タイラー・コーエン 「『蜂の寓話』再訪」(2012年10月4日)/「絶滅の危機に瀕しているのはミツバチではなく養蜂家?」(2015年8月9日)

●Tyler Cowen, “The new Fable of the Bees literature”(Marginal Revolution, October 4, 2012) [1]訳注;原エントリーのタイトルの一部にもなっている「蜂の寓話」(Fable of the … Continue reading


American Journal of Agricultural Economics 誌に掲載されたばかりの論文を紹介するとしよう。著者は、ランダル・ラッカー(Randal R. Rucker)&ウォルター・サーマン(Walter N. Thurman)&マイケル・バーゲット(Michael Burgett)の三人。論文のアブストラクト(要旨)は以下の通り。

送粉サービス「市場」の中で世界で一番規模が大きいのは、アメリカ国内における(養蜂家に飼育されている)ミツバチによる送粉サービス「市場」 [2] … Continue readingである。各地を転々とする転地養蜂業者たちは、蜂蜜を生産する(採蜜を行う)と同時に、「野生の花粉媒介者」の代わりとなるサービス(飼育しているミツバチによる送粉)も移動する先々で提供しているが、ミツバチによる送粉サービス市場は、そんな彼らの行動――採蜜を行うタイミングなり場所なりの決定――を調整する重要な役割を果たしている。本稿では、転地養蜂業者を突き動かす経済的な要因を分析する。具体的には、ミツバチによる「送粉サービス」を享受するのと引き換えに農家が転地養蜂業者に対して支払う「送粉代」の決定要因――蜂蜜の市場価格、ミツバチに寄生するダニ(ミツバチヘギイタダニ)の襲来、ディーゼル燃料の価格など――について、理論的および実証的な観点から分析を加える。本稿では、従来の研究よりも大規模で豊富なデータを使って分析を行っているが、本稿で得られた実証的な結果は、送粉サービス市場なり「外部性を内部化する」のに貢献している制度なりについての理解を深める一助になるだろう。

スティーブン・チュン(Steven Cheung)が先鞭をつけた研究の流れに連なる論文であり、その伝統のさらなる発展に寄与する試みだと言えよう。入念で思慮深い分析が加えられている。こちらの記事で内容が的確に要約されているので、あわせて参照されたい。

関連する論文として、こちら(pdf)やこちら(pdf)も参考になるだろう。

情報を寄せてくれた Michelle Dawson に感謝。

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●Tyler Cowen, “The new Fable of the Bees”(Marginal Revolution, August 9, 2015)


リア・ソティーレ(Leah Sottile)がワシントン・ポスト紙に寄稿しているこちらの記事は、実に素晴らしい。所々(ところどころ)引用するとしよう。

しかしながら、ミツバチの大量死が今もなお尋常ならざるペースで続いている州もある。・・・(略)・・・オハイオ州立大学(のハチ研究所)が発表しているHoney Bee Update(「ミツバチ最新情報」)によると、オハイオ州では、昨年の冬の間に、養蜂家たちが管理している(ミツバチの)コロニー [3] 訳注;一つのコロニー(群)は、「1匹の女王蜂&数百匹のオス蜂&数万匹の働き蜂」によって構成されている。の80%が失われたという。

・・・(略)・・・この悪い流れを断ち切る(ミツバチの大量死を食いとどめる)ためには、創造力に富んだ養蜂家(innovative beekeepers)の存在が決定的に重要になってくると語る研究者もいる。

オレゴン州立大学ミツバチ研究所で主任研究員を務めているラメッシュ・サギリ氏は語る。「『ミツバチってもうすぐいなくなってしまうんでしょうか?』と会う人会う人に尋ねられるものです。私としては、ミツバチが絶滅するおそれはないと考えています。それよりも、養蜂家がいなくなってしまうんじゃないかと心配なんです」。

養蜂を生業とするプロの養蜂家の数は減る一方。それに伴ってますます大きな役割を果たすようになってきているのが、趣味でミツバチを飼育している「創造力に富んだミツバチ愛好家」だという。

デヴォン・プレスコット(21歳)は語る。「立派なミツバチを育て上げるのが、僕の『社会的責任』だと感じています。自分が果たしている役割を思うと、嬉しくなってきます」。

