ポール・ローマー「それでもインフレ率は低下しているように思える」(2023年3月7日)

季節性はあるかもしれません。しかしながら、前節のグラフから、我々の住む世界はノイズが多く、進化を続けているため、我々は季節性を正確に推定することはできないことがわかります。米国労働統計局の人々は、おそらく以前の季節調整は妥当なものだと考えたのでしょう。そして現在では、新しい季節調整もまた少なくとも同様に妥当であると考えているのでしょう。それでも、異なる2つの季節性の推定値は、月次インフレ率を大きく異なるものにしています。

要約

季節調整されていない食品とエネルギーを除くCPI-Uを用いると、2021年と比べた2022年10月から1月にかけての物価上昇率の平均は6.5%でした。一方で、2022年と比べた2023年の同じ4ヶ月間の物価上昇率の平均値は3.5%となり、300bp低下しました。

CPIの季節調整では何が起きているのか?

今週、先月〔こちらを参照〕掲載したインフレ率のグラフが再現できなくなったことが判明しました。どうやら訂正版を出さなければならないようで、胃が痛くなりました。私はどこで間違えたのでしょうか?

問題は私ではなかったことが判明しました。グラフが変わったのは、データが変わったからでした。2月に米国労働統計局がCPIに適用する季節調整の修正係数を変更し、その新しい係数を用いて、私がグラフに表した2022年のデータを修正したのです。

この修正は大きいです。古い調整係数を使用すると、2022年最終四半期では、食品とエネルギーを除いたCPI-Uの季節調整指数は年率3.1%で上昇しました。調整された係数を使用すると、年率4.2%で上昇し、110ベーシスポイントの増加となります。

原系列の月次インフレ率の推定値をざっと見たところ、季節的なパターンはあるかもしれませんが、ノイズが多くかつ進化が続く世界では、それらの季節性を自信を持って推定することは非常に難しいと思われます。そして、私はサプライズが好きではありません。なので今後は、季節調整前のデータにこだわることにします。

どのような季節性があるのかを知らなくても、インフレ率が下がったかどうかを確認する安全な方法があります。それは、前年の同じ月の調整前の値を比較することです。季節調整されていない食品とエネルギーを除くCPI-Uを用いると、2021年と比べた2022年10月から1月の平均物価上昇率は6.5%でした。2023年では、2022年と比べた時に、同じ4ヶ月の平均物価上昇率は3.5%で、300ベーシスポイント減少しています。

昨年12月に初めて私がインフレについて書いたとき、そのときは「どちらかと言えばおそらく、インフレ率が驚くほど低下しているだろう」と私は思っていました。2ヶ月分のデータが追加された今、低下の確率はさらに高くなったように思えます。

事態は変化することがあります。マクロ経済学において、確実なことは何もありません。しかし、もしエコノミストが世間へのメッセージを気にするのをやめて、代わりに証拠に焦点を当てることができるのならば、過去6ヵ月間にインフレ率が約300ベーシスポイント低下した可能性を真剣に考え始める時期に来ているかもしれません。少なくとも、12ヵ月平均のインフレ率は、過去6ヵ月間に起こったかもしれない大きな変化を覆い隠してしまうので、見慣れた12ヵ月平均のインフレ率の先を思い描くべき時が来たのです。

改訂がもたらした差異

次の2つのグラフは、CPI-Uの季節調整の変更に伴う影響を示したものです。1つ目は、1月に私が投稿したグラフです。これは、以前の調整係数を用いて季節調整されたデータをプロットしたものです(データの詳細は末尾の備考をご覧ください)。月ごとの数字にばらつきがありますが、5月以降は実線が下向きになっているように見えます。

食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-U、旧季節調整済み指数)

2番目のグラフは、新しい季節要因を使って調整されたデータを使っていることを除いて、まったく同じものです。その違いは明らかです。実線のトレンドがなくなっています。

食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-U、新季節調整済み指数)

ポール・クルーグマンは3月4日付のオンラインコラムで、別バージョンのCPI-U(おそらく全品目指数)で見られた同様の効果についてコメントしています。目測では、食品とエネルギーを除く指数の変化はさらに劇的です。

クルーグマンの主な論点は、インフレ率には多くの不確実性があるということです。私もそう思います。特に、正しい季節調整方法を我々は知らないため、過去4ヶ月間に計算されたインフレ率から12ヶ月間のインフレ率を推し量る方法がわかりません。

とはいえ、調整前のデータから、2022年の最後の四半期にインフレ率が相当程度低下したと結論づけることはできます。4カ月はそれほど長くはありません。事態は変化する可能性があります。過剰に反応するのではなく、データが示すものを認識すべきです。

調整前のデータ

横軸に同じスケールを用いて、次の図では、食品とエネルギーを除くCPI-Uの前月比〔年率換算〕について、調整前の原系列と2つの季節調整済みの系列を示しています。調整前のデータは、2022年5月以降、さらに大きな下落傾向を示しています。以前の調整ではトレンドから一部が取り除かれています。新しい調整では、さらに多くが取り除かれています。

食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-Uの前月比、2021年12月〜)

月次のインフレ率には、1年を通じて低下する一般的な傾向があるのでしょうか?この下降傾向は季節調整で取り除くべきものなのでしょうか?次の2021年と2020年を期間とした2つのグラフからは、そのようなことは読み取れません。

