Taneja et al.「在宅勤務でイギリスの労働市場が様変わりしつつある」(2021年3月15日)

[Shivani Taneja, Paul Mizen, Nicholas Bloom, “Working from home is revolutionising the UK labour market,” VoxEU, March 15, 2021]

【要旨】 パンデミックが始まってから,在宅勤務についての考え方・評価は大きく変わってきている.本コラムでは,イギリスで勤労世代5,000名を対象に2021年1月から2月にかけて実施した調査から得られた知見を論じる.同調査からは,イギリスの労働力のおよそ半数がいま自宅から勤務しているのがうかがえる.ポスト・コロナウイルスの勤務パターンでもっとも多く予想されているのは,週2日を自宅で勤務するかたちだ.多くの大~中規模事業者にとって,これはさまざまな含意をもつ.


COVID-19 パンデミックがもたらしうる長期的な影響として,在宅勤務(ワーキング・フロム・ホーム)が新しく普通のことになっていくことが考えうる――在宅勤務の影響は,各種の職場によってさまざまなに異なる (Adam-Prassl et al. 2020).新しいオンライン調査を用いて,2021年1月から2月にかけてイギリスの勤労世代から 5,000名を無作為に選び出して標本をつくり,これを4つの年齢層にわけた(20-29歳,30-39歳,40-49歳,50-65歳).参加者は全員が年収 1万ポンド以上にして,パートタイム従業員を除外してある.

図 1 を見てもらうと,調査に回答した人々の 52% がいま在宅勤務をしている.営業所で勤務している人は回答者の 31% にすぎない.このように,COVID-19 パンデミック下で,在宅勤務している人たちの方が,営業所で勤務している人たちよりも大きな割合を占めている.他の研究ですでに知られているように,在宅勤務は COVID-19 の影響をやわらげている  (Adam-Prassl et al. 2020).

これは,Decision Maker Panel のデータよりもわずかに高い数字だ.Decision Maker Panel のデータでは,約 41% がこの期間に在宅勤務中だと示されている.ここには,第2回の都市封鎖が影響している部分もあるし,在宅でこなせるタスクの割合がより大きい職種の従業員たちが我々の標本により多く含まれているのかもしれない  (Bartik et al. 2020, Dingel and Neiman 2020).

【図 1】 在宅勤務の頻度はどれくらいですか?(2021年2月現在)

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

さらに,回答者に次の質問をした――「COVID のあと,2022年およびそれ以降に,どれくらいの頻度で在宅で勤務日を過ごしたいですか?」 図 2 には,パンデミック以後に遠隔で働きながら勤務日を過ごす方をのぞむ回答者の割合を示してある.図を見てもらうと,両極端の回答,すなわち週ゼロ日と全日の回答が,それぞれおよそ2割を占めている.また,週2日~3日という回答も,およそ同じ割合を占めている.週1日を勤務先または自宅で過ごしたいという回答は,これらよりも少なかった.

【図 2】 2022年に,どれくらいの頻度で勤務日を自宅で過ごしたいですか?

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

コロナウイルスが収束して以降は,週2日ていどの在宅勤務を続けたいとイギリスの従業員たちは望んでいる.ただし,人々の望む在宅勤務の日数には大きなばらつきがある.これは,雇用主たちにとって頭痛の種になりそうだ――在宅勤務を週何日にするか従業員に選ばせつつ催し事や打ち合わせは〔遠隔と対面の〕混合モードでやるだろうか. しかし, 混合モードは難しいのがわかっている.さらに悪いことに,在宅勤務を選んだ人々は,昇進の観点で長期的に打撃を受けるかもしれない.幼い子供を抱えている女性など特定の人口集団が在宅勤務を選んで昇進を逃してしまうとしたら,多様性の面で大きな問題になるだろう.あるいは,従業員に選択させるのではなく,企業が強制して週2日の在宅勤務を実施するのはどうだろうか.これは,個々人の好みを二の次にして,人々の要望のあいだをとるかたちになる.人々がオフィスに戻るにつれて,管理職はこうした厄介な問題に直面しそうだ.

合衆国のデータを用いた Barrero et al. (2020b) の研究によれば,パンデミックが始まってからは,在宅勤務のスティグマ〔悪しき烙印〕が消え去ったという.イギリスの場合に,在宅勤務にともなうスティグマについて明らかにすべく,我々は調査で次の点を質問した:「COVID パンデミックがはじまってから,知り合いのあいだで在宅勤務についての受けとり方は変わりましたか?」 図 3 を見てもらうと,在宅勤務の捉え方が顕著に改善したと報告しているイギリスの回答者は 40% にのぼる.また,非常に大きく改善したと報告した回答者は 17% を占める.遠隔での勤務について捉え方がなんら変わっていないという回答は, 16% という小さな割合にとどまっている.このように,調査結果を見ると,回答者の 76% がイギリスにおける在宅勤務に関わる捉え方の改善を報告している.そうした改善の結果として,在宅勤務に関連したスティグマは消え去っている.在宅勤務がはじまる前に抱いていた考えに比べて,自分が実感したコストや便益も,人々の捉え方に数え入れられているかもしれない.この点で,在宅勤務は予想よりもよかったとわかった.

