に失業していたり、どうせそのうち職を失うに違いないと思っている人たちにとっては、ブレクジットに乗り出したりトランプが大統領に選ばれたせいで失業が増えるおそれがあったとしても、そんなに脅威に感じないだろう――、今ある秩序が変わったらもしかしたら人生が好転するかもしれないと感じているためかもしれない。
かような傾向を補強する働きをするのが「不信」という要因だ。世のエリートたちが、ブレクジットもトランプも危険だという警告を口々に発している。まさしくその通りだ。しかしながら、貧しい労働者たちや失業者たちは、エリートたちのことを信用していないのだ。
〔原文:“Prospect Theory & Populism”(Economist’s View, May 24, 2016)〕