ジェイソン・コリンズ 「都市の速度 ~せっかちな都市、のんびりな都市~」(2011年1月10日)

人口が多い都市ほど、歩行者の歩く速度が速いようだ。それはなぜ?
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週末に、Radiolabのポッドキャストを聞いていた。私が聞いたその素晴らしい回では、ボブ・レヴィン(Bob Levine)が道を行き交う人々の歩行速度についてインタビューを受けていた。レヴィンによると、規模が大きい(人口が多い)都市ほど、歩行者の歩く速度が速い傾向にあるらしく、その傾向は驚くほど一貫しているとのこと。都市ごとの歩行速度の違いは一体何に由来しているのだろう? 聞き手役のジャドが投げかけている問いを繰り返すと、人が都市を作るのだろうか? それとも、都市が人を作るのだろうか?

この方面の研究の先鞭(せんべん)をつけたのが、ボーンスタイン(Marc H. Bornstein)&ボーンスタイン(Helen G. Bornstein)だ。彼らの研究では、1972年~1974年までの期間を対象に、ヨーロッパ、北アメリカ、アジアにある15カ国の歩行者の歩く速度が測られている。具体的には、それぞれの都市の似たような条件を備えている繁華街を荷物を持たずに一人で歩いている人がどのくらいの時間をかけて50フィート(15.24メートル)を歩き切るかが測られている。

歩行速度が一番遅かったのは(ギリシャの)イテア(総人口2,500人)で、50フィートを歩き切るのに平均で22秒かかったという。 その一方で、総人口が100万人を超える大都市である(チェコの)プラハだと、歩行者が50フィートを歩き切るのにかかった時間は平均でたったの8.5秒だったという。歩行速度と人口数の対数値の間には強い正の相関が見出されている(相関係数は0.91で、有意水準0.001で有意な結果が得られている)。その傾向は驚くほど一貫していて、外れ値は見当たらない。例えば、人口数で上から5番目までの都市のどれをとっても、人口数で下からの5番目までの都市のどれよりも歩行速度が速いのだ。

かくも一貫した傾向が見られるとなると、いくつかの疑問が湧いてくる。ボーンスタイン&ボーンスタインが調査した15の都市に限ると外れ値は見当たらないとしても、その15の都市以外にも目を向けたとしたら外れ値となるような都市が見つかるだろうか? そういう都市が仮に見つかったとして、そうなる理由は? 15の都市に話を限っても結果に微妙なばらつきが見られるが、そのばらつきが生まれる理由を説明できるだろうか? ボーンスタイン&ボーンスタインの論文が発表されてからというもの、幾人もの研究者がたった今挙げたような疑問に取り組んできている。その詳細についてはまた後日にでも取り上げたいと思う。

人が多い大都市ほど、歩行者の歩く速度が速いという一貫した傾向が見られるのはなぜなのか? ボーンスタイン&ボーンスタインは、人口密度ではなく人口数それ自体が鍵を握っていると見なした上で、 ミルグラム(Stanley Milgram)の説に乗っかるかたちで次のように説明を加えている。都市にいる人の数が多くなるほど、外(周り)からの刺激も大きくなる。感覚への過剰な負荷を抑えようとする結果として、外からの過剰な刺激から我が身を守ろうとする結果として、歩く速度が速まる。すなわち、都市ごとの歩行速度の違いは、外からの刺激に対する適応の必要性の違いによって生まれるというわけだ。

興味深い説だし、もしかしたらその通りなのかもしれないが、他にも二つほど関わりがありそうな効果が頭に浮かぶ。まず一つ目は、選抜効果だ。人はなぜ今いる場所に住もうと決めたのだろう? 人が多い大都市にはせっかちな(ペースの早い)ライフスタイルがしっくりくる人が集まってくる一方で、のんびりした(ペースの遅い)ライフスタイルがしっくりくる人が寄ってこないということになっているのかもしれない。そもそもせっかちな性質(たち)だから、歩く速度も早いというわけだ。「人が都市を作る」という面があるかもしれないわけだ。もしも選抜効果が働いているのだとしたら、ボーンスタイン&ボーンスタインが説く「刺激効果」は弱められることになるかもしれない。そもそも刺激を求めて人が多いところにやって来ていることになるのかもしれないのだから。外からの刺激から我が身を守ろうとするのであれば、そこから去るのが一番簡単な方法なのだ。

二つ目の効果には、時間の機会費用が関わっている。歩行者が目的地に少しでも早く着こうとするのはなぜなのか? 人口が多い都市ほど豊かな傾向にあるが、豊かな都市ほど1秒1秒に備わる金銭的な価値も高くなる。人口が多くて豊かな都市ほど娯楽が多くてその質も高いようなら、少しでも早く(あるいは、時間通りに)その場に着く方がちんたらしていて遅れるよりも得られる満足の金銭的な価値は大きいだろう。


〔原文:“The speed of cities”(Jason Collins blog, January 10, 2011)〕

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