【図 3】 「在宅勤務についてのあなたの考え方は変わりましたか?」


〔※左端から,「非常に悪化した」「顕著に悪化した」「わずかに悪化した」「変化なし」「わずかに改善した」「顕著に改善した」「非常に改善した」〕

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

在宅勤務が従業員の生産性におよぼす影響

図 4 を見てもらうと,生産性への影響については人々の意見は一定のばらつきがある.平均では,在宅勤務の方がおよそ 2% 効率的に働けていると従業員たちは考えている.たしかに,パンデミック以前に懸念されていたように在宅勤務の方が顕著に効率性で劣るという証拠はない.そのうえで言うと,経済を回しつつ感染率を下げるうえで,パンデミック下で自宅から勤務できるのは決定的に重要なことがありつづけている.

図 3 に見られるように在宅勤務を従業員が望んでいることと,図 4 に見られるような生産性へのプラスの影響〔があると当人が思っていること〕が組み合わさって,企業は混合方式の勤務形態を考えるようになっている.つまり,オフィスで勤務する時間と自宅で勤務する時間とをスタッフがわける方式だ (Financial Times, 28 February).PwC,ロイズ,バークレイズ証券,BT,エーオン,バージンメディアといった大企業が実施した従業員調査からは,イギリスの従業員たちは全面的なオフィス勤務よりも混合方式の方を好んでいるのがうかがえる.405名の重役を対象にした調査によれば,中規模企業の4分の3は,オフィススペースを縮小させ,空きスペースを貸し出している (Financial Times, 4 March).オフィス建設は年間 432万平方フィートから 361万平方フィートにまで低下している.また,空きスペースは増加している.このように,在宅勤務の増加は今後も続くだろう.

【図 4】「在宅勤務をしてみて,自分の生産性はどうなったと思いますか?」

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

こうして在宅勤務が増加したことで,〔給与と別途に受け取る〕価値ある手当・特典の観点でみて,長期的な便益が従業員にもたらされるだろう.図 5 に示してあるように,パンデミック後の在宅勤務の展望について肯定的に感じている回答者が大きな割合を占めている.回答の平均をとると,週2日の在宅勤務は,収入の約 6% に相当する手当だと従業員は報告している.この点だけを見れば,働き方のこうした変化は,パンデミックがもたらした数少ないよいことのひとつかもしれない.だが,これは格差を広げることにもなるだろう.なぜなら,高収入の従業員たちほど,パンデミック収束後にも在宅勤務を続けられる見込みが大きいからだ.

【図 5】「コロナウイルスの収束後に,週2日~3日の在宅勤務をするとしたら,どう感じますか?」

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

図 6 には,ワクチンが広く利用可能になったあとの対人距離確保について回答者の見解を示してある.イギリスの従業員を対象にした我々の調査では,コロナウイルス以前の活動を全面的に再開するという回答はわずか 19% にすぎない.ここから,個々人の考え方にコロナウイルスがいかに長く影響を及ぼすかが浮き彫りになる.混雑した地下鉄やバスでの問題を報告している人々は8割を超えている.

図 6: コロナウイルス用ワクチンが承認された場合の対人距離確保についての考え方

・濃い黄色「コロナウイルス以前の活動を全面再開」… 19%
・薄い黄色「大幅に再開するが地下鉄や混雑したバスなどを懸念」… 45%
・薄い青色「部分的に再開するが,外食やタクシーの乗り合いなどを懸念」… 27%
・濃い青色「まったく再開せず対人距離の確保を続ける」… 8%

註記: データは 4,809名のイギリス在住の人々を対象にした2回の調査から得た.調査は,ノッティンガム大学とスタンフォード大学の依頼で Prolific が2021年1月および2月に実施した.労働力調査 (Labour Force Survey) の数値に合わせて,年齢・性別・教育で回答者の標本に重み付けをほどこしてある.

イギリスでは,職場復帰の日程について不確かなことがいくらか残っているものの,パンデミック収束後も多くの人々が在宅勤務を継続するのは確からしく思われる.


参照文献

  • Adam-Prassl, A, Boneva, M Golin and C Rauh (2020), “Working from home: The polarising workplace”, VoxEU.org, 2 September.
  • Baldwin, R (2020), “COVID, hysteresis, and the future of work”, VoxEU.org, 29 May.
  • Barrero, J, M, N Bloom and S Davis (2020a), “60 million fewer commuting hours per day: How Americans use time saved by working from home”, VoxEU.org, 23 September.
  • Barrero, J, M, N Bloom and S J Davis (2020b), “COVID-19 and labour reallocation: Evidence from the US”, VoxEU.org, 14 July.
  • Bartik, A W, Z B Cullen, E L Glaeser, M Luca and C T Stanton (2020), “What Jobs are Being Done at Home During the COVID-19 Crisis? Evidence from Firm-Level Surveys”, NBER Working Paper 27422.
  • Dingel, J, and B Neiman (2020), “How many jobs can be done at home?”, NBER Working Paper 26948.
  • Financial Times (2021), “Employers aim for hybrid working after Covid-19 pandemic”, 28 February.
  • Financial Times (2021), “UK businesses think big about smaller office spaces”, 4 March.
  • Taylor, K and R Griffith (2020), “Who can work from home and how does it affect their productivity?”, Economics Observatory, 23 May.
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