●Tyler Cowen, “Schelling and Kubrick”(Marginal Revolution, October 17, 2005)
スクープだ。
〔ピーター・ジョージの小説『赤い警報』(邦題『破滅への二時間』)が書評されているシェリングの論文 “Meteors, Mischief and War”は、ロンドンで出版されている日曜紙のオブザーバー紙にも掲載された〕。オブザーバー紙に掲載されたシェリングの書評は、映画製作のためにイギリスに滞在していたスタンリー・キューブリック監督の目にも留まった。キューブリック監督は、ピーター・ジョージに早速連絡を取って、『赤い警報』を下敷きにして映画の脚本を書いてくれないかと依頼したのだった。
それからしばらくして、キューブリック監督&ピーター・ジョージのタッグは、シェリングと面会する機会を得た。核戦略の専門家であるモートン・ハルペリンとウィリアム・カウフマンも同席し、『赤い警報』が抱える「厄介な事情」をどうやって切り抜けたらいいかについて、昼過ぎから日が暮れるまでじっくりと話し合った。「厄介な事情」とは何か? 『赤い警報』が書かれたのは、1958年。それ以降に、大陸間弾道ミサイルの開発が進んだのである。爆撃機に核兵器を搭載して敵国を襲撃するという『赤い警報』のシナリオが(大陸間弾道ミサイルが核攻撃の主力となっていた)現実にそぐわなくなっていたのである。
当時のことを思い出して、シェリングは次のように語っている。「(『赤い警報』に描かれているような)忌まわしい戦争が始まるところまで無理なく話を持っていくにはどうしたらいいだろうと、みんなで頭を捻りに捻ったものです。空軍のどこかに頭のネジが飛んでいる変人でもいないと、戦争が始まるところまで話を持っていけないという結論に至りました。私たちの会話を聞いていたキューブリック監督とピーター・ジョージの二人も、『悪夢コメディ』(nightmare comedy)という路線でいくしかないかと観念したようです」。
シェリングは、真面目な作品が出来上がるのを願っていたようだ。曰く、「『赤い警報』は、ものすごく真剣な作品だったんです。滑稽なところなんて一切なかったんです」。とは言え、シェリングも映画好きな世代に属する一人。最終的に出来上がった作品――1964年に公開された『博士の異常な愛情』――にはガッカリさせられることもなく、楽しく鑑賞できたという。
シェリングは語る。「ブラックコメディに仕上げざるを得なくさせてしまったことについては、ちょっぴり申し訳なく思っています。でも、そうならざるを得なかったというのは、真相をうまく捉えているのかもしれません」。
全文はこちら。情報を寄せてくれた Paul Jeanne に感謝。他に何もすることがないようなら(暇なようなら)、ノーベル賞の受賞対象になった研究の中で映画のネタになるような例が他にないか想像を逞(たくま)しくしてみるのもありだろう。
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●Tyler Cowen, “When foundations and behavioral economists write soap operas”(Marginal Revolution, January 17, 2015)
ブレンダン・グリーリー(Brendan Greeley)がスクープを報じている。
ルピタ・ニョンゴ(Lupita Nyong’o)と言えば、映画『12 Years a Slave』(邦題『それでも夜は明ける』)での演技が評価されて、2014年のアカデミー賞で助演女優賞を受賞した女優だが、故郷のケニアで放映されたテレビドラマシリーズの『Shuga』に2009年から二シーズンにわたって出演している。『Shuga』――シーズン1&シーズン2の舞台は、ケニアのナイロビ。シーズン3以降の舞台は、ナイジェリアのラゴス――では、若くて魅力溢れる登場人物たちの間で繰り広げられる性的な関係が真正面から描かれている。人気も高くて、アフリカで暮らす5億人を主たる視聴層とする放送チャンネルで放映されている。
『Shuga』を制作しているのは、MTV社の「生き延びよう」基金。その事務局長を務めるジョージア・アーノルド氏は、次のように語る。「『Shuga』は、アフリカ版の『ゴシップガール』と言えるでしょうね。より正確には、『セックス』と『健康』にまつわるメッセージが込められた『ゴシップガール』ってことになるでしょう」。『Shuga』には、二つの目標が秘められているという。安全なセックスの推進。そして、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)にまつわるタブーの払拭である。『Shuga』は、営利的なプロジェクトではなく、ビル&メリンダ・ゲイツ財団をはじめとした慈善団体による出資で制作されている。シーズン4に突入している最中だが、最近になって制作陣に新たなメンバーが加わった。そのメンバーというのは、エリアンナ・ラ・フェラーラ(Eliana La Ferrara)。イタリアのボッコーニ大学の教授で、行動経済学と開発経済学の融合に取り組んでいる研究者だ。とは言え、脚本を書く能力が買われて声がかかったわけではない。 『Shuga』に込められたメッセージを単なるお題目に終わらせずに、現実をメッセージに沿う方向へと変えるための確たる後ろ盾になってもらいたいとの期待から、ラ・フェラーラに声がかかったのである。
他にも興味深い話題が盛り沢山だ。是非とも全文に目を通されたい。