タイラー・コーエン 「『進歩』の担い手としての巨大企業」(2019年5月4日)

アメリカの歴史を振り返ると、巨大企業が『進歩』を後押しする強力な原動力の役割を担った例が多いことに気付かされる。世の人々に働く場を提供するというかたちを通じてだけではない。巨大企業は、差別や抑圧に苦しむ人々に手を差し伸べる一連の慣行なり、規範なりの定着に一役買ってもいるのだ。

ワシントン・ポスト紙に掲載されたばかりの拙稿――拙著の『Big Business:A Love Letter to an American Anti-Hero』(邦訳『BIG BUSINESS:巨大企業はなぜ嫌われるのか』)からの抜粋――の一部を引用しておこう。

しかし、である。アメリカの歴史を振り返ると、巨大企業が『進歩』を後押しする強力な原動力の役割を担った例が多いことに気付かされる。世の人々に働く場を提供するというかたちを通じてだけではない。巨大企業は、差別や抑圧に苦しむ人々に手を差し伸べる一連の慣行なり、規範なりの定着に一役買ってもいるのだ。

例えば、同性婚は合憲であるとの判決が連邦最高裁判所によって下されたのは2015年のことだが、マクドナルドやGE(ゼネラル・エレクトリック)、P&G(プロクター・アンド・ギャンブル)、巨大IT企業の多くは、それよりもずっと前の段階から、異性間の夫婦に対するのと同じように、自社で働く同性どうしのカップルにも、医療費の補助をはじめとして法律で定められた様々な給付を行っていた。巨大企業の数々によるかような措置は、数多くの同性愛者の暮らしを大いに改善するだけでなく、同性婚というアイデアそれ自体にお墨付きを与える格好ともなったのである。

もう一箇所だけ引用しておこう。

巨大企業が寛容さを発揮する傾向にあるのは驚くにあたらない。それというのも、巨大企業は、ブランドネームの価値を気にしているからであり、市場規模の維持・拡大を重視しているからだ。特定の顧客層の気分を害したり、特定の顧客層に「我々は差別されている」と感じさせたり、特定の顧客層に不満を抱かせたりするのは、巨大企業の望むところではない。ソーシャルメディアが普及している今のような時代においては特にそうだ。

規模が大きな会社ほど、従業員や顧客の好みに敏感であろうとする(寛容であろうとする)傾向にある。町の(個人経営の)パン屋であれば、ゲイのカップルから結婚式用にウェディングケーキを作ってくれと頼まれても、宗教上の理由でそれを拒むということがあるかもしれないが、ケーキの販路を全米に広げようと意気込む食品大手のサラ・リーであれば、注文主が誰であろうとケーキの販売に熱を入れることだろう。規模が大きな企業ほど、遠くまで拡散する評判を守る必要性が高いし、有能な働き手を出自にこだわらずにできるだけたくさん引きつけねばならない必要性も高い。ごく限られた範囲の顧客だけを相手にしているようでは、雇い入れる従業員の範囲を狭めているようでは、ビジネスの世界では生き抜いていけないし、大きく成長することもできないのだ。

記事では他にも色んな論拠を挙げて論を展開している。


〔原文:“The progressive nature of big business”(Marginal Revolution, May 4, 2019)〕

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