ティモシー・テイラー(Timothy Taylor)のブログエントリーより。
“One Million Page Views and Round Number Bias” by Conversable Economist:
今週のはじめに、本ブログ(Conversable Economist blog)の閲覧数(アクセス数)が1,000,000回(100万回)に到達した。・・・(略)・・・言うまでもなかろうが、本ブログの性質を踏まえると、閲覧数が100万回に達したのを何の疑問も抱かずに諸手を挙げてただただ祝うわけにはいかない。100万回という数字に着目するというのは、「キリ番バイアス」の例の一つなのではなかろうか? 閲覧数を云々(うんぬん)するというのは、容易には測れない(数値化し難い)側面こそが肝心なのにもかかわらず、容易に測れる(数値化し易い)側面についつい目を向けてしまう例の典型と言えるのではなかろうか?
「キリ番バイアス」というのは、何らかの意味で「キリのいい」数字に注意が強く引き付けられる傾向のことを指している。例えば、「消費者はキリ番がお好き? 言い値での商品購入行動およびセルフ式スタンドでのガソリンの購入行動から得られた証拠」と題されたマイケル・リン(Michael Lynn)&シーン・フリン(Sean Masaki Flynn)&チェルシー・ヘリオン(Chelsea Helion)の三人の共著論文――Journal of Economic Psychology誌の2013年6月号(vol. 36, pp. 96~102)に掲載――によると、お客が自分でガソリンを給油するセルフ式のスタンドでは、代金の小数点以下の末尾2桁(セントの支払額)が .00ぴったり(××ドルちょうど)に落ち着くケースが全体の56%で、末尾2桁が .01(××ドル1セント)で終わるケース――おそらくは、.00ぴったりで止めようとして失敗したケース――は7%に上(のぼ)るという。リンらの論文では、レストランでのチップをはじめとしてその他の場面でも「キリ番バイアス」の存在を裏付ける証拠が見出されている。
「キリ番バイアス」の別の例を提示しているのが、2011年にPsychological Science誌(vol.22: 1, pp. 71-79)に掲載されたデヴィン・ポープ(Devin Pope)&ウリ・シモンソン(Uri Simonsohn)の二人の共著論文である。題して、「目標としてのキリ番:プロ野球、SAT(大学進学適正試験)、実験から得られた証拠」。例えば、ポープ&シモンソンの二人は、以下のような結果を見出している。プロ野球(メジャーリーグ)のシーズン終了五日前の時点での打率の散らばり具合を調べると、打率が .298(2割9分8厘)である選手の割合も .299(2割9分9厘)である選手の割合も .300(3割ちょうど)である選手の割合も .301(3割1厘)である選手の割合もほぼ同じくらいだが、シーズン終了時点の打率の散らばり具合を調べると、打率が.300(3割ちょうど)ないしは .301(3割1厘)でシーズンを終えた選手の割合は、打率が.298(2割9分8厘)ないしは .299(2割9分9厘)でシーズンを終えた選手の割合の倍以上という結果になっているという(シーズン終了時点の打率が3割ちょうどないしは3割1厘の選手の数は全体の2.3%で、2割9分8厘ないしは2割9分9厘の選手の数は全体の0.97%)。残り五日の間に一体何が起きたのだろう? ポープ&シモンソンの二人によると、シーズン終了五日前の時点での打率が .300(3割ちょうど)ないしは .301(3割1厘)の選手らは、打席に立ち続けてキリのいい打率(3割ちょうど)を下回ってしまうかもしれないリスクを負うよりも、欠場したり試合途中で交替しがち(代打を出してもらいがち)であることが見出された一方で、シーズン終了五日前の時点での打率が .300(3割ちょうど)をほんの少しだけ下回っている選手らは、残りの打席でヒット(安打)を放つ確率が高まるだけでなく、得意としている投手が登板するのに合わせて試合に出場する傾向にあることが見出されたという。ポープ&シモンソンの二人は、SAT(大学進学適正試験)に関しても同様の結果を見出しており、SAT(満点は1600点で、10点刻み)でキリのいい点数(1000点、1100点)にあと一歩届かなかった学生たち――点数が990点だったり1090点だったりした学生たち―― は、キリのいい点数(1000点、1100点)ぴったりだったかキリのいい点数をどうにかこうにかギリギリで上回った学生たちと比べると、試験を受け直す(再受験する)可能性がずっと高いという。とは言え、SATでキリのいい点数を上回る結果を残せたかどうかによってどの大学を受験するかが左右されることを示す証拠は見出されなかったという。