食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-Uの前月比、2021年1月〜)
食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-U、原系列〔原文ママ〕、2020年1月〜)

この最後のグラフの縦軸は、他のグラフの2倍の大きさになっていることにご注意ください。

これらのグラフには、カレンダー効果が現れているように思われる、ある兆候があります。価格は〔毎年〕1月に上昇するようです。2021年と2020年のグラフは、どちらも1月に上昇しています。横軸が 1 月から 1 月になるように 2022 年のグラフの日付を変更すると、このことは2022年においても明らかです。

食品とエネルギーを除くインフレ率(CPI-Uの前月比、2022年1月〜)

我々は季節性の真のパターンを知らない

季節性はあるかもしれません。しかしながら、前節のグラフから、我々の住む世界はノイズが多く、進化を続けているため、我々は季節性を正確に推定することはできないことがわかります。米国労働統計局の人々は、おそらく以前の季節調整は妥当なものだと考えたのでしょう。そして現在では、新しい季節調整もまた少なくとも同様に妥当であると考えているのでしょう。それでも、異なる2つの季節性の推定値は、月次インフレ率を大きく異なるものにしています。

それでも、インフレ率は低下した

季節性があったとしても、我々は、同じ暦月にまたがる2つの区間のインフレ率の変化について、偏りのない推定値を算出することができます。

最終四半期の季節調整前の〔原系列の〕データは、2021年では〔前年同月比で〕年率5.7%の物価上昇を示し、対して2022年には2.2%を示しました。350ベーシスポイント減少したのです。

1月だけを見た時には、そのインフレ率の低下幅はより小さいものになります。2022年1月の年率8.8%の上昇に対し、2023年1月は7.4%と、140ベーシスポイント低下しました。

直近の4ヶ月間(10月、11月、12月、1月)を1年前の同時期と比較すると、2021年10月から2022年1月は年率6.5%であった一方、2022年10月から2023年1月は3.5%となり、300ベーシスポイントの低下となります。

こうしたインフレ率の低下は、2022年の終盤にのみ見られます。2月から5月にかけての物価変動率を比較すると、2021年と2022年は6.75%と、小数点以下2桁まで同じです。

直近4ヶ月間のデータをもとに、2022年9月以降のインフレ率の変化幅を私が推定したところ、-300ベーシスポイントとなります。同じ単位で、私の主観的な不確実性区間は(-400, 100)といったところです。

これからどうすればいいのか?

クルーグマンが言うように、季節性に関する不確実性を含むたくさんの不確実性があり、私は不意を突かれました。従って事を急ぐべき時ではなく、より多くのデータを待ちながら、偏見や先入観のない心でいるべきでしょう。

そして、クルーグマンが提案しているように、我々が経過観察を続けている間に、物価水準の具体的な指標をいくつか選び、それにこだわることで、新しいデータから得られる情報に議論が集中するようになれば、それは有用な事でしょう。

季節調整済みデータの使用を中止するよう勧めた後で、インフレ指標をこれ以上変更しないよう求めることが、偽善的に見えることは承知しています。しかし今回の場合は、米国労働統計局がこの問題を強要したのであり、調整前のデータを調べた結果、季節調整を避けるべきという客観的な根拠は明らかであると思われます。今は、異なる年の同じ月の調整前のデータを比較するのが正しい対応です。

備考

〔下記に記載されているBLS IDは、米国労働統計局のBLS Data Finder等でデータを検索する際に使用します。〕

1. 調整前のデータ

食品とエネルギーを除くCPI-U 指数の調整前の〔原系列の〕月次値として私が使用しているインフレ指数のBLS IDは、次の通りです。

Series Id:    CUUR0000SA0L1E

Not Seasonally Adjusted
Series Title: All items less food and energy in U.S. city average, all urban consumers, not seasonally adjusted
Area:         U.S. city average
Item:         All items less food and energy
Base Period:  1982-84=100

今回の計算には、3月3日にダウンロードしたファイルを使用しました。

2. 季節調整済みデータ

私が使用した季節調整済み系列のBLS IDは、次の通りです。

Series Id:    CUSR0000SA0L1E

Seasonally Adjusted
Series Title: All items less food and energy in U.S. city average, all urban consumers, seasonally adjusted
Area:         U.S. city average
Item:         All items less food and energy
Base Period:  1982-84=100

以前の季節調整係数に基づくデータについては、1月にダウンロードしたCUSR0000SA0L1Eのファイルを使用しています。米国労働統計局のウェブサイトからそのバージョンのファイルをダウンロードすることがまだ可能かどうかはわかりません。

新しい季節調整係数を使用したデータについては、2023年3月3日にダウンロードしたCUSR0000SA0L1E用のファイルを使用しています。

3. 年率のインフレ率

任意の物価指数について、月の年率換算されたインフレ率は、その月の指数の対数値と前月の指数の対数値の差の12倍となります。

10月から12月の3ヶ月間のインフレ率の年率換算値は、3ヶ月分の年率換算値の算術平均値です。同様に、10月から1月の4ヶ月間のインフレ率の年率換算値は、4つの月次の年率換算値を算術平均したものです。

〔原文:“Still Looks Like Inflation Decreased”(Paul Romer, Tuesday, March 7, 2023)〕

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