タイラー・コーエン 「20世紀最高の詩人と言えば誰?」(2004年7月12日)/「全体主義体制の興味深き『協力者』と言えば誰?」(2010年8月19日)

●Tyler Cowen, “The greatest poet of the twentieth century?”(Marginal Revolution, July 12, 2004)


今は亡きパブロ・ネルーダ(Pablo Neruda)の名前を(20世紀最高の詩人と呼ぶに値する)候補に挙げたとしても馬鹿げてはいないだろう(イェイツだとか、ウォレス・スティーヴンズだとかも強力なライバルだ。リルケも忘れてはいけない。個人的にはリルケを一番に推すだろう)。ちなみに、今日(2004年7月12日)は、ネルーダが生きていたとしたら100歳の誕生日にあたる日だ。ネルーダに対する評価は、こちらの記事をご覧になられたい。こちらのページ [1] 訳注;リンク切れ。代わりにこちらをご覧になられたい。でネルーダの詩が三作品ほど英訳されているが、大抵の詩は別の言語にはうまく翻訳できないものだ。ネルーダの(翻訳されたものよりもずっと優れている)オリジナルの(スペイン語で書かれている)詩のコレクションは、こちらのページをご覧あれ。

ところで、疑問に思っていることがある。ネルーダもそうなのだが、数多の芸術家がスターリンに好意を寄せていたのはなぜなのだろうか?

・・・(略)・・・ネルーダは、熱狂的な共産主義者になっていた。ネルーダは、西洋の帝国主義を難詰する教訓詩――心からの思いが込められてはいるものの、その点を除くと出来がいいとは言えない作品――を長年にわたって数多く発表している。ネルーダの共産党に対する大げさな称賛ぶりは甘めに見てもウブそのものに思えるし、スターリンへの敬愛ぶりとなると理解し難いところがある――ネルーダは、スターリンを一度たりとも非難していない――。オクタビオ・パスだとか、チェスワフ・ミウォシュだとかとは、共産主義をめぐる意見の違いが原因で絶交しているほどだ。亡くなるほんの数日前に出来上がった回想録では、自らのことを「一介の無政府主義者」と呼んでいるが、実態により近い自己認識と言えそうだ。「自分が好きなことは何でもやる」性質の人間だとも(同じく回想録の中で)語っている。

ネルーダは社会活動や政治活動にも深く関与していて、その方面の活動は彼の人生や作品にとって重要な意味を持っている。1945年に上院議員に当選し、チリ共産党に入党。翌年(1946年)の大統領選では、ガブリエル・ゴンサレス・ビデラの応援に回り、ビデラは無事当選。しかしながら、ビデラ大統領は共産党を非合法化するに至る。ネルーダはそのことでビデラ大統領を公然と非難し、1948年に危険な扇動家であるとして反逆の罪に問われる。逮捕令状が出されると地下へ身を潜め、しばらくしてアルゼンチンに逃亡。その後は、イタリア、フランス、ソ連、アジアを転々とする(ネルーダは国外逃亡中にイタリアのナポリ湾に浮かぶカプリ島に一時滞在しているが、その時の体験をモデルにして制作されたのが感動的な映画の『イル・ポスティーノ』)。

政治学や社会学の分野における「5つの大いなる疑問」というのがあるとしたら、「知識人たちがスターリニズムに惹かれたから」というのがいずれかの疑問への答えになるに違いないと思う。

(追記)トム・マイヤーズによると、今日(2004年7月12日)は鄧小平の(生きていれば)100歳の誕生日でもあるようだ [2] 訳注;鄧小平の生年月日は、1904年7月12日ではなく、1904年8月22日のようだ。。7月12日生まれの有名人のリストは、こちらをご覧あれ。

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●Tyler Cowen, “Who are the interesting collaborators?”(Marginal Revolution, August 19, 2010)


本ブログの読者の一人である(忠実な読者かどうかは不明の)Pensans から次のような質問を頂戴した。

全体主義体制の「協力者」(collaborator)について系統的に検討してみるというのはいかがでしょうか? 自らの政治的な立ち位置がまだはっきりと定まっていない読者のために、貴殿が紹介しておきたいと思うような全体主義体制の宣伝役(全体主義体制を擁護するプロパガンダを流した知識人)をブログで詳しく取り上げるわけです。そんなことをすると、貴殿の強烈な自由主義思想が読者に及ぼすショッキングな効果の邪魔になってしまうでしょうか?

お試ししてみる――あるいは、その思想を自分の内部に取り入れてみる――価値がある(全体主義体制の)「協力者」の名前を思い付くままに列挙してみると、以下のようになるだろう。

マルティン・ハイデッガーパブロ・ネルーダジャン=ポール・サルトルジャン=リュック・ゴダールスーザン・ソンタグエズラ・パウンドエリック・フォーナーエリック・ホブズボーム。カストロを擁護した面々の名前は思い出せないが、賢い人の中にも該当者はたくさんいる。

The Essential Stalin』の編者でもあるH・ブルース・フランクリン(H. Bruce Franklin)はあっぱれな教師であり、私も彼から顕著な影響を受けている。

奴隷制なり強権的な帝国主義なりを擁護した西洋の知識人や建国の父のリストは、長くなるだろう。奴隷制にしても帝国主義にしても正確には「全体主義」とは言えないだろうが、その犠牲者たちにとっては一種の全体主義のように――あるいは、それよりも酷く――感じられたこともしばしばだったろう。

References

References
1 訳注;リンク切れ。代わりにこちらをご覧になられたい。
2 訳注;鄧小平の生年月日は、1904年7月12日ではなく、1904年8月22日のようだ。
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