「キリ番バイアス」は、ファイナンス(投資)の世界でもお目にかかるようだ。エドワード・ジョンソン(Edward Johnson)&ニコル・ジョンソン(Nicole Bastian Johnson)&デヴィン・シャンティクマール(Devin Shanthikumar) の三人が「『キリ番』と『株式の値上がり率』」と題された共著論文で、次のように調査結果をまとめている。「終値がキリ番をギリギリ上回った株式の翌日の値上がり率(騰落率)は、終値がキリ番をギリギリ下回った株式の翌日の値上がり率(騰落率)よりも高い傾向にあることが見出された。例えば、終値の末尾が1という数字だった株式――例えば、終値が25ドル51セントだった株式――の翌日の値上がり率(騰落率)は、終値の末尾が9という数字だった株式――例えば、終値が25ドル49セントだった株式――の翌日の値上がり率(騰落率)よりも高い傾向にある。最も高い買値なり最も安い売値なりが一日の間に大きく揺れ動いた可能性を加味してコントロールを加えても結果に違いはないし、年度/株式を発行している企業の規模/出来高(取引高)/取引所の違いに応じて異なるサンプルを用いても結果に違いはない。終値がキリ番をギリギリ上回った株式の翌日の値上がり率(騰落率)と、終値がキリ番をギリギリ下回った株式の翌日の値上がり率(騰落率)の差がどのくらいの大きさになるかは、キリ番として終値の末尾何桁までに着目するかによっても、どのサンプルを用いるかによっても違ってくるが、全般的には1日あたりで0.05%ポイント~0.2%ポイント(1年あたりに換算すると、おおよそ15%ポイント~75%ポイント)くらいの差になるようだ」。
「アナリストによる予測値の丸め処理」と題されたドン・ハーマン(Don Herrmann)&ウェイン・トーマス(Wayne B. Thomas) の二人の共著論文――Accounting Review誌の2005年7月号(vol. 80: 3, pp. 805-823)に掲載――では、次のように述べられている。「アナリストによるEPS(1株当たり純利益)の予測値は、対象企業の純利益の過去の実績を踏まえた予測値と比べると、5セント刻みの異なる数値のかたちをとる度合いがずっと高いことが見出された。EPSの予測値を5セント刻みで(丸め処理して)公表するアナリストは、情報に疎くて手を抜きがちで予測のために頼りにできるものが少ないアナリストと同等だと言える。キリのいい数値になるように丸め処理された予測値の精度は低いのだ。予測値を丸め処理するための刻み幅が大きくなるほど――5セント刻みから10セント刻み、25セント刻み、50セント刻み、1ドル刻みへと刻み幅が大きくなるほど――、予測値の精度は低くなる傾向にあるのだ」。
「キリ番バイアス」に焦点を当てた一連の学術的な研究の成果を踏まえると、100万回という閲覧数に舞い上がるなかれと強く示唆されていると言えそうだ。閲覧数が100万回に達した暁(あかつき)に、「キリ番バイアス」をネタにしてここまで書き連ねてきたわけだが、このネタを取り上げるのが今でなくちゃいけない理由なんて大してないのだ。数カ月前に取り上げてたって構わなかったし、これからしばらく経ってから取り上げたって構わないのだ。それにもかかわらず、「キリ番バイアス」の魔の手が私にも忍び寄ってきて、その餌食になってしまっているわけなのだ。・・・(略)・・・
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打率が3割ちょうどで一年を終えられるかどうかがシーズンの最終打席の結果にかかっているメジャーリーグの打者たちの成績を調べると、最終打席での打率が4割6分3厘(最終打席でヒットを放つ確率が46.3%)という驚くべき結果を残しているらしい。
バリー・リソルツ(Barry Ritholtz)のこちらのエントリーより。
〔原文:“‘Round Number Bias’”(Economist’s View, October 18, 2013)/“Incentives”(Marginal Revolution, October 4, 2010)〕