・・・(中略)・・・

50年前はミツバチの健康管理についてこんなにうるさくなかったと語るのは、ミネソタ大学で昆虫学を研究するマーラ・スピヴァク氏。「昔は、ミツバチを飼うのも非常に簡単だったんですよ。養蜂箱の中に放り込んでおけばよかったんです。そうしておけば、放っておいても蜂蜜を作ってくれたし、勝手に生きてくれたんです。それが今では、ミツバチを飼うのに細心のマネージメントが必要になっています」。

素晴らしいキャラクターの持ち主が何人も登場してくるが、その一例を紹介しておこう。

ヘンリー・シュトルヒ(32歳)は、養蜂こそが自分の天職だと感じてこの世界に足を踏み入れた。前職は、蹄鉄工。馬に蹄鉄を履(は)かせる仕事をあのまま続けていたら、今よりも稼(かせ)げていたろうと語る。しかし、5年前に突然天啓が下ったという。自分なら誰よりもミツバチを立派に育て上げることができるという思いにとらわれて、そのことで頭がいっぱいになったというのだ。・・・(略)・・・インタビュー中に一匹のミツバチがシュトルヒの上唇を刺したが、シュトルヒは少しもたじろがなかった。

・・・(略)・・・シュトルヒが山中で鍛え上げた「生き残り」のミツバチたちは、まるで野生の牛のようだ。タフで、がっちりしている。カリフォルニアのアーモンド農園に送り出しているミツバチたちとは違って、健康管理に細かく神経を使う必要もない。農薬も遺伝子組み換え技術も使わずに食品を栽培する(オーガニック食品を栽培する)のに似ているかもしれません、とはシュトルヒの言だ。

いいニュースもある。

ミツバチの大量死が続いている間も、養蜂家たちは無我夢中で踏ん張り続けた。飼育しているミツバチたちを守り抜くために。自らの生活を守り抜くために。

その努力も報われたようだ。米国農務省が発表した最新のデータによると、養蜂家たちが管理している(ミツバチの)コロニーの数が増加傾向に転じたようなのだ。全米におけるその数は、2014年の時点で270万コロニーにまで達しているという。過去20年間で一番の多さだ。

お薦めの記事だ。この問題について俯瞰(ふかん)して考えてみたいようなら、本ブログでもミツバチのことは過去に何度も取り上げているので、参考にしてもらえたらと思う。

References

References
1 訳注;原エントリーのタイトルの一部にもなっている「蜂の寓話」(Fable of the Bees)というのは、マンデヴィルの本ではなく、(本文中でも言及されている)スティーブン・チュンの論文――“The Fable of the Bees: An Economic Investigation”(pdf)――を意識したもの(とは言え、チュンの論文のタイトルは、マンデヴィルの本を意識して付けられているのだけれど)。養蜂家が飼っているミツバチは、花の蜜を集めるだけでなく、花の受粉を媒介する役割も果たしている。リンゴを例にとると、養蜂家が飼っているミツバチは、リンゴの花の受粉を助けることを通じてリンゴの生産にも一役買っているわけである。リンゴ農家にとっては棚から牡丹餅(ぼたもち)なわけだが、経済学的にはミツバチはリンゴ農家に対して「正の外部性」を及ぼしていることになる。教科書的な議論では、「正の外部性」を及ぼす財ないしサービスの供給は過小気味になって(「市場の失敗」)、政府の介入が要請されることになるわけだが、スティーブン・チュンは件の論文でそのような説に異を唱えている。当事者間――今の例だと、養蜂家とリンゴ農家との間――での自発的な交渉を通じて「正の外部性」の問題が解決される可能性がある、というのである。その一例が本文中に出てくる送粉代の支払い。
2 訳注;植物や穀物の受粉を助ける花粉媒介者(ポリネーター)としてのミツバチが提供する「送粉サービス」が売り買いされる市場。「送粉サービス」の享受者である農家から「送粉サービス」の送り手である養蜂家(ミツバチの飼い主)に対して、ミツバチによる「送粉サービス」の代金として送粉代が支払われる。
3 訳注;一つのコロニー(群)は、「1匹の女王蜂&数百匹のオス蜂&数万匹の働き蜂」によって構成されている